第38話「翼」

「ところでこの島は一体なんだ?」

 世界情勢も、俺がどうなったかも大体把握したが疑問は残っていた。

「先ほど言った通り、西に船で5日ほどで、シュタントにたどり着く位置にいます。おそらくここから北に向かえば、デザス、南に行けばシャフトですが、どこに所属してるわけじゃなさそうですね」

 いつも以上の説明口調でピアニッシモは語る。


「いやそういうことじゃない、なんでこの島では魔力が出ない?そういうことを聞いてる」

 場所は把握したし、ここが無人島なのもわかる。

 しかし肝心なのはなぜ魔力が失われてるのか、そして俺やドラゴンの回復力まで落ちてしまってるかという点だ。


「ええっと、それはですねぇ、なぜでしょうか?さすがにわからないのですけど」

「……ピアニッシモ、おまえ3年間もこの島にいたんだよな。調べてないのかよ」

 この3年間いったい何をしてたんだ。


「もちろん、一通り島は見たんですけど、1日も歩けば一周できるような小さな島ですし、人工の建築物とかもなくて、あと結構山になってる部分が多いので、何か探すようなものないんですよね」


「それにしたって、魔力が弱められるとか、ただ事じゃねぇだろ。この島に何かあるに決まってる。なんでそれを調べないんだよ」

 だんだん、ピアニッシモにイライラしてきた、助けてくれたことには感謝するが、そもそもこいつは結構無能なんじゃないかという疑いがある。おれが元に戻る前の魔王はそこそこ重宝してたらしいが、可愛い以外の魅力はないんじゃないか。


「……そんな厳しく言わなくたって、わたしたちだって、食料を確保したり、敵に見つからないようにしたり、船で買い物に行ったりで結構大変だったんですよ。それなのに……」

 いかん、なんだか口調が泣きそうになっている。

 困っなた……俺は女の涙にはとても弱い。

 っていうか、食料の確保とか、買い物いったりとかってべつにたいしたことしてねぇと思うんだけど、それ言ったらまためんどくさくなりそうだしなあ。


「わかった、わかった。頑張ってたことは知ってんだよ。うーん、とりあえずみんなで、この島の魔力が弱まる原因を調べに行かないか?まずはそこからだ」


 さ俺も今回は反省してる、考えれば今のところ自分の力を過信して突っ込みまくった結果、今回はほぼ死にかけた。

 いつもならば復活即、デザスとハイネケンに逆襲と考えるところだが、少し頭を冷やして、じっくり足場を固めていこうと思う。

 さすがに今の状況は分が悪い……

 敵は世界すべて。

 あげく俺には半身がなく、仲間はもはや仲間と連絡すら取れないピアニッシモと、手負いのドラゴンのカールトン、アイシーンだけは頼れる戦力だが、このままではどうにもなるまい。


 かといってこのまま一生潜伏して生きるなんて絶対に許さねえ。

 かならず、報復はする。

 何年かかっても報復する。

 ハイネケンはもちろん、ミネもダンヒルも許さん。

 そして何より、ルーシアを許すわけにいかない。


「ゴーガ様、でも島自体は一通り見てきたんですよ。でもとくに何かあったわけじゃないんです。だから原因不明なんですけど、またこの島を見たところで、何かが得られるとは思えないのです。それにその体では歩くこともままならないと思うんですけど、どうやって探索とか?」


「確かに足は動かないのだが……」


俺は背中の感触を確かめる。

そして、翼のイメージを浮かべ、背中にはやす。

「おぉっ」

ゆっくりではあるが、翼が生えていく。

いつもなら、一瞬で翼を広げて飛ぶ体制になるのだが、これもまた魔力が封じられてる影響か?


「さすが魔王様、飛ぶことができるなら、足なんて飾りですね」

ピアニッシモが、笑顔でこちらに羨望のまなざしを浮かべる。


「そうだな、移動に関しては問題なさそうだ」

翼は、完全に飛ぶのに十分なほど広げることができた。


「あれ、でもゴーガ様?」


「なんだ、ピアニッシモ?」


「羽を生やせるんだったら、足も復元できるんじゃないでしょうか?」

 ピアニッシモは、自分の顔の正面で人差し指をたててそんな提案をした。


「……そういえば、そうだな」

 あまりにも単純な提案だが、そういえば試してなかった。

 少し足が生えるイメージでもしてみるか。


 ……。


 …………。


 どうやらそんなに甘いもんでもないらしい。

 




















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