第33話「魔法とゴルフとイカサマ②」
3番ホール、145ヤードPAR3。
目の前には池が広がっており、100ヤード以上飛ばさないと池に落ちる。
とはいえ、ゆらめきはまずミスらないであろうし、私も初心者とはいえ、この池に入れる心配はない。
問題は、145ヤードほどの短いホールだと、先ほどのようにボールをティーアップすることがないので、振動させて落下させる方法はとれないということだ。
もっともさすがに同じことを繰り返して気づかせるわけにもいかないのだが。
(さて、どうしたものかな。)
ひとまず初めに打った私は、ボールをグリーンに乗せることに成功した。まぁ乗ったとはいえ、穴までには10m以上離れていて、そこから一発で入れるのはなかなか難しいと思う。
「とりあえず、端っこではあるものの私は乗せたぞ。さて、ゆらめき、次は君の番だ」
「ナイスオンです。じゃあ私もバシッと決めますね」
そういって、ティーグラウンドにボールを置き、ゆらめきは
さてどういう手でゆらめきを攻めるべきか、さすがに振動させてゆらめきの体ごとぐらつかせるというのも露骨すぎるしな。
なんてことを考えている間に、ゆらめきはささっとバックスイングをして、シュパッっとボールをグリーンに向かって打ってしまった。
ボールはまっすぐにピンの方向に向かっていき、距離もほぼ問題がない。
―――まずいこのままでは、
(『常に逆風の
こうなれば風の魔法を使うしかないと、心の中で詠唱し、ボールの進行方向の逆からかなり強めの風をぶつける。ちなみに、通常、風魔法の使い手は自分のいる地点から風を送ることはできるが、自分のいる地点とは違うところを起点として風を吹かせることはできない。まさに勇者だからできる高等テクニックだといえる。どうやってやっているかは企業秘密だ。
私の魔法は、ゆらめきの放ったボールにぶつかるとともに、ティーグラウンドに立っている私達にも向かってきた。
「きゃっ!なに?すごい突風が!」
突風が、ゆらめきの髪を激しくゆらせ、衣服をはためかせた。ゆらめきは風に目を当てられながらも、ボールの行方を必死に追う。ボールは風の勢いに勝てるはずもなく、まっすぐ旗に向かっていたはずが、本来はいるはずのない池の方向にどんどん向かって行く。
「ま、まさか……」
じっと行方を見守る、ゆらめきと私。
―――ぽちゃん。
白球はきれいに池へと吸い込まれてしまった。
「う、運がないな、ゆらめき。完全には他の方に向かっていたのに、まさかあんな風が吹くなんて」
心にもないお悔やみの言葉を私は並べる。
ゆらめきはぶぜんとした表情を浮かべ、池の方を向いたまま話す。
「信じられません、このコースであんな全英オープンみたいな風が吹くなんて……。まぁ、でもこれもゴルフです。いい経験ができました」
表情をすぐにこやかなものに変えて、そんな事をいった。
何というメンタルの強さ、こう見えて気の短い私ならまよわずクラブを池の中に放り投げてしまうところだ。私の計画では不運を続けさせて、相手の心を折る予定だったのがこれはそう簡単ではないかもしれない。
このホール私は何とかパットを2回で済ませ、合計3打のパー。ゆらめきは池に入れたため、一打を加えるも、そこから華麗なアプローチを見せてワンパットで穴に入れたので合計4打のボギーとした。
つまりは私の勝利である、これで2勝1敗だ。(一つだけ私が勝っている計算なのでこれを1アップという)
「いくら運がないとはいえ、初心者にリードを許してしまったな、ゆらめきよ」
あえて、私は嫌な言い方でゆらめきに迫った。これもまぁ心理テクニックというやつである。ゴルフがメンタルを競うスポーツであることは重々承知しているので、少しでも揺さぶりたい。
「そうですね……、悔しいです。でも、ハイネケン様は初心者とは思えないショットを打ちますし、パターも正確なので、仕方ないかなとも思います。正直、運とか関係なくいい勝負なのだと思います」
さっぱりとした笑顔で私に答える。
運とか関係なくだと……。
まさか、素直実力を認めてくるとは。まるで、ハイネケン様は普通に実力があるのだから正々堂々と戦いませんかと言ってるようにも聞こえる……、まさかとは思うか気づいているのか私のいかさまに。
(揺さぶられてるのは、私か……。)
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