第34話「魔法とゴルフとイカサマ③」
少しだけ魔法を使うことに後ろめたい気持ちになった。
しかし結局私は、その後も絶妙に魔法を織り交ぜながら、ゆらめきとの勝負を繰り広げた。ティーショットがうまく決まった時は、確実に3打以内でグリーンに乗せ、魔法を駆使して、無理やり一打でパットをねじ込んだ。
少し強めにボールを打ち、魔法の力で芝の長さをコントロールして、穴の方向に誘導する、それでほぼワンパットで沈めることができた。
ティーショットをミスってしまった時には、勝負を捨てて魔法を使わず、さらにわざとミスなどをしてショットの練習に使った。
やはり実際のコースと、練習場ではショットの精度にかなりの狂いが出る。
そこでティーショットでミスった際には、次のショットはアイアンショットの調整に使うことにしたのだ。結果、結構叩いて10打にしてしまったホールもある。
しかしおおむね、ボギーペースでは回っていた。
そしてなんだかんだで私とゆらめきは同スコアで並んだまま最終18番ホールを迎えた。
380ヤード、パー4。
グリーン周りは池に囲まれているいわゆるアイランドグリーンのコースである。
「ハイネケン様、まさか、こんなにもつれ込むとは思いませんでした。パーで決められる場面ではきっちりパーで決めてくるんですね。ふしぎです」
ゆらめきはさわやかな笑顔で私にそう伝える。
笑顔も素敵だが、少しタイトなゴルフウェアが主張する形のいいバストの方がもっと素敵に思えてしまう。なにせ、この1ホールを決めれば、私はこの体を自由にできるのである。
是が非でも勝たなければいけない。
それにしてもゆらめきはその状況を把握してるのだろうか。身体云々はおいておいても、素人の私に負けるのが恥ずかしくないのか。
「悔しくないのかゆらめき、素人の私にここまで追い詰められて?」
「そうですね……まあ私のスコアもここをパーで80ですし、そんなよくないんですよね。ハイネケン様は初コースですけど、もしここをパーで回れば95とかですからね。初心者とは思えないスコアですけど、まあセンスのある人だったらそんな感じじゃないですか?」
ゆらめきのスコアは不幸(人為的に私が起こしたものだが)が重なり、OBや池ポチャで相当に崩したものがあった。それゆえに80になってしまったが、ほとんどパープレイである。
やはり相当うまい……。しかし魔法を駆使したとはいえ、ここまで食らいつく私はやはり勇者であるといわざるをえまい。
「まあ勇者だからな、あらゆるものに長けているのは当然だ。約束の方忘れるなよ。さて、君のショットからだ。初手でOBとかふがいない結果はいらないぞ」
「もちろん約束は覚えています、ハイネケン様。OBなんて出しません、手加減なしに正々堂々とあなたを打ちまかせて見せます」
そういって、ゆらめきはティーにボールを乗せて、ケツを突き出してクラブを構えた。あまりにセクシーなポーズに思わずバックから襲いたくなったが、まだまだ、それは少し早い。ここで襲ったら勇者ではなくオークに成り下がってしまう。
それはここできっちり勝利を収めてからのご褒美というやつだ。
それにしても正々堂々という言葉が気になったが、まあ気のせいだろう。
そして、ゆらめきは今日で一番美しいフォームでボールを打ち放った。勢いよく青い空を突き進みまっすぐとフェアウェイど真ん中に落ちる。
そしてそれはさらにちょうどくだり斜面を転がっていき、伸びたボールははるか先に行ったようである。
「ナイスショットだ……。今日一のショットだったかな」
私は拍手をしながらそう言った。
「ええ、ありがとうございます。狙ったところに落ちました。あの位置なら転がって、グリーンまであと100ヤードくらいじゃないでしょうか」
「そんなにか!?」
「ええ、予告しますが私はバーディを取ります。変な風も今回は吹きませんでしたね、ラッキーです」
微笑みながらそういう。
やはり私の小細工に気づいているのか?しかし気づいても気づかなくても関係ない、イカサマは、ばれなければイカサマではないというのが、わが父勇者ラガーの教えでもある。
「では私も、本気でお答えしよう……。」
ゆらめきの作戦は見えている、ゆらめきが今日一ショット最大飛距離を稼ぐことで、私を力ませてOBさせようとしているのだ。
だから私は力まない、極力高い球をうってあとは風に乗せる。上空に強い風を吹かせれば気が付かれずに、距離を稼げるはずだ。
さすがに力んでショットを大きく右に曲げたりして、それを風で曲げて戻すのは露骨すぎるからな……。
そして私はドライバーでショットを放つ。決して力まず、遠くに飛ばそうとせず、ただただ振り切ることだけを意識しながら。
打った球は狙い通り高く打ち上がった、ほぼフェアウェイ真ん中方向に行く。
(
私は上空にかなり強烈な、風を吹かせる魔法を使った。地上からは気づかれない力強い風が、狙い通り私の白球をグリーン方向に運んでいく。
完全に風に乗った、問題は落としどころか、あまり飛ばせば最悪グリーン周りの池に落ちてしまう。
「ハイネケン様……なんなんですかその飛距離!? 軽く打ったようにしか思えないのに、上空に行ったらさらに球足が伸びたような……」
ゆらめきは素直に、まだ落ちてこない私の球を見て驚いてるようだ。
球はまだ落ちてこない、風の魔法はとっくに止めている。あとは自然にまかせてグリーンに落ちるのを願うのみ。
落下地点は予想して、魔法を使ったつもりだが、運が悪ければ池もあるか……。まあ、最悪、池の場合には水を操って、グリーンまで無理やり引き戻そう。
悪いが私ハイネケンのゴルフルールブックの中に池ポチャという言葉はない。
「どうなったんでしょうか、さすがに私からは見えません」
まあ通常の人間の視力ではとらえられまい。
しかし私からははっきりと見えていた。
「乗った……」
私が放ったティーショットはきっちりアイランドグリーンをとらえた。カップまでおよそ5m、そして私はあらゆる手段を駆使して、このパットは入れる。
「そ、そんな……400ヤード近いホールでワンオンするなんて……」
呆然とグリーン方向を見つめながら、ゆらめきはつぶやいた。
「最後までもちろんわからないが、勝負はついたか?ゆらめき……」
私は非常に高圧的な態度と、強く冷たい視線をゆらめきにぶつけた。
「……く、悔しいですが、ハイネケン様、ゆらめきは約束は守ります」
あっさりとゆらめきは敗北を認めた。
悔しさを微塵ともにじませないようにも見えた、まるですべてを受け入れるかのようなそんな気がした。そしてそのまま、私は1パットで決めイーグル、ゆらめきも素晴らしいショットでカップに近づけるもバーディだった。
(よし、ゆらめき今日は思い切りいやらしいことしてやるからな!)
その思いの通り、この日のゴルフ勝負の19番ホールはとてもお暑い夜となった。
ゆらめきという女のゴルフの球さばきも見事であったが、夜の球さばきはもっとお見事であった。
昼の勝負では完勝した私だったが、むしろベッドの勝負では完敗だったのではないだろうか。
そしてお互いにつかれきって、抱きしめあいながら眠ろうとしたとき、ゆらめきに一言言われたのだった。
「ハイネケン様、最後のは露骨すぎます……。テレビ収録までには、魔法を使わずに済むようにもっと腕を磨きましょうね。――じゃあ。おやすみなさい、ハイネケン」
ちゃんちゃん♪
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