第28話「勇者と日本③」
「やはり、いろんなものが動き出してるのか?」
私はさして驚きもせず聞き返した。
「ええ、中国、ロシア、イスラエル、インドなど複数の諜報機関が周囲をうかがってると情報を得てます。勝手ながら政府方針として周囲の警備はさせていただいていました。」
そうか、どうも最近人の気配を多く感じると思っていたら、やはり警護がついていたのか。
「で、警護のお礼に研究に協力しろとそういうわけか?」
「……いえ、ははは、まあ大きく分ければそれと同じ意味になるかもしれませんがね。私どもはハイネケン様に教授をやっていただこうと思ってます。」
最初は笑いながら返した大泉大臣だったが、えらい真剣なまなざしで本提案をしてきた。
きょ、教授だと!?
「ど、どういう意味だか分かりかねるな。」
私は動揺を隠せなかった、大泉大臣の提案は完全に予想外である。
「教授です、防衛大学校にて魔法学の教授をやっていただきたいと思っています。」
「その名の通り教授をやれってことか。」
「失礼ながら先ほど文科省の人間からもヒアリングしましてね、ハイネケン様はちょうど研究室をもちたいという話でしたから、まさにうってつけだと思うのですが…。」
ちっ、なんだやはり文科省の人間とのやり取りはかませ犬だったか……。最初から大泉大臣は防衛省の提案に賛同させようという腹だったわけだ。
「たしかに研究施設は欲しいが、どうしてもって程ではない。このまま芸能人であっても構わないのだ。民間から話を受けてもいい。」
そう何も国の機関の駒になる必要はないのだ。ここまで有名になった以上、話はいくらでもある、現にハードバンクの団社長から実はオファーをいただいてる。
「しかし、その場合はあなたの身柄の保証はできない、少なくとも防衛大の管轄であるならあなたに手出しできる外国の部隊はありません。それに……。」
「それに、なんだね?」
「もし、魔法が研究され、学生たちがその技術を身につけられるとなれば、他国があなたを狙う理由がなくなります。正直、他の国もあなたの魔法の体系化を狙ってるはず。われわれ、政府としてはいち早く、日本としてあなたを保護する必要があるのです。」
語気に力がこもる大泉大臣。確かに彼の言う通り、魔法が一般的に使えるようになれば私が狙われる心配はなくなる。
しかし……
「そうなった場合、私のタレントとしての価値は著しく下がるな……。」
そう技術を伝えた場合、私のレアリティは著しく下がってしまう。そうなれば、今の楽しい芸能人生活が極貧に代わってしまう可能性だってないわけではない。
「失礼ですが、今のままでもずっと芸能界が重宝してくれる保証はありません。私もマスコミを意識しながら政治をする身として実感していますが、民衆は飽きやすいのです。魔法の話が事実であっても、民衆の受けるイメージは、種無しのマジックをやってるのとそこまで変わりません。そうは思いませんか?」
大泉大臣は言いずらいことをはっきり伝えてきた。
確かにそうなのだ、私の魔法は人間が機械を使えばできることを、機械なしでやってるに過ぎない。私自身なぜこの能力を日本人がありがたく見ているのか、わからないのである。
「……言いたいことはわかる、しかしそういうなら私の魔法を研究したところで自衛隊のメリットもないだろう。」
わざわざ教授にして研究室まで与えて、護衛をつけて大量の予算をさくのはいったい何のためか。
私は一度タバコに火をつけて、大泉大臣の回答を待つ。それにしても、日本のたばこはうまいな。もし元の世界に帰る時があるなら、たばこだけでも持ち帰りたいものだ。そして大泉大臣はもったいぶって話始めた。
「……そうですね、いろいろ狙いはあります。まず、魔法技術を身につけることで、自衛隊の防衛力を高める狙いがあります。ご存知かもしれませんが日本は専守防衛です。ハイネケン様は水や風も操れるとのこと、もし自衛隊員がこれを身につければ、武器を使用せずに敵を制することができます。まさに自衛隊のための能力といっても過言ではないでしょう。」
さらに大臣は、例えば中国が領海に侵入した場合、武器ではなく風によって追い返すことができれば、憲法に抵触せずさらに、中国をあまり刺激せずに済むのだと説明した。
自衛隊の持つ兵器の方が、魔法よりよほど強力だと思っていたが、そんな使い方があるとはな……。たしかに風の魔法は我々の世界でも相手を押さえつけるのに使うことが多い。
「ほかには?」
「この技術を民間に渡すわけには政府としてはいかないのです。民間に渡れば、他国にわたる可能性が十分あります。なので、日本政府としては、信頼できる一部の自衛官にのみこの技術、魔法をですね、習得させたい。もっともアメリカの関与は避けられないと思いますが、米国に対しても圧倒的なアドバンテージを得ることはできます。」
……なるほど、日本政府の考えはよくわかった。非常に面白い、だが大きな穴がある。
「しかし、やはり協力する義理はない。そもそも私は日本人ではないし、他の国が私を高く買ってくれるならそれに越したことはないんだがな。それこそアメリカの方がいろいろやらしてくれるんじゃないかな。」
カスミに対して恩はあるものの特に日本にこだわりなどない。アメリカが私を必要として条件を飲んでくれるなら、それはそれで構わない。
「ええ……、その通りなのですが、ですので日本としてハイネケンさんに納得していただくための更なる提案があります。日本政府が出資、協力しますので、あなたの魔法を産業化するのはいかがでしょう?」
「さ、産業?」
「ええ、防衛大で研究したのち、魔法を学べば身につけられるように体系化します。そしてそれで得られた成果はすべて、政府が作るハイネケンさんを代表とする会社が管理するのです。そしてそれをもとに魔法ビジネスを世界中に展開するのです。どうですか、夢が広がりませんか? 日本は魔法を産業として、再び世界の経済の中心に立つのです!」
大泉大臣はこぶしを握り私の目をまっすぐ見つめながら力説した。
そうか、それが狙いなのか、確かに双方にとってうまみのある話だ。
研究室を手に入れながら、会社の社長の地位も手にする。
確かに、私はこの世界で社長になってみたかった……。
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