第32話「魔法とゴルフとイカサマ①」

 ゴルフでは、前回のホールのスコアがよかった方が次のホールでは先に打つというルールがあるので、先ほど私勇者ハイネケンはダブルボギー(6打)、対戦相手のはパー(4打)であったので、次はゆらめきからうち始めることになる。


 そういえばそもそもなぜ私勇者ハイネケンが秘書のゆらめきとゴルフ勝負することになったかと言えば、もともと大学でゴルフ部だったゆらめきが初心者の私を挑発し、勝った場合ゆらめきの体を好きにしていいというからだ。

 そしてさらにいえば、年末に芸能人ゴルフ番組があり、そこでスーパースレンダーモデルの桐山美里と一緒に回る機会があり、いい格好をしたいからであるが。しかしそれに関しては先日フライデーで桐山の結婚報道があったので、個人的にかなり気持ちはどうでもよくなっている。

 今はやはり、カッキーこと、垣原ゆうちゃんとドラマで共演したい。

 いや、そんなことはどうでもいいか。


 そんなことを考えている間に、ゆらめきはボールをティーアップし、ドライバーを構えた。

 ゴルフを始めたばかりの私でも、ドライバーを構えたゆらめきの姿が美しく、しっかりとしたものであるのがわかる。そして引き締まったいいケツをしている、うむこれを好きにできると思うと、やはり是が非でも今回のゴルフ勝負は勝っておきたい。


 そしてゆらめきは先ほどのようにゆったりと大きなバックスイングをして、一気に目の前の白球に向かって、ドライバーを振り下ろす。


 ――――――カツッ

 しかし打球音は先ほどのスパコォンというきれいな豪快なものではなく、乾いたいかにも飛ばなそうな妙音であった。

 打球は飛び上がらず、わずか20m先をコロコロと転がるにとどまり、そして目の前に広がっていた池に吸い込まれていった。


「残念ながら、池ポチャのようだなゆらめき……、珍しいどうしたんだい。」

 私は、心の中でにやけるのを我慢しながら気の毒そうにゆらめきに声をかける。


「……ええと、かなり、ボールの上の方を叩いてしまいました。ほんと恥ずかしい、ドライバーでチョロをやっちゃうんなんて、何年ぶりかしら。」

 こちらを振りかえってそう言ったゆらめきは笑顔ではあったが、悔しさが顔ににじみ出ていた。肩をがっくり落としている。

 そしてどちらかと言えばその表情は「なぜだかわからない」といったようなものであった。まぁ、それはそうであろう、後ろから見る限りゆらめきのスイングは完璧なものであった、いつもと全く同じきれいなスイングだった、ただ一つちがうのは、ボールの位置である。

 ゆらめきは、いつもよりボールの上を叩いてしまった。と言っていたがそれは正確ではない、ボールがいつもより少し下に下がったのである。私はそれを後ろからはっきりと確認していた。

(残念だったなゆらめき……)

 悔しそうなゆらめきを見ながら、私は心の中でそうつぶやいた。


 結果から言うとこのホールは、私が5打であがった。そして、ゆらめきは池に入れたのが響いて(池に入れた場合、打数に一打くわえて、池の手前から打ち直さなければいけない)、グリーンに乗せるまでに4打かかり、さらに最後の1mのパットをわずかに外してパットで2打かかり、計6回のダブルボギーで終わったために、無事私が勝利した。

 よほど、ドライバーが当たらなかったことがショックだったらしく、その後のアイアンも切れが悪くなっていたことが原因であろう。結果として、グリーンに乗せるまでに4打かかった。


「池に入れたとしても、ボギー(5打)で上がらないといけませんね……。」

 負けて悔しそうにゆらめきは言う。

 私からすればとんでもない発言だ。

「……少しは手加減してくれ、池に入れたのに5打で上がってもらっては私に勝ち目がないじゃないか。」

 心の中からそう思う。まだ2ホールしか回ってないが、この感じだと私のスコアはよくて4打(距離が300m~400m位の場合)、悪い場合は10打以上になるかもしれない。正直今回ゆらめきが池に入れたことで、もっとスコアは悪くなると思っていたのだが、最後のパターは入っていてもおかしくなかった、実質5打で上がられてしまったようなものだ。たまたま外れたから私が勝ったようなものの……通常なら初心者が戦っていい相手ではない

 まぁ通常ならだがな……。


 もちろんであるが、ゆらめきが先ほどのティーショットをミスったことは、偶然などではない。ご察しの通り、私が魔法を使って細工をしたのだ。ゆらめきは私が使える魔法は今のところ火と水、それから治癒の魔法だけだと思っている。

 

 しかし、私にはまだ物事を振動させる魔法と、風を操る魔法があるのだ。こんなにゴルフにうってつけの魔法があるだろうか。今回は、ゆらめきがクラブを振り下ろす瞬間、振動魔法を使い、わずかだがティーの刺さってる地面を振動させ、ボールを落下させた。

 本来の私の狙いとすれば、ボールが落下してクラブを空振りするだけで十分だった(空振りも1打とカウントされる)のだが、たまたまタイミングよく、ボールが完全に落下する前に、クラブがボールの上っ面に当って、前にチョロっと転がって池に入るという結果オーライのものになった。

 「魔法万歳」といったところか。


 ゴルフでこっそり使うために今まで隠していたわけではなかったが、ゴルフを始めた以上は、風と振動の魔法の存在は今後も伏せつづけるとしよう。


 さて次はどんな手でゆらめきを攻略するか。同じ手を何度もやればさすがに魔法のせいだと気づかれるからな。ばれないようにこっそり、そしてギリギリでゆらめきに勝って見せようじゃないか。

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