第37話「リスタート」

 息巻いてみたのはいいものの、そういえば俺は半身を失ってたので、俺主導で事を進めることができなかった。

 結果二人にいいようにもてあそばれてしまった。

 まあ、二人とも満足そうだったから良しとしよう。


「ピアニッシモ、改めて状況を説明してくれ、この3年間に何があった?」

 薄暗い洞窟の中で、俺はベッドに腰を掛けながら、アイシーンの入れたコーヒーを飲んでいる。

 ピアニッシモは隣に腰を掛けると、話はじめた。


「かろうじて聞こえてくるエルフたちの会話を盗み聞いたりとか、たまに街に出た時に聞いた情報しかないんで確かなことは言えないんですけど……」

 

 3年間、ピアニッシモ達は基本的に狩猟や採集で生活をしていたという。もちろん、この孤島から出て、街で生活することも考えたらしいが、俺の体を下手に動かせないという点と、人間たちに見つかりたくないという点で、目覚めるまではこの島で生活することを覚悟したらしい。


「あの……、まずゴーガ様は、世界中から命を狙われています。その状況をしっかり覚えておいてください」


「そんなん今更だろう。俺は昔から常に命を狙われてる」


「そうなんですけど、状況はもっと切迫してます、かつてはみなゴーガ様に恐れをなして積極的ではなかったですが、今は……倒すなら今しかないということで、世界中がゴーガ様探しに躍起になってるのです」

 ずいぶんなめられたものだな。


 しかしなるほどそういう状況なら、この魔力が弱められる島は、逆に強い魔力を持つ俺が発見されにくいというメリットがあった。

 強い魔力を感知することができるエルフもいる、回復が遅くなるデメリットはあるものの二人がこの島を隠れ場所に選んだのは最適解だったかもしれないな。


「この島から西に船で5日くらい進むと、シュタント領の島があるんです。そこはエルフが多いので、なんとかそこで買い物をしたり情報を得たりしたんですが、そこでもやはり、ゴーガ様を探してる連中に結構遭遇しました」


「シュタントって、あの魔法の国か。思い切り勇者ハイネケンの本拠地じゃねーか。よくそんなとこに出かけたな」

 かつて俺が勇者として過ごした国シュタント、あそこのエルフたちの魔力はやばい、今のおれの状態で一戦交えたらかなり厳しい。

 見つからなくてよかったということか。


「……でもさすがに、デザスに行くわけにもいかなかったですし、エルフの国シュタントなら私も目立ちませんから、最近はダークエルフも多いですし」

 まあシュタントのエルフとダークエルフを和解させたのは、勇者だったときのおれなんだけどな。

 ん?


「……お前の話にはおかしいところがあるな、ピアニッシモはこの島を出る機会があったんだよな?それだったら、その時に、本国と連絡が取れたんじゃないか?なぜそれをしてないんだ」

 もしその説明がきちんとできないならば、最悪の場合ピアニッシモが俺を裏切ってる可能性まである。

 俺は少し強い口調でピアニッシモに詰問する。


「答えにくいんですけど……、その本国メンフィスはすでに……」


すでに?

すでになんだ?


「ゴーガ様、すでにメンフィスは勇者に占領されてしまったんだよ。すぐだったさ、デザスでゴーガ様が爆発に巻き込まれてから、すぐの話だった。私も最初ピアニッシモちゃんから話を聞いたときは驚いたさね」

 話を引き継いだのはアイシーンだった。

 すでにメンフィスが滅ばされただと……

 

 考えてみればせいぜいこちらの兵力は10000程、そして最大の脅威であるはずの俺がいないとわかれば、ハイネケンが手をこまねくはずもないか……

 俺は何を3年間も寝ていたのか、無様すぎる。


「ほかの国はどうなったんだ、ミネとかダンヒルはどうしてる?」


「ミネ様、いえミネ、ダンヒルはコルド帝国領とシャフトの魔族勢を維持し続けています。たまに、勇者ハイネケン率いるシュタントと小競り合いしてるようですが、大きな侵略とかは起きてないですね」

 コルドのミネ、ダンヒルは俺が倒れる前にクーデターを起こし、コルド帝国を自らの領土にした。

 デザスを滅ぼしたのち、制裁しようと思ってたんだが。


「ふふふ、まさかあの二人が、勇者ハイネケンを相手にまだ国を維持できているとは意外だ。慎重さが功を奏しているといったところか」

 なんだか少しうれしい気分だ。

 

「そうですね、勇者側が積極的にコルドとかシャフトをどうにかしようとは思ってないという感じですが……」


「それに、ミネとダンヒル達はどうも人間たちとうまく融和政策をするつもりらしいさね。ゴーガ様が覚えてるかどうかわからないけど、シャフトに作った、魔族アイドルユニットがいただろう?あの子たちを使って世界的に人間に取り入ろうとしてるみたいさね」

 アイシーンがピアニッシモに捕捉をした、けだるそうにそれを言う。

 

 アイドルユニットか、その時の俺は魔王じゃなかったが、勇者ハイネケンだったとき確かにそんなのが話題になっていたな。


「うん、ピアニッシモは確かそのメンバーじゃなかったか?」

「違いますよぉ、私は彼女たちにダンスと歌のレッスンをつけていただけです。でも彼女たち今はさらにすごい人気ですよ。セーラム、バイオレット、ペシェ、フレア、ハーモニー5人そろってサーキュレートです。何でゴーガ様忘れてるんですか?ああそっか、あの時はゴーガ様は中身が違うんだっけ……」


「まあ、とにかくそんなわけでさ、いま人間と魔族はかつてないほど友和状態にありと言っていいんさね」

 不服そうにアイシーンは語る、現状にどうやら不服のようだ。


 世界は魔族と人間の共存を目指してるってことか……。

 それで、悪としての魔族の象徴の俺にとどめを刺せれば、友好をさらに示せると。


「コルド帝国、つまりはミネとダンヒルも俺を探してるという認識でいいか?」


「……ええ。ゴーガ様の指名手配は、ほぼ世界的に行われています。ですからこの孤島に潜んでるしかなかったのです、シャフト、コルド帝国ははミネ、ダンヒルがおさえて、シュタント、デザスは勇者ハイネケンとオリオンが手中に収めてます。アサマ連邦はハイネケンと協力してますね。そのすべてが今ゴーガ様を狙っています」


 人間と魔族の共存だと、つまらねえな。


ミネとダンヒルの野郎、魔族としての誇りはどこにおいて来やがった。よりによって人間と協力だと?

 俺らが人間たちにされたことをどこに忘れようとしている。


「気に入らねえ、気に入らねえな」


 何より、魔族たちが、俺の仲間たちが、人間たちに協力しようとしてることが気に入らねえ。


「一応聞くが、俺の仲間と呼べるのは誰だ?」

 俺は、ピアニッシモそして、アイシーンの顔を交互に見つめながら聞いた。


「……わかってると思いますが、私たちだけです。私ピアニッシモと、アイシーン、それから満足に飛ぶこともできないですが、カールトンです」

 頼りない声で、ピアニッシモは答える。

 そしてアイシーンはうなずいた。


 なるほど、なるほど、これ以上ない位頼もしい戦力だ。

 いいな、あの時を思い出さないか、ヴォーグ?


 もともと俺たちには何もなかった。

 そして今また、あの時以上にすべてを失ってからのスタートか。

 おもしれねえじゃねえか、運命だなんて物は信じちゃいねえが、裏で糸を引いてる奴がいるなら、ルーシア、お前なんだろう?

 面白い舞台を用意してくれてありがとうよ。


「ピアニッシモ、アイシーンここからは、俺のターンだ。忙しくなるぜ」


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