第27話「勇者と日本②」
ホテルで昼食後の紅茶を飲んでいると、私の部屋にスーツ姿の3人組が入ってきた。40代~50代と言ったところだろうな。真ん中の少し白髪の入った男がリーダーのようである。
名刺交換を済ませて、部屋のソファーに座って話を聞くことにした。リーダーと思われる男の名刺には局長「
後山はローテーブルをはさんで、私と対面になって座った。もう一人もそれに続く、一番若そうな男はソファーの後ろで立ったままであった。ちなみに私のマネージャーのゆらめきも隣には座らず、ソファーの隣でたったままである。
理由はよくわからない。
「文部科学省としては、ぜひあなたの魔法の力をしっかり研究させてほしいと思っています。しかるべき大学や研究機関であなたの魔法を研究できれば、科学の発展に寄与できるのです。日本のためにもぜひご協力いただきたい。」
後山は非常に熱いまなざしを私に向け、その熱さは言葉にもこもっていた。初め、現状の日本の科学技術の現状とかいうもののレポートをしだしたので、私はめんどくさいので要点だけを話させることにした。
まあまあ予想通りである。
私に日本に対する義理などないので、協力する気などないのだが、条件次第では面白いことになりそうだ。
「研究とは一体、どういうことをされるのですかな。さすがに解剖とかされるのは勘弁願いたいのだが。」
はははといって私は冗談を言ったつもりである。
「も、もちろんそんなことしません。実際に魔法を使った時の体の状態とかをモニターさせてもらって、それを研究するとかです。皮膚の一部をもらったりとか、CTスキャンをさせてもらったりとかはすると思うのですが‥‥‥。」
CTスキャン? ああなんか、わざわざ解剖などせずとも体内の様子を探ることができるらしいな。まったくとことんすごいなこの世界は……。
「害がないのであればな、特に受けない理由もないのだが」
「かなりの予算が下りる予定ですので報酬も十分お出しします。おそらく十分満足いただけるかと……。」
「……うーん、お金というよりは君たちにしかできないことをしてほしいな。どうだろう、私のための研究をするというなら、その研究所を私にも自由に使わせてもらうということはできないだろうか。」
そうお金よりもこの世界の研究の方がはるかに興味深い……。そして私自身も魔法というのがどう分析されるのか大変楽しみである。
するとこれに対しての後山局長の反応は非常に鈍く、先ほどとは打って変わってののトークの滑りの悪さであった。
「……それは私の一存では決めかねますな。研究室、とか研究所とかはそんなポンと与えたり作ったりすること、ができるようなものではないのです。スタッフも必要ですし、機密情報も抱えてますから。」
「そうか……ならば私もそちらの研究に協力する義理はない」
私はあっさり断った、含みすら持たせなかった。この後、防衛省の人間も来るしな、何も文部科学書の人間に頼らなくてもいいだろう。
「……あのハイネケン様の申し出は政治案件になりますので、少しお時間がいただきたいです。できるだけハイネケン様の要望に応えられるようにしますので、ぜひもう一度機会を下さい。いま返事はできかねます。」
さすがにまずいと思ったのか、コロッと態度を変えてきた。しかし結局言ってることは引き延ばしなだけじゃないか。これも役人仕事ってやつか、自分だけで全て決められるわけじゃないんだろう。仕方ない理解してやろうじゃないか。
「まあ、分かった。この後、防衛省とも会うんだが話は知ってるか?」
「はい、伺っています。どんな内容でお話に来るかまでは存していませんがね。」
なんだ、知ってたのか……焦らせてやろうと思ったんだがな。
――そうして、文部科学省の人間は帰り、防衛省の人間がやってきた。
そして、今度来たのは二人だった。
そして片方の人間は私にも見覚えがあった。
「どうも初めまして、ハイネケンさん。防衛大臣の
大泉さんは名刺ではなく私にまず手を差し伸べて握手を求めた。私はそれに応えがっちりと握手を交わす。
まさかこんな大物があらわれるとは思わなかった。さわやかな笑顔で奥様の人気を独占中の好感度ナンバーワンの政治家「大泉純」。私の大好きなヒルノビでもよく特集するのでいつか会ってみたいと思っていたのだ。元総理大臣の息子であり、いずれは彼自身も総理大臣をやるだろうといわれてる。
いやあうれしいなあ。一度会いたかったんだよ大泉くん。
「こちらこそお会いできて光栄です、大泉大臣。」
私は笑顔で彼のあいさつに答える。
握手がすみ、二人は先ほどと同じようにローテーブルをはさみ対面に座った。
「聞いてはいましたが、ハイネケンさんはちゃんとお話をされるんですね。」
相変わらずテレビでは私は魔法を披露するだけで一切しゃべらなかった。カスミが売れるまでは、私が実はしゃべれるということは隠しておくつもりである。そういえば今頃はカスミは撮影中……。まあ、昨日散々遊んだからいいか。
「ええ、ちょっとした演出でテレビでは話しませんがね。私は結構おしゃべりなもので、芸能界ではすっかり有名になっています。」
なので、ばれるのも時間の問題なのである。
「ぜひ、魔法の話をたくさん聞きたいものです。あの一応隣の人間を紹介させていただきます。防衛事務次官の佐藤です。」
そういって、大泉大臣は手のひらで隣の男を指した。
「防衛事務次官の
佐藤さんは手を差し出したので私も、それにこたえ握手を交わす。
それにしても文部科学省は二人に比べればずいぶん小物がやってきたことになるな。政治に関しては少ししか勉強してないが、事務次官というのは実質、省庁のトップの人間であるはずである。
そう考えると最初から文部科学省はかませ犬だったのかもしれないな。
「で、今回の要件は何でしょうか、大泉大臣?」
早速本題に入る私、ほっておいたらどんどん雑談をしてしまいそうだ、あいにく今の私はそこまで暇ではない。
そして、大泉大臣はじっくり腰を落ち着け、ゆっくりと話し始めた。
「実はハイネケンさん。すでにあなたを身柄はいろいろなところから狙われています。」
大泉大臣の話は私を驚かせる発言から始まった。
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