第30話「勇者とゴルフ②」

 一気に忙しくなってきてしまった。

 私は今、芸能人ハイネケンとして活動、教授ハイネケンとしての活動、会社社長ハイネケンとしての活動、そしてゴルファーとしての活動といろいろこなさなければいけないのである。

 

 芸能活動の方はすっかり慣れたもので、カスミがすべておぜん立てするので、私は魔法を使うだけでよかった、それだけで仕事は終わりだ。日に日にカスミのスキルが上がっていくのがわかる、求められてることをきっちりこなすカスミは、やはりこの業界の素養があったようだ。


 グラビアも好評なようで、カスミ単体での注目度も予想外に上がっているようだった。まあ、確かにカスミはスタイルがよい、それは誰より私が一番知ってることだ。


 そしてまた、最近少しずつカスミとの間に心の距離が開いていってるのがわかる、カスミにとっては今が一番大切な時期だからな。チャンスはつかめるときにつかんでおかないと二度やってくるものではない、私はその辺はよく理解してるよ。


 なんとなくだが近いうちにカスミとは別れることになるんだろうな。さすがにずっと勇者をやっているとその辺の機微な変化はわかるものだ。寂しくはあるがまあ仕方ないことである。


 そして教授としての活動というか研究が忙しい。ああ、そうだ、結局私は大泉大臣の申し出を受けることにした。防衛大学で研究をするとともに、教授の座に就くというものである。

 そして政府が出資する会社の社長になるという申し出も快諾した。どういう仕組みで、その会社を設立するのかというのは、実のところ私にもよくわからないのだが、表立って政府が金を出すわけではもちろんない。

 

 日本銀行が実質的な株主となってるような会社を通じて、新しい会社に投資し、設立するという話だった。よくはわからないのだが、どうにでもなると大泉大臣は言っていたので、実際どうにでもなるのだろう。

 経営に関してはしっかりとした人間を用意するので、今は魔法の研究に力を注いでほしいといわれた。


 もちろん私に日本のビジネスの細かい仕組みなど分からないので、大泉大臣を信じてそこは一任した。疑り深い私ではあるが大泉大臣は信用している。信用してるということは、もちろん騙されていても仕方ないということでもあるのだが、勇者の人を見る目は間違いなく確かなのだといっておく。



 そんなわけで私が一番行わなきゃいけないことは、一般人でも魔法が使えるようにする研究とゴルフの練習である。

 特にゴルフの練習が大切だ、年始の放送に合わせて、12月15日の収録日までにそこそこのゴルフ力を身につけなければいけない。スーパースレンダーの桐山美里さんと一緒にラウンドするのに恥をかくわけにはいかないのだ。



「さすが勇者様、センスがすごい。普通こんなまっすぐ飛ばせられないですよ」

 再び私とマネージャーのゆらめきは、練習をしに来ていた。5時間の特訓のおかげで、ボールにあてること、前の飛ばすことはすっかり身につけることができた、コツさえわかってしまえば簡単なものだな、体全体を使って振るのがポイントだ。


「だってクラブは前に飛ばすようにできているのだろう。誰だって前に飛ばすことは簡単にできるだろうに」

 よくスライス(右まがりの球)しか出なくて困るというのだが、私には全く分からない。

「ハイネケンさん、それ絶対ゴルファーとか、次のテレビ特番の前で言ったらだめですからね。多くのゴルフおじさんを敵にまわしますから」

 そんなこと言っても、比較的簡単だしなあ。しかし私が人気商売なのは確かだ。気をつけておこう、まちがってもこんな簡単なスポーツとか言わないようにしよう。


「それにしても、250ヤードが今のところ一杯か。300ヤードくらいちょろいと思ったんだがな。なにかまだ問題があるんだろうか」

 おそらく元の勇者の体なら、300ヤード飛ばすこともできるだろうがな。鋼華君の貧弱な肉体ではこれが精一杯か……。筋トレもしないといけないな。


「もうハイネケンさん! それも言ったらダメな奴です。初心者が250ヤードまっすぐ飛ばしたら、嫉妬しかされませんよ!というかうそつきって言われますよ」

 なぜだ、簡単だろこんなの。むしろ、その体格で私と同じくらいの飛距離を出すゆらめきこそインチキだろう。お前が250飛ばせるなら、私は300飛んでもいいはずなのだ。


「とにかく、俺はいい格好をしたい。なんなら例の大会で優勝をしたいからな。持ってる技は全部教えてもらうぞ、飛距離を伸ばす方法も教えろ」

「……もう、とにかく飛距離は今の飛距離で我慢してください。もう少し体を大きく使わないと飛ばないと思いますし、さすがにそれには時間がかかります。実際250飛べば本当十分すぎます、それに、コースでは練習場より距離出ますんでうまくいけば300近くいきますよ」

「そういうものか? まあ、ゆらめきがそういうならいいけどな」


「でも3回目の練習でここまでしっかりできるなら、次はぜひ私と一緒にコースに出てみましょう。正直コースと練習は全く別物なので、練習場で完璧なハイネケン様もきっと思い通りにはいきませんよ」

 むむむ、なんだ挑発する気か。私、勇者ハイネケンがコースに出たらうまくいかないなんてそんなはずがあるか。勇者のおれは常に一発勝負、むしろ本番の方が強い位の男なのだ。


「そんなことを言うならば、初コースで私と勝負するかゆらめき?」

「しょ、勝負ですか? さすがに初心者相手にアマチュア優勝者の私が負けるはずないじゃないですか」

「ほうほう、そんなこと言うならばじゃあ賭けてもいいな?」

「何を賭ければいいんですか?」

「……もちろん、ゆらめきの体を一晩好きにしてもいいというのでどうだ?」

 正直ゴルフ姿のゆらめきを見てからムラムラしてて仕方ないのだ。なかなか、そういう機会を作ってくれないので、勝負をきっかけに男女の関係を目指そう。ゆらめきも絶対の自信がある様子、ならば断わるまい。


「……いいでしょう、受けて立ちます。正直絶対負けないという自信があります!」

「よし、ならば勝負だ!」

 こうして俺のコースデビューは、アマチュア優勝者のゆらめきとのマッチプレー一騎打ちとなった。

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