第3話 影
ふと、何かの気配に気づいて起きた。
ん?1階に誰かいるのか?時計を見てみる。
4時。いや、蒼蘭は寝てるはずだ。
いくらあいつが早起きだからってこんな朝早くに起きるわけない。
泥棒だったらどうする?何か武器になるものはないか。
『これでいけるか』
見つけたのは小学校の頃使っていた金属バット。バットを片手に足音に気をつけながら階段を一段一段下りていく。
ギシィ。一歩踏み出すごとに階段が軋む音がする。普段ならそんな些細な音気にならないが、静かな空間でならその音はとてつもなく響いて聞こえる。
気づかれていないだろうか。その不安だけが頭の中で渦巻いている。
気配がするのはキッチンだ。ドアの前に着いた。すりガラス越しに人影が見える。
やっぱり泥棒か!と思った瞬間、
『きゃーーーーーー!!!!』
と、中から我が妹蒼蘭の悲鳴が聞こえてきた。
『蒼蘭!』
名前を叫びドアを開け、すかさず電気をつけたら腰を抜かした蒼蘭が怯えたような顔つきで俺のことを見ている。
『って、お兄ちゃん??!』
『蒼蘭!無事か?犯人はどこに?』
そう聞くと、蒼蘭は何を聞かれているかわからない様子で
『へっ?』
とポカンと口を開けていた。
『えっ?』
『お兄ちゃん。何言ってるの?』
『何って、泥棒が来たんじゃないのか?』
『来るわけないじゃん』
これは俺の勘違いだったのか?
『じゃあ、あの悲鳴は?』
『すりガラス過ごしに変な人影が見えたからお化けかと思ってびっくりしたの!』
なるほど。ようやく話の流れがつかめた。
妹は泥棒に対して悲鳴をあげたのではなく、すりガラス越しに見えた俺の影を見て悲鳴をあげたのか。ふむ。
『じゃあ泥棒が入って来たと勘違いした俺の影を見てお前はお化けが出たと思って悲鳴をあげたんだな?』
『まずなんで泥棒って勘違いしたの?私もこの家に住んでるのに』
『お前がこの時間に起きてるっていう前提を早い段階で消してたから、そしたら侵入されたしかない』
『だからそのバットを持っておりて来たんだ』
そうか。俺は片手にバットを持ってんだ。側から見たら泥棒の前に俺の方が危険人物だ。
『でもなんで今日はこんなに早かったんだ?』
『起きちゃったんだけど、二度寝しようとしても眠気なくて何か食べ物ないか探しに来た』
『だからキッチンにいたのか』
『うん』
なんだか今までの警戒心がバカらしく、笑えて来た。俺もなんだか今までの緊張で眠気が覚めてしまった。
『今日は朝練あるのか?』
『うん。基本毎日だよ。昨日は日直だったから練習出ずに行こうと思ってたから少し遅かったの』
『引退試合は勝てそうか?』
『うん。いつも通りやれば大丈夫だと思う。』
そういえば兄妹でこうやってゆっくり話すのはいつ以来だろう。俺もバイトで忙しかったし、妹も練習がキツいせいか、帰宅したらお風呂に入ってご飯を食べて、すぐに自室へ行ってしまう。俺も疲れてる妹に話し相手を強要する鬼畜ではないため、やる事をやったら学校の課題に取り組み、眠くなったら寝るの生活だ。
『さて、朝飯作るか。』
『うん。お願い』
あまり食べすぎると朝練に響くという要望があったので、トースト2枚という簡単すぎる朝飯を食べながらなんとなしに何も映ってないテレビに目を向ける。そこで、あることを思い出す。
『あ、そうだ蒼蘭。最近この近くで通り魔あっただろ?気をつけろよ。しかも早朝の犯行の可能性って言ってたし』
『ゲホッゲホッ。な、なんで急に?』
『そんな驚くことないだろ。ただ少し物騒じゃないか。だから一応注意だな』
『大丈夫だよ。私は常に竹刀持ってるからね!だから、安心してね。』
竹刀を持ってる剣道部に返り討ちにあう犯人も見てみたいものだな。
『それもそうだな。でも、もしなんかあった時はすぐに逃げるんだぞ?』
『うん。教えてくれてありがと』
まぁ大丈夫だろうと思い蒼蘭の顔を見た。
蒼蘭の目が一瞬だけ曇って見えた。
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