第4話 魔法少女の性格が良いなんて、誰が決めたの

 「うーむ、これはひどい……」

 ロキは唸った。

 「ははあ……えらいところに来てしまった」

 田中は転位魔法でずり落ちた眼鏡を押し上げた。


 村長サモンドの懇願を受け、勇者ロキはホルビタ村に駆けつけたのである。

 さすが勇者、頭にちょっと二本の指をつけて呪文を唱えると、一瞬で転位テレポーテーションしてしまった。


 二人の目の前には襲撃を受けた村があった。

 やわらかなヒースが生えたなだらかな丘を中心に、屋根に植物が生えた独特の家が立ちならぶ平和な村の筈だが、方々から煙突からではない黒煙が上がっていた。

 風に乗って者が燃える焦げ臭いにおいがする。

 特にひどいのは、村の中心部だった。残骸と化した赤い屋根の建物が片側の壁だけを残して建っている。無くなった部分はリンゴの様に齧り取られていた。建物の中には小さな机といすが散らばっている。人間でいえば子供のおもちゃのようなサイズだ。

 ハーフリングとは、人間と妖精の中間に位置する種族である。いわゆる、あれだ。ホ何とかいう奴。著作権の問題があるのであまり出せないのだが。


 「ここは、子供たちの学校なんです……」

 村長のサモンドはうなだれた。

 「襲われた時には、子供たちと、学校の教師が一人、ちょうど授業をしていました……みんな、いなくなってしまいました。」

 「何て卑劣な奴だ。子供たちをさらうなんて……」

 ロキは拳を握りしめて睨んだ。彼は感情が高ぶると目の奥に炎のような赤い光が浮かぶのだった。


 おっと失礼、田中の説明を忘れていた。

 何でこの何の役にも立たないサラリーマンがついてきたのか?

 賢明なる読者諸氏ならわかるであろう。

 そう、ウィンディエルの前で見栄を張っただけである。

 「勇者の仕事っぷりをちょっと覗いてきましょう、何、心配には及びませんよ。私も噂になる男!」というわけだ。

 さすが後先を考えないノリと野次馬根性の権化。

 兎に角、正真正銘本当に危険な現場に、ひょっこりついてきてしまった田中なのである。

 田中はきょろきょろと辺りを見回していた。

 なかなか風光明美な場所であるが、建物の雰囲気は、どこかの何とかランドのカートゥン街とやらに似ていないでもない。田中のソウルメイト、山田がライトノベル読者のぼったくりツアーを企画していたが、連れて来るならこんな場所がもってこいであろう。

 そんな不謹慎なことを考えている田中をよそに、ロキと村長はまじめに相談していた。


 「一体、何者がこんな非道なことをしたんですか? 手がかりや心当たりは?」

 「実は、勇者様……この近くの呪い沼という場所をご存知ですか? あそこに最近住み着いた者がいるのです」

 「ああ……、確か、モードレット卿の館が昔あったという場所でしたか……ですが、すっかり廃墟になって、幽霊どもくらいしか立ち寄らない場所でしょう?」

 「噂では、1か月ほど前から。闇の魔法使いが住み着いたのだとか……」

 「闇の魔法使い?」

 「西の魔法院に所属しない、はぐれ魔法使いですよ。村の者が森に薬草を採りに行った時に、見かけたらしいのです。その後から、村の周りに不気味な影がうろつくようになったとか。子供たちの遊び場や、女性の洗濯場で、黒いローブをまとった謎の男を見かけるようになったのです。もちろん、その男が呪い沼に住んでいる男と同じという証拠はないのですが……」


 「ただの変質者かもしれませんなぁ。ピンポンダッシュとか、コートを着た全裸の男だとか、女性の下着が無くなるとかはありませんでしたか? それに、警察には通報しなかったのですか?」

 何故か自然に会話に入ってくる田中であった。


 「え? ピンぽ? 全裸? 下着ですか? いや……それは無かったような、あったような……あのー、あなたは誰ですか?」

 「……説明は難しいのですが、異世界から来たニンゲン族の人です。魔王歓迎の儀で活躍した……」

 ロキが説明した。

 活躍という言葉を聞いて、少し鼻息が荒くなる田中である。早速45度の挨拶で名刺を渡すが、この世(?)語の読めないサモンド村長にとっては何のことやらの奇態な儀式であった。


 「ああ……そういえば、そんな噂を聞きましたよ。あなたがあの? 照り焼きにして食べられるところだったとか」

 「いや、それは別の奴です。いや、まあいいや。お話をどうぞ」

 山田と間違えられた田中は不満そうだったが、そんな馬鹿話をしている場合でないので、ロキは話を先に進めた。


 「そんなことで王都の兵隊に報告しても、動いてくれるはずはないですし、自警団を作ろうという話になっている矢先の出来事でした。昼頃、突然不気味な笑い声が村中に響いたかと思うと、空が真っ暗になって……黒い竜巻が起こって……気づけばこの有様です。」


 「うーむ。何が目的なんだろう。名前は名乗らなかったのですね?」

 「はい、ただ、高笑いばかりを残して去っていきました。ですが、竜巻の去って行った方向が……」


 「そうです、呪い沼の方向でした」

 後ろから澄んだ少年の様な声がした。


 「……おお、リアム!」

 田中たち三人が振り返ると、そこには人間基準では完全に少年にしか見えない――ハーフリングで言えば成人なのだが――若者がいた。

 リアムと呼ばれた若者は緑色のマントを羽織り、手に羊飼いの杖を持っていた。小さな毛むくじゃらの犬を連れている。犬とヒツジのあいのこのような姿をしていたが、大きさはポメラニアンくらいである。

 「今、呪い沼の方に偵察に行ってきました。木々がなぎ倒され、地面には足跡があります。間違いありません。バフに臭いを追わせて確認しました。」

 バフというのは犬の名前であろう。犬はワン、と小さく吠えた。


 「何と! おまえ、一人で行ったのか!? 何て危険なことを! 私はあれほど村で待っているように言ったじゃないか」

 「叔父さん、僕は待っていられません。こうしている間にもマリエルがひどい目にあわされているのかと思うと……」

 リアムは唇を咬んだ。


 「マリエルさんというのは?」

 ロキが尋ねた。

 「勇者様、実は、さらわれた学校の教師というのは、私の甥の許嫁なのです」

 「それは……さぞかしご心配でしょう」

 ロキの瞳の奥に、再び炎が宿った。


 「許嫁ですか? そんな子供なのに?」

 ホモサピエンス・田中から見てもリアムは子供にしか見えない。


 「こう見えて僕は二十二歳です。フワモコの飼育も軌道に乗ってますし、十分大人です」

 「いや、少々早いとは思うがな。しかし、お前たちは幼馴染だからなあ。」

 村長は口元に笑みを浮かべた。思えば会ってから初めて見る笑顔である。緊迫の状況だったのだ。


 「ロキさん、フワモコとは何ですか?」

 「家くらいある大型の哺乳類です。乳も取れるし、毛は珍重されていますので、刈ると織物の材料になります。この地方の気候に合った生き物ですよ」


 何だかよく分からないが、羊と牛の合いの子みたいな生き物であろう。しかし、家くらいあるってどういうんだ。


 なるほど、酪農家か。ロキの答えに田中の眼鏡が意地悪に光った。

 「ほほう、いや、将来のことをよく考えていらっしゃる。立派ですなあ。固定収入のある職業を選び、将来の伴侶も決めている。浮き草暮らしとは違う。偉い! プロポーズもできない最近の草食男子とは違いますな」


 明らかにロキへの嫌味である。ロキは微妙に気まずい顔になったが、村長とリアムには何のことかわからなかった。


 「とにかく、勇者様、呪い沼に来てください。僕が案内します」

 リアムは杖を握りしめた。

 ロキは腕を組んで少し考えていた。

 「気持ちは分かりますが、十分な準備をしましょう」

 「えっ?」

 リアムはこの言葉に少し驚いていた。婚約者を連れ去られた焦りもあるのだろう。

 「まず、相手が誰かです。村をこれだけ破壊する――かなり強力な魔法使いです。専門家に聞いて、対策を立てます」


 どうやらロキ、猪突猛進の体育会系ではなく冷静さも持ち合わせているようだ。田中の面接官評価アイが光る。


 「ですが、急がないと……」

 「もちろんです。すぐ来られる人間をかき集めます」

 言いながら、ロキは服の襟首を探り、首に下げた水晶のペンダントを取り出した。大きさはウズラの卵ほどである。

 むむ、光物を身につけるとは、こいつ意外とナンパな奴か?

 再び田中の面接官評価アイが光る、って、お前は何様だ。


 「……クルセイデル、クルセイデル?」

 低い声で呪文を呟き、ロキは何者かに向かって呼びかけた。


 『なあに? ロキ?』

 ほどなくして水晶から女性の声が返ってきた。携帯電話みたいなもののようだ、と田中は納得した。

 「クルセイデル! 至急力を貸してくれないか? ホルビタ村で事件だ!」

 『至急? 私、今、魔法院で講義中なんだけど……でも、他ならぬロキの頼みなら、仕方がないわね。ちょっと待っててね』

 何だか鼻にかかった甘い声である。


 「クルセイデル? もしかして、クルセイデルとは、あのクルセイデルですか?」

 サモンド村長は驚きながら尋ねた。

 「叔父さん、クルセイデルって誰ですか?」

 「西の魔法院始まって以来の天才魔女だよ! 噂では百以上の新しい魔法を発明したと言われている! 最年少で魔法院の教授になったということだが……」

 「そうです、私の友人です」

 ロキは頷いた。


 少し待てといった割には、なかなかクルセイデルは来なかった。聞けば、西の魔法院とは他の国にあるという。


 「なかなか来ませんなあ」

 そう田中が言うや否や、頭上で一陣のつむじ風が起こった。田中の毛髪は逆立ち、メガネは飛んでいく。慌てて地面に伏して眼鏡を拾い上げようとした田中の背中に、急激に何かの重量が加わった。

 「ぐげっ!」


 「お待たせ! ロキ! あら? この、ヒキガエルみたいにつぶれているのは何かしら?」

 それは、踏みつぶされた田中。背中の上から少女の声がする。


 「やあ、クルセイデル、急に呼び出して済まない」

 「あ! ロキぃ!」

 ロキの詫びの言葉の舌の根の乾かぬ内に、背中の物体――少女は田中を蹴り飛ばした。

 「ぐげっ!」

 もんどりうった田中は茶色くて臭いものに顔を突っ込んだ。

 「あっ! こんなところにフワモコの糞が!」

 リアムの声がする。

 茶色にあちこちを染めながらも、とりあえず眼鏡をかけて顔を上げた田中が見たのは、ロキに抱きつく魔女姿の女子中学生だった。

 いや、女子中学生くらいの魔女というべきか。黒いとんがり帽子に、黒いマント、黒いミニスカートのワンピース。黒づくめで、波打つ髪の毛は燃えるような赤色である。緑色の目をした美少女であった。

 

 「しばらく会えなくって、淋しかった!」

 女子中学生、いや天才・魔女娘まじょっこ、クルセイデルはロキにしがみついて体を擦り付けていた。

 「あ、こら、クルセイデル。再会は嬉しいけれど、話を聞いてくれ」

 「えー! でも、ロキがそういうなら、いいよぉ」

 クルセイデルはゆっくりロキから体を離すと、ハーフリングの二人に笑顔で挨拶した。

 「あら、こんにちは。ハーフリングさん」

 「こちらは……」

 ちらりと田中を一瞥する。

  田中は戦慄した。

  クルセイデルの目は、汚物を見るような目、まさに、娘の彩音が自分を見るときの眼差しと同じであった。

 「うっ! 悪寒が……」


 「異世界から来た、ケーイチさんだよ、クルセイデル」

 ロキが紹介した。

 「こんにちは、私、田中恵一と申します! 以後お見知りおきを!」

 営業一筋二十年、窓際族の勇者、何を恐れることがあろうか。冷たい視線の一つや二つに負けてはいられないのである。

 四十五度のお辞儀から、音速(嘘)の名刺交換!

 田中は名刺を両手でピタリと差し出した。


 「ふーん」

 クルセイデルは親指と人差し指で名刺をつまみ上げた。

 

 ぬぬ……小娘め、無礼な……

 内心忸怩たる思いの田中である。もちろん顔には出さない。

 まあ、田中はフワモコの糞だらけなのでこれについては少し同情するところもある。


 「……ニコニコ商事、営業3課、課長代理補佐、ねぇ。何この肩書き?」

 クルセイデルは名刺の文字を読み上げ、眉をひそめて首を傾げた。

 

 「えっ!? あなた、この字が読めるんですか?」

 「さすがクルセイデル様! はじめてお目にかかります。私、ホルビタの村長、サモンドと申します」

 「僕は、リアムです」

 「こんにちは、サモンドさん、リアムさん」

 クルセイデルはハーフリングの二人とは固い握手を交わした。魔法使いとは尊敬される存在らしく、ハーフリング二人は片膝をついて敬意を表している。

 「事情はこの光景を見れば、大体わかりましたわ。少し調査をさせて下さい」

 「調査? 俺も手伝おう」

 「いいのよ、ロキ。ロキは休んでいて」

 「しかし……」

 「ううん、いいの。異世界の話も聞きたいし、田中さんに手伝ってもらいたいの。ねえ、課長代理補佐」

 クルセイデルは田中の方を向いてニヤリと笑った。明らかにこの肩書きが意味するところ――窓際族であるということを知っている顔だった。


  ***


 「ほらほら、次はあそこにある消し炭と犬の糞を取って来なさいよ! 課長代理補佐!」


 クルセイデルは顎で田中を使い、瓦礫となった村の建物の周りで、様々なサンプルを集めていた。それにしても、ロキの前にいるときとは口調も態度も全く違う。ほとんど二重人格と言ってもよい。どうもこちらが本当のクルセイデルの様ではあるが、分かりやすいと言えば分りやすい。要はロキに気があるのだ。


 「こんなこと、自分ですればいいんじゃないか?」

 「あたし、汚れ仕事は嫌いなのよ。あんた、どうせウンコまみれだからいいじゃない」

 クルセイデルは小さな鏡を取り出してメイクを直していた。どうやら到着が遅くなったのは、身づくろいのための様である。


 「失敬な! 君の様な子供に命令される筋合いはない!」

 「子供? ふふん。あたしはもう十八歳だよ」

 「何? それにしては幼い……ははーん、チビッ子魔女、幼児体型!」

 「何言ってんの。魔力を体に蓄積するために、成長を止めてるだけなんだよ!」

 「ふふーん、いずれにせよツルペタには変わりないな。やーい、ツルペタツルペタ!」

 クルセイデルは悔しそうに自分の胸を押さえた。結構気にしているようだ。しかし、こんなことを言って自分より年下の娘をからかう五十歳ってどうなんだろう。

 「ロキ君に媚を売ろうとも、ウィンディエルさんの爆乳の魅力には勝てますまい」

 田中はフワモコの糞がついた眼鏡を押し上げて高笑いした。


 「口は達者なようね。課長代理補佐。この世界では適当にごまかしているけど、どうせあんたなんか会社でも家でもお荷物で、自分の家族にも厄介もの扱いされてるんでしょ、この加齢臭オヤジ! 窓際族め!」

 殺意のこもった眼で田中を睨むクルセイデル。その眼は魔女を通り越して悪魔の様である。


 一方、田中の頭には走馬灯のように家族と会社の同僚の顔がよぎる。

 ああ、そんなにさげすまないでくれ……

 クルセイデルの言葉は田中の心の一番デリケートな部分を抉るのであった。


 「うっ!」

 「図星か、図星だな! ククク……」

 「何故……なぜ……それがぁ……お主何者だぁ……?」

 

 ていうか、お前が何者だ、田中? 

 悪代官か?


 「あんたには分からないでしょうけどね、世界と世界は発生の段階で何度か衝突しているのよ。その痕跡が強く残っている場所はエネルギーの‘力場’がゆがんでいて、時々別の世界の物が漂流したりするわけ。あんたみたいにね。そういったものは私たち魔道士の研究対象になるのよ」


 クルセイデルは実はすごいことを言っているのだ。これは、現代物理学の多元宇宙理論に似た世界の捉え方なのである。宇宙の発生の様子は、仏教にも物理学に近い表現をしたものがあるが、なかなか興味深い。

 もちろん、そんなことが分かる田中ではないのだった。


 「ほら、日本国の田中恵一さん。何のスキルもないんだから、きりきり働きなさい! 口ばっかり動かさないで、少しはロキの役、世の中のお役にたちなさい!」

 「くーっ! こんな廃品回収が何の役に……!」

 

 「おーい、クルセイデル! 何か分かったか!?」


 そのとき、ロキが手を振ってやって来た。どうやら装備品を取りに行っていたらしい。ウィンディエル達三姉妹の店に置いてあったリュックサックを下げていた。

 傍らにはリアムがついてきている。


 「あ! ロキ! いろいろ分かったわよ! もちろん!」

 「さすが、クルセイデルだな」

 「そんな、他人行儀だわ。 クリューって呼んで!」


 「この二重人格、カワイコブリッコめ!」

 呟く田中に、密やかにクルセイデルの電撃魔法が使われた。もちろん、ロキには見えない角度だ。


 「田中さんが集めてくれたサンプルを、今分析にかけるところ」

 

 黒焦げで地面に倒れる田中を放置し、クルセイデルは先ほど田中が集めた物品に向かって杖をかざした。

 杖と言っても魔法使いが持っている‘ワンド’で、指揮棒に近い大きさのものである。


 「……我が求めに応じ、その使い手の姿を現せ、ワダワダアケロジャガガイ、ワジワジチムドンドン!」


 何やらちょっと方言っぽいが、呪文を唱えると、田中が集めた犬の糞やら消し炭から、緑と青の炎が出た。炎の中にぼんやり何者かの顔が映っている。

 上目遣いの三白眼に、長いのっぺりとした顔。スキンヘッドの不気味な男だった。


 「これは!」 

 クルセイデルが叫んだ。

 「どうしたんだ?」

 「この魔法使い、知ってるわ!」

 「何者なんだ?」

 「西の魔法院でもトップクラスの危険な魔法使いよ!」

 「こいつは、西の魔法院の奴なのか?」

 ロキの表情が硬くなった。

 

 西の魔法院は、魔法立国ウェスティニアが誇る魔法の研究機関で、多くの優秀な魔法使いを輩出しているのだ。魔法院の入学だけでも壮絶な難関試験を突破しなければならない。試験対策問題集やら進学予備校やらもたくさんある。


 「正確には、違うわ。強い魔力に対して人格的に問題が多すぎるとして、追放されたの。白い悪魔と、黒い悪魔に魂を売った闇の魔法使い、奴の名前はダナシン!」

 「そんなに危険な奴なんですか!? でも、勇者様の力ならきっと勝てますよね?」

 リアムが尋ねた。

 「危険かどうか、勝てるかどうかは関係ない。子供たちとマリエルさんを助けるだけだよ。リアム。これで、相手の正体が分かった。十分な装備を用意して助けに行こう」

 「ありがとうございます! 僕も一緒に行きます!」

 はりきるリアムに、ロキは静かに笑って応えたが、クルセイデルの表情は険しいままだった。


 「何か問題なのかね? ツルペタ君?」

 復活した田中がクルセイデルに尋ねた。

 クルセイデルの眉がピクリと動いたが、険しい表情は変わらない。


 「……ダナシンの得意な魔法は水属性なのよ……あの青い炎は、そういう意味。ロキの力は火の属性なの……」

 「何のことかな?」

 「火は水に勝てない。相性が悪すぎるのよ。ロキは、それが分かっているわ。彼も魔法の知識があるから……でも……それでも、ロキは困っている人たちを放っては置けないの。そういう人だから……」


 クルセイデルは不安そうにロキを見つめた。 

 ここにも、恋をする若者がいるのだった。

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