第25話「キャビンとオリオン②」

「とりあえず炎による直撃は避けられたと思うかオリオン?」

「あぁ……。それよりを使う思いがけないチャンスが来たのかもしれない。」

 そういって、オリオンは後部座席のさらに後ろに積んであった、人形のようなものを指さした。人形は、白い服を着させられてるようで、手には剣のおもちゃのようなものが握らされている。


「ずっと思ってたんだが、なんなんだこれは?」

 私はこれが何かは知らされていなかった。


「これはな、いわゆる風船ってやつだ。中には、酸素と水素の混合気体が含まれている。この世界の素材で水素を密封するのは苦労したよ。」

 さらにオリオンは、昨日ハイネケンの協力を得て、酸素と水素を水を電気分解させて発生させたのだといっていたが、私にはよくわからなかった。そもそも電気とはなんだ。


「で、これをどうするんだ。」


「これを上空から、魔王に向かって落とす。もし魔王が勘違いしてこの物体に対して炎でも撃とうものならしめたものだ。それによっておこる大爆発は、いくら魔王と言えど無傷では済まないだろう。」

 ふーん、そうなのか。この風船を落とすことで、そんなことが起きるとはな、さすが世界一の天才といわれる男の考えは違うな。この人形の足元についてるのは何だろう。


「この足元のやつはなんだ?」

「あぁ、重りをつけておかないと、水素風船は飛んで行ってしまうからな。本来は地面固定用で、こんな風に落とすために使うつもりはなかったのだが……。ああそうだ、キャビン。後ろにある、石油を人形の衣類に振りかけておいてくれ。」

 私はオリオンに言われた通り、予備の燃料として積んであった石油を人形の衣類にふりかけてみた。当たり前だが、嫌なにおいがする。石油がひどい色をしてるせいで、まるで人形が血まみれになってしまったかのような姿になった。


「なんでこんなことを?」

「説明は後だ、間もなく霧が晴れる!よし、いまだその人形を落とせ!」

 私は言われるがままに、その人形を魔王に向かって落下させた。事情は分からんが天才の指示なら仕方がない。少し方向がずれたので、そこは風の魔法によって微調整をして進路を魔王の方へと定めた。


 人形はまっすぐに魔王の元へと進んでいく。

 そして、すぐに私たちの戦闘機はその場を離れて飛んでいったので、最後まで行方を追うことはできなかった。

 

 人形を落下させてから数秒後、後方からどぉーっっっんっという先ほどの水蒸気爆発に負けないくらいの大きな音が聞こえた。


「やったか!?」

 操縦席のオリオンは、こちらを見ずに私にそう尋ねる。

 操縦席のオリオンの代わりに私は後方を振り返る、水蒸気の雲のようなものが地上から小さく湧き上がってるのが見えた。ちょっと爆発が大きすぎないか?


「魔王を倒したかはわからないが。確実に爆発してる。」

 そうやって答えた私だったが、その直後、予想外のものがわたしの視界に収まった。

 こちらの方にまっすぐ向かってくるドラゴンである。遠く上空に小さな浮遊物があるなと思ってたら、あれはドラゴンだったか。


「まずい、オリオン全速力で逃げてくれ、ドラゴンが来る!!」

 すぐに危機的事態だと分かった、この戦闘機は早いとは言えドラゴンに勝てない。それにしても使えるドラゴンは向こうにはもういないと聞いていたが、シトラスの奴め嘘をついたのか?


「ドラゴンはやばいぞ、とにかく逃げよう。キャビンは水魔法で雲を作って、少しでも俺らの姿が見えないようにしてくれ。」

 オリオンがそう指示したので、気休めだとは思うが一応私はそうした。

 明らかにあのドラゴンはこちらに向かってきている、存在はもうばれている、ものの数秒で追いつかれるであろう。

 

 しかし、ドラゴンはこちらへは向かってこなかった。

 途中で引き返したのか、地上に降り立ったのか。

 とにかく、ドラゴンは私たちをおってこなかったのである。


「助かったと思うか、キャビン?」

「わ、分からないがとにかく、追っては来なかったな。そろそろ、ギネスを助けに戻らないか、オリオン?」

 こちらが無事だった以上、ギネスの身体が心配である。私はそうやってオリオンに提案した。


「いや、バルサバルの安全が確保できない限り、あそこに行くことはできない。それにもう燃料がやばい、悪いがこのまま、デザス王国のカルナバルに向かわせていただく。」

 そういったオリオンは、ドラゴンがこっちに向かってきた時点で進路をカルナバルに向かわせていたようだった。そうか、燃料の問題があったのか。カルナバルはバルサバルに最も近い城塞都市で、今回デザス、シュタント連合軍の魔族攻めの前線基地となってる場所である。


「し、しかしギネスが……?」

 私が与えられた使命はあくまで、ギネスの安全なのだ。


「すまんが、俺の第一は自分の命だからな。心配せんでも、そう簡単にくたばらないだろう勇者ならば。」

 そういって、オリオンは私の心配をよそにカルナバルに向かい続けた。


 操縦がオリオンである以上、無理に従わせるわけにもいかない。仕方ない今はギネスを信じて、落ち着いたらバルサバルのエルフにテレパシーで様子を聞くとしよう、今のところは何の連絡も取れなく非常に心配ではあるのだが。


 わたしとオリオンを乗せた戦闘機は、炎上、爆発するバルサバルをあとにしてカルナバルへ向かった。

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