第29話「勇者とゴルフ①」

「ハイネケンさん、ゴルフはじめませんか?」

 唐突に、マネージャーのゆらめきに誘われた。


「ゴルフってあのボールを叩いて、穴に入れるやつだよな。」

 スポーツニュースも結構見るのでよく目にするな、ス・ボミちゃんとかが結構かわいいなと思ってるので印象にあるのだが。


「そうですそうです、社長になるんであれば付き合いでゴルフは絶対必要ですよ。今では国のトップの外交もゴルフを通じてやってますから」

 そういえば、先日もカード大統領と綾部首相がゴルフやってるニュースが流れていたな。まあ、興味がないわけでもない。最近戦いをしていないせいで運動不足なのは否めないからな。


「とはいえ、やったことないしな。もちろん私の故郷ではそんなスポーツなかったし、サッカーに近いものはやってたんだけどなあ……。」

 私は腕を組んで考え込んでしまう、見た目は20代だが、中身は40過ぎのおっさんなのだ、いまさら新しいスポーツといわれても……。


「大丈夫です、私はこう見えても学生時代ゴルフをやってましてこう見えても、地方大会では優勝としたことがあるんです。ハイネケンさんくらい運動神経がよければすぐ上達しますよ。」

 おお、そんな過去があったのか、まったく運動神経よさそうには思えなかったが、芸能事務所にいるような人間はやはり何か持ってるのかもしれないな。


「なるほど……。だが正直面倒くさい、その時間があるなら、電気の研究をしたい」

 そうゴルフの練習する時間があるほど暇ではないのだ。


「――もし間に合えば、年始の芸能人ゴルフ大会にも出れますよ。なんとそこには、ス・ボミちゃんはもちろん、ハイネケンさんが会いたがってる桐山美里ちゃんも出ます。」

 なに、ス・ボミちゃんとあのスーパースレンダー美女の美里ちゃんだと!?

 なんて卑怯な手を考えるんだ、このマネージャーは!? 桐山ちゃんとは一度一緒に食事したいと思っていたのだ、さらにスボミちゃんのムチムチボディを目の前で見られるとか、くそう断る理由がない。


「もちろんその場合は同じ組でラウンドできるんだろうな?」

「はい、ファイヤープロダクションの力でねじ込んで見せます。」

 きりっとした顔で、マネージャーのゆらめきはこちらに宣言した。

「よし、やろう!」

 俺は、芝と遊ぶ決意を固めるのだった。


 そして、ちょうどオフだった翌日にゆらめきと一緒に練習場を訪れた。クラブはゆらめきの方で最新モデルのいい奴を買っておいてくれたらしい。

「飛んで使いやすいという噂の、キャリーオン社のエイペックです。いま一番人気があるんですよ」

 そんなんこと言われてもクラブの種類とか分からないけどな。一番飛ばせるのをドライバー、穴に入れるやつがパターっていうことは知ってる。あとはごちゃごちゃとたくさんのクラブがある。一体何を倒しに行くつもりだろう。


「まあとにかく早く教えてくれ」

 いつもの地味な格好とはまるで違う、短めのスカートをはいたゆらめきに対してそう要求した。案外こういう格好をするとゆらめきもかわいいな、意外に胸も大きいし、足もきれいだ。

 うーん、あまり今まで意識しなかったが、ひょっとするとカスミよりもタイプかもしれない。


「じゃあ、まず私がクラブを振ってみますんで、見様見真似でまずはやってください」

 そういって、ゆらめきは鉄製のクラブを取り出した、あれクラブの頭の部分が小さいな、いわゆるアイアンってやつか、ドライバーじゃなくて。

 ゆらめきはクラブを握り、ゆっくりと腰を動かしてクラブを振り上げると、スっと地面に対してクラブの頭をたたきつけた。

 シュパッ!っと気持ちいい音が聞こえて、白球は青空に消えていった、まっすぐと遠くへボールが飛んでいく。

 

「ナイスショット!!」

 俺は思わず声を上げた。いやあ、見事なもんだ! 動作がまるでテレビで見てるプロのようだった。こんな特技がゆらめきにあったとは驚きだ。


「ありがとうございます、何気に久しぶりだったんでちゃんと当たってよかったです」

 ぺこりと頭を下げながら、私に持っていたクラブをわたしてきた。

「じゃあ、さっそくやってみてください」

 そうやってゆらめきは練習打席に私を促す。

「……もう少しなんか、アドバイスとかないのか」

「まあとりあえず見様見真似です。口で説明できるものじゃないので」

 むぅ、まあいいか大体の動きは今ので分かったし、テレビでも見てるからな。そもそも止まってるボールにあてるなんて、誰だってできる。今まで、何匹の動く魔族たちを切り捨ててきたと思ってるのだ。


「よし、うつぞ。」

 とりあえず円を描くように腕を振り上げて、最落下地点でボールにあてるようにすればいいだけだ。

 振り上げて、ボールにあて……あたらない!!

 スカッと、見事に俺のアイアンは空を切るのであった。

「な、なぜだ……⁉」

 私は振りかえって、ゆらめきの方を見つめる。目が合ったゆらめきはクスリと笑う。

「最初はそんなもんです、でもきれいなスイングでした。さすがに勇者様はセンスがいいですね。」

 そういって、ゆらめきはスマホでおさめた私のスイング動画を見せてきた。

 そこには私が想像してた動きとは全く違う動きをする自分の姿が映っていた。

「うう……なんてかっこ悪い」

 イメージは世界で活躍する松川選手のような感じだったのに、全然違う。


「そんなことないです、素振りここまで振れていれば上達なんてすぐですから安心してください、私がびっしびっし指導しますからね。」

 そういうゆらめきの目は炎でゆらめいていた。

 ゆらめきによる地獄の5時間うちっぱなし特訓がこの日始まるのであった。

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