第10話 思惑

【田中和也】

俺は絶対に諦めない。

田中涼介は俺の弟だ。あの惨劇の前日に電話だってした。

『見とけよ〜?俺は絶対兄貴を超える演奏家になってやる!』

それが最後に聞いた弟の声だった。

俺たちは兄弟でピアニストを目指していた。俺は音大生で弟も同じ音大を目指していた。

そのため、自主練は欠かさずしていたのだ。あの日もそうだ。自主練のためといい朝早くから学校に向かったらしい。それなのに、なぜ?

犯人の手がかりはその場に残されたメッセージだけ。しかも涼介の血で書かれていた。

『絶対に見つけてやる』

警察が見つけれないのなら俺が見つけてやる。復讐してやる!

涼太が感じた恐怖、痛みを何十倍にして返してやる。

今俺がマークしているのは朝比奈兄妹だ。

なんでも最初警察も怪しんでいたらしいが2人ともアリバイがあるみたいだ。

だが、俺はそのアリバイはいくらでも作れると感じた。なんでも兄の証人は妹らしいからな。この情報は弟の高校で聞き込みをして手に入れた。

信ぴょう性は高いものだ。

朝比奈兄妹の尻尾を絶対掴んでやる!


【安田純一郎】

『おかえりなさい。お父さん』

『菜々か。早く寝なくてはダメではないか。学業に響くぞ』

夜中の0時をまわったのにも関わらず、私を玄関で迎えたのは妻ではなく娘の菜々だった。

『事件のこともあったし、ちゃんと帰って来れるか心配で、』

『さっきも話しただろ。何も問題ない』

『それならいいのですが、それでも心配で』

全く、心配性は誰に似てるんだか。

『明日は何時にお家出るの?』

『明日は朝には出る』

『そう。わかったわ。お母さんにも伝えておく』

『そうしてくれると助かる。お前も早く寝なさい』

『じゃあね。おやすみ』

『おやすみ』

菜々が俺にあんなに話しかけてくるのは新鮮だな。何かあったのだろうか。それとも買って欲しいものがあるのか。

そんなことも考えたが今日は風呂に入って寝ることにした。娘が心配する事件も捜査はしているが進んでいない。どうしたものか。

せめて何か手がかりさえあれば良いのだが。


【???】

『はぁ〜、次はいつ殺そうかな?次の凶器は何にしよう。ナイフも飽きちゃったし。もっと苦しむようなやつがいいなぁ。これとかはどうかな?』


【高井光一】

『メッセージだけではどうにもならないなぁ』

古池の予想を当たっているものとして同一犯としての捜査を進めているが進展はない。

目撃者もいなければそれといった情報もない。

やはり俺的には朝比奈蒼蘭が怪しいのだが俺以外何も感じないらしい。

俺の勘違いか?

『高井さん』

『ん?古池か』

『一応調べたんですがまだ朝比奈蒼蘭を?』

『ああ。まだ少し諦められなくてな』

俺の中で朝比奈妹でないと納得しない部分があるのだろうか。古池に経歴などを調べてもらったのだ。しかし、

『これといって目立ったことはないな』

剣道全国大会出場以外、目立ったものはなかった。

『やっぱり俺の思い違いか』

『私も失礼ながら白かと』

古池からもそう言われると違うのだろう。

また、一から降り出しだ。

『メッセージの件は何かわかったか?』

『筆跡鑑定をしたところで出て来ないでしょう。書いてるものが血液では意味ないかと』

今回の殺人犯は相当なやり手だ。

『一度今までの殺人容疑で捕まった連中の所在を調べてくれ』

『わかりました』

とは言ったものの、俺の経験した殺人事件で今回のが一番残虐で難しい事件だ。

一刻も早く、手がかりを見つけねばならない。惨劇を繰り返させないために。

『腹減ったなー』

そう言いながらタバコに火をつけ、書類に目を戻した。


【田中和也】

朝比奈家を見つけ出すのは案外簡単だった。

事件現場の近くに住んでいるという情報はあったため、見つけるのにそんな時間は取られなかった。

[ピンポーン]

インターホンを鳴らしてみると中から

『はーい!』

と、女の子の声が聞こえてきた。

『あの、どちら様ですか?』

『いえ、少しお聞きしたいことがあるのですが』

『なんでしょう?』

この可愛らしいサイドテールの女の子がおそらく妹だろう。

『私の名前は田中海里(かいり)と申します。今回の事件のことでお尋ねしたいことがありまして』

『ちょっと今は厳しいです』

やはり断ってくるか。家の中に入りさえすれば何かわかると思ったのだが。

『そうですか。ならまた後ほど伺います』

そう言って立ち去ったが、しばらくこの付近で張り込もうと考えている。

涼介のためだ。寝ずに張り込んでやる。


【???】

『次の凶器はこれにしよう!痛みも苦しみも味わえるじゃない!』

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