第11話 気遣い

【安田純一郎】

『あなた、起きてください』

そう声をかけられ朝の目覚めを迎えた。

外は気持ちのいい天気なのが妻がカーテンを開けた瞬間の日差しでわかった。

『おはよう』

妻に挨拶をし、布団からでる。今日は目覚めがいいな。

朝刊を読みながらいつも通りの妻の朝食を済ませながら妻に菜々のことを訪ねた。

『そういえば、菜々は最近何かあったのか?』

『いえ、別に変わった様子は見なかったわよ。何かあったの?』

妻に最近菜々がよく私に話しかけるようになったことを伝えると、

『いいことじゃない。菜々あなたのことを昔から怖がってたでしょ?それが溶けてきたのよ』

『それなら嬉しいことだが』

『そんなことよりもうすぐ時間ですよ。急いでくださいね』

妻にそう言われすぐに家を出た。今日も忙しい1日が始まろうとしている。

『帰りに菜々に何か買って帰るか』


【田中和也】

一晩中、朝比奈家に張り付いていたが特に変わった様子はなくどうしようかと考えていた。

妹の方に顔を覚えられているので向こうから話しかけに来ないかと期待はしてみるが来るわけがない。

いきなり家に押しかけて事件のことについて教えてくれだなんて、怪しいにも程がある。

正当方ではまず近づいてはもらえない。

そう思い、俺はまた弟の高校へ聞き込みに行くことにした。


【朝比奈蒼太】

『ふぅ〜、課題終わったー!』

そう言いながら自室のベッドの上で大きく伸びをした。1ヶ月分の主要5教科の課題は勉強できる人なら簡単だが、俺みたいな人間には酷なものがある。

『さて、明日学校に行くかな』

一樹に明日学校へ行く事を伝える事にした。

明日は午後からバイトなので朝に行ってすぐに帰ってこようと計画を立て、少し早めだが夕飯の準備をしようとキッチンへ向かった。

キッチンにかけてあるカレンダーを見ると妹の引退試合が1週間後に迫っている事に気付いた。

『試合が終わったらあの楽しい時間が増えるのかな』

そんなことを呟きながら炊飯器のスイッチを押し、久しぶりに肉じゃがを作ろうと思い冷蔵庫の材料を取りに向かった。

正直複雑な面もある。妹にはできる限り剣道を続けて欲しいが、高校に入れば部活などでもっと忙しくなり2人でいれる時間は少なくなる。

『あいつの人生だ。俺がとやかく言えることではない。蒼蘭が決めたことに俺はサポートするだけだ!』

そう自分を納得させ、夕飯準備に本腰をいれる。今日の肉じゃがは実は得意料理だったりするので気合いを入れた。

この関係に誰も入らないで欲しいとふと考えた。


【城山春香】

『春香ー』

帰りのホームルームが終わったので帰ろうと席を立とうとすると、後ろから一樹に声をかけられた。

『なに?』

『聞いたか?また殺人が起きたの』

『聞いたわ。もう嫌になっちゃう。こうも近くで事件が起きると安心して外歩けないもん』

『ほんとだよな。同じ犯人の可能性が高いってニュースで言ってたぞ』

『でも、今回は蒼太達は違うと思うの』

『そうなの?』

あの日は私は買い物に行くためにショッピングタウンに行っていた。必要なものを買って帰ろうとしたら母親からメールでお使いを頼まれた。特に急ぐ用も無かったのでそのまま、スーパーに向かった。

『お兄ちゃん!こっちの方が良いっぽいよ!』

聞き覚えのある声が聞こえたため、反射的に声のした方を見ると、蒼太と蒼蘭が兄妹2人仲よさそうに野菜売り場で買い物をしていたところを見た。

『あんな2人で楽しそうにやっていたら声なんてかけれなわよね』

あんな仲のいい兄妹の兄が、殺人を犯すなんて思えない。

『だけど前回も蒼太にはアリバイがあって白になったんだろ?同一犯の可能性ってことは疑われることは無いんじゃないか?その証拠に俺たちのところにも警察は来ていない』

『それもそうね。少し気にしすぎだったかも』

『おう!そういえば明日蒼太学校来るみたいだぞ?色々整理つけるために話してみようぜ』

『そうね。蒼蘭ちゃんのことも聞きたいしね!』


【高井光一】

やはり朝比奈兄妹のことを諦めきれない。

しかし、古池をはじめとした周りの人間は2人のことを疑うどころか眼中にないらしい。

なので若い人間を1人、あの家にもう一度貼り付けることにした。

『何か収穫があればいいのだが』

しかし、これの判断が後に捜査を困惑させる事になる事は俺はまだ知らなかった。

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