第2話 すれ違いとスレ違い

 ばさばさ。

 バシャンという水音とは全く違う音と、水面を越えてさらに落下している自分に気付いた。

 田中の体は、チクチクする固いものに当ってさらに落ちていく。

「あ痛!」

 時々ごつごつしたものが当たる。木の枝だ。

「あーっ!」

 茂みを抜け、田中の体は地面に落下した。


 ゴツン。

 しこたま腰をぶつけた。

「いててててて・・・どうなってるんだ?」

 体を起こして辺りを見ると、森の中だった。

 深い、豊かな森だ。

 田中の落ちた辺りにはヒースと地衣類がこんもり生い茂り、これが落下の衝撃を和らげてくれたらしい。

 当然のように黒猫の姿はなかった。


「一体ここはどこだろう?」

 空気が澄んでいる。

 鼻の奥を通る空気はフィトンチッドが香りひんやりとして、昔行った信州の山の中に似ている。

 だが、木の太さが違う。屋久杉なみの大木がごろごろ生えている。

 行ったことはないがドイツの黒いシュバルツバルトや、古いヨーロッパの魔法の森を彷彿とさせた。


 誰かがいる。

 目を凝らすと、深緑色のとんがり帽子をかぶった人物がこちらに歩いてきていた。


「あーっ!」

 その人物は田中を見ると、走り寄ってきた。

「ケーイチ!」


「! シルフィアさん!」

 緑色の髪に、虹色の目。シルフィアだった。

 三角帽子にローブという魔法使いのようないでたちで、右手には木の杖を持っている。肩から大きな皮のカバンを下げていた。

「こんなところで、何してるの?」


 何というのは、田中が知りたい。

「いや・・・気づいたらここにいたんだが・・・」

「この前は、突然いなくなったし、どうしたの?お姉さまがお礼を言いたがっていたよ」


「ウィンディエルさんが・・・」

 田中の脳裏にあの美女の面影がよぎる。


「魔道士だから、転位魔法か何かに失敗して飛ばされたの?」

「いやあ、何、そんなところかな」

 何を言っているのかわからないが、田中は適当にごまかした。


「それより、シルフィアさんはこんな森の中で何をしているのかね?」

 田中が問うと、シルフィアはがっくりとうなだれた。

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