真章 魔王ゴーガ逆襲

第35話「目覚め」

(バルサバルでは、勇者オリオンとアンドロギュヌスでエルフのキャビンが、ゴーガに対して水素爆弾をぶつけた。そしてゴーガは見事にそれに対して火気で応戦し、大爆発を招いてしまったのである)



「ゴーガ様……、ゴーガ様!」


 耳元で泣き叫ぶような声が聞こえる……。

 なんだこの声は、ピアニッシモか?

 うるさいな、そんな大きな声で叫ぶな、頭に響く。


「……う、うるせぇ……」


 俺は絞り出すようにして声を出す。

 なぜだ、なぜこんなにも声を出すのが苦しい……?


「ゴ、ゴーガ様ぁ!! やったあ、アイシーン、ゴーガ様が目を覚ましたぁ!」

 うるさいピアニッシモの声がさらに大きな声となって頭に響く。

 なんだ俺が目を覚ましたことが、どうしたというんだ。


 重い瞼をゆっくり開く、目を開けた先の天井は岩肌だった。なんだ、俺はどこで眠っていた?少なくとも、わが居城の快適なベッドの上ではなさそうだな。

 首をひねり横を向くと、ピアニッシモが涙を浮かべながらこちらを覗き込んでいた。

「ゴ、ゴーガ様、大丈夫ですか。私たちのことわかりますか?」

 不安そうにこちらを見つめるピアニッシモの顔は少しやつれて見える。

 一体何があったというのだろうか。


「……な、何を聞いてるんだ?ピアニッシモだろう……。それにしても、ずいぶん体中が痛いな、あと、思うように体が動かない……。いったい何があったんだったか……」


 先ほどから、左足とかを動かそうとしてるのだが、どうにも感覚がない。寝起きで身体がぼーっとしてるのか? それにしては、痛覚だけがやたらはっきりしてるのだが。


「ゴーガ様ぁっ!」

 先ほどとは違う少し低めの女の声が、頭に響いた。

 この声はアイシーンか? アイシーンも、俺の顔を覗き込むようにして、寝ている俺をはさんで、ピアニッシモの反対側に座した。


「なんだ、アイシーンまで……、おかしいな、俺はそういえばアイシーンと一緒に、そうバルサバルを攻略してたはず、どうなってる?」

 駆け寄ったアイシーンもやつれて見えた、心なしか頭の蛇の数も減っているように思う。


「あのやはり覚えてらっしゃいませんか?」

 アイシーンは不安そうに尋ねる。

 覚えてないということはない……アイシーンと戦ってたはずだが気づいたらここにいた。

 

「ゴーガ様は、卑劣な敵の爆撃攻撃を受けました」

 アイシーンはあの時の状況を告げる。

 爆撃攻撃……。

 そうだ微かに記憶がある、敵は空飛ぶ何かに乗ってこちらに向かってきた。

 水の魔法を使ったはずだ。

 それをわが無敵の炎で迎撃した、そんな記憶がある。

 そしてその時飛来する人間を迎撃したように思う、そこからだ、記憶がない。

 確かあの時……

 そう、炎で落下する人間を攻撃したとき、爆発が起こった。


 思い出してきた、そう、それでおれはあの爆発をかわしきることができなかったのだ……。


「それで、爆発を食らって今に至るということか。そりゃあ全身に痛みがあるわけだな……。無敵のおれの体も、さすがにあの爆発には勝てなかったか」

 首も満足に動かないが、促進魔法を使いまくればすぐに回復するだろう…‥。

 こうしちゃいられない、すぐにバルサバルを再侵攻しないとな。


「とどめを刺せなかったというのは、あいつらのミスだな。もう少し回復したらすぐに復讐しに行くぞ、準備しておけよアイシーン」

 俺は左手でアイシーンの肩に触れようとする……。

 しかしその手はアイシーンに届かない。

 

 おかしい、うごかない、左手の感覚がない。

 いやというより、これは、左手の感覚がないのではなく、まさか。

 そしてピアニッシモがか細い声で告げる。


「ゴーガ様、落ち着いて聞いてください……もはやバルサバルを再侵攻するといったことはもうできません……」

 なんだ、その表情はピアニッシモ、この無敵のおれに対してなぜそんな表情を見せる。まるで、何か弱いものを見るような……。


「……あの爆撃を受けてから、ゴーガ様は眠っていました。そして今朝がたようやく、体が動きを見せたので、ずっと呼びかけていたのです。目覚めていただいて本当によかった……。」


「……3年……だと」

 俺は思わず起き上ろうとするが、体が動かない。

 おかしい。

 それにしても3年とはどういうことだ!?

 そんなはずはない、ついさっきのことじゃないのか。


 そんな俺の心の疑問に答えることはなく、アイシーンが俺に目を合わせ、更なる真実を話し出す。


「落ち着いてごらんになってください、首は動きますか? 左足です。そう、ご自身の左足をご覧になってください」


言われた通りゆっくり首を動かして、自分の下半身を見る。俺の全身は毛布にくるまれていたが、その上からでもはっきり分かった。


 俺の左脚はなくなっていた。左腕とともに。







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