第24話「キャビンとオリオン①」

 お初にお目にかかる。私はキャビンというものだ。魔法と森の国シュタントで生まれ、忌まわしきハイエルフとダークエルフのハーフにして、男性、女性両方の性質をもつ両性具有アンドロギュヌスであり、ダブルハーフのキャビンなどと呼ばれている。正直この呼ばれ方は好きではない。

 

 忌み嫌われていたこともあって森の奥に引きこもっていたのだが、勇者ハイネケンに切望されて、シュタントの革命に参加してからは、すっかり自信をもてるようにななり、革命後はシュタントの軍を束ねる軍団長として主にエルフの部隊を率いている。エルフ達が私のことを本当はどう思ってるかはわからないが、今のところはうまくやれていると思う。


 一応ハイネケンとは恋愛関係にあると思っていたのだが、どうも最近私のことをかまってくれないようだ。少し前まではいつも一緒にいてくれたのに、あの魔王城での逃走劇からはまるで別人のようだ。

 

 そういえば、シトラスって女が現れてからは、彼女とばかりいっしょにいるような気がする。私のような半端な女より、そりゃああんなにスタイルのいい、ちゃんとした女の方がいいのかもしれないが、そういうのを気にしないハイネケンが好きだったのに、そこがすごい悔しい。

 わかってはいても、やはり両性具有である自分が憎らしく思う。こんな私を一時的にでも愛してくれただけとても光栄なのだが、それでもやはりハイネケンの愛は私だけに向かってほしいと思うのは私のエゴなのだろうか。


 そんなハイネケンから久々にお願いをされた。

 バルサバルにいる弟の加勢をするために、バルサバルに飛んでほしいというものだった。飛んでほしいといったって、そこまでの長距離移動は私にはとてもできないと言ったら、勇者オリオンが戦闘機でそこまで向かうのだといっていた。


 もちろん断るわけなどない。いくら最近のハイネケンが私に冷たいとはいえ、私はハイネケンを愛している。ハイネケンのお願いならばどんな無茶な要求も聞くし、ハイネケンの役に立てるならば死んでもいいと思っている。


 そんなわけで、今私は戦闘機という乗り物で、デザス帝国の魔王の大陸にほど近いバルサバルという要塞に向かっている。万が一、魔王がバルサバルに現れた場合に、ハイネケンの弟のギネスと共闘するためである。正直、この間の魔王城での戦いで追った足の調子がよくはないのだが、魔法を使うだけなら問題ないはずだ。


「オリオンといったか? 君はもともとシャフトの人間じゃなかったか。」

 私は操縦席のオリオンにそう尋ねた。

「ああ、いろいろあって選挙に負けたりしてな。今は行く場所もなく、勇者ハイネケンに拾ってもらったって感じだよ。」

「ハイネケンとは兄弟ということになるんだろうか。」

「一応父はラガーだから、兄弟ではあるのだが意識したことはないな。容姿もほとんど似てないし。」

 たしかに二人は全く似ていなかった。ふつう何らかの接点があってもよさそうなものだがな。少し口元が似てるような気がするが。


 間もなくバルサバルだ、シュタントから飛行機でもうあ15時間近く飛んでいる。途中で休憩もはさんでいたが、これはドラゴンと同じくらいのスピードが出せるらしい。まさかシュタントから、デザスまで一日でたどり着けるとは思わなかった。


「いかん、遅かったかもしれん。」

 操縦席のオリオンが前方の景色を見ながらそう言った。

 後部座席の私も同じように前方を見ると、遠くの方から黒煙が上がっているのが見えた。

「あの辺りはちょうどバルサバルのあたりだ。最悪の場合、すでに陥落されてしまったかも知れん……。」


「あとどのくらいでつくんだ。」

 私は心配になった、ハイネケンの弟のギネスを死なすわけにはいかない、ハイネケンのためにも何とか彼を助けたい。


「5分もあれば着く、急きょ最大出力で現場に向かっている。」

 5分か間に合うといいが……。それにしても予想外だ。いくらなんでもこちらの動きよりも早く、魔王が動いてるとは思わなかった。あくまで私たちは念のためにバルサバルに向かっただけなのに。


 するとバルサバル要塞よりもはるか手前で、朽ち果ててる戦車と、そしてハイネケンによく似た青年が、漆黒の肉体を持つ魔物と対峙しているところを私の目がとらえた。ちなみに私の視力はものすごくよい、かなり遠くのものまではっきり見ることができる。


「オリオン!スピードを落としてくれ。あそこに間違いなく勇者ギネスがいる。」

 向かっている先の、手前側に勇者ギネスが、そして奥にいる漆黒の物体がおそらく魔王であろう。いままさに、ギネスが魔王に向かって魔法を放ったところだった。


「間に合うか、キャビン。最悪の場合戦闘機の上から魔法を放つことになるが行けるか?」

「任せろ、魔法のコントロールで私の右に出るものはいない!」

 ちなみのこの戦闘機は、操縦席、後部座席ともに表にむきだしになっている。おかげで、ものすごい風あたりが強いが、ドラゴンに乗るよりはましだ。

 大丈夫だ、もう少し近づければ私の魔法の射程に入る!

 視界に入る二人の大きさは、どんどん大きくなる。

 そして間もなく二人の上空を通ろうとしたそのとき、ギネスは魔王ゴーガに向かって五本の水の竜を放った。

 おいバカ、早いってばその程度の水の量じゃ足りないんだよ、案の定その水の竜に合わせて、魔王ゴーガも炎を放った。あわてて私もそれに向かって、魔法を放つ。


5本の指から放たれる水の流星ファイブスターフロッグスプラッシュ

 ちょうど、ギネスの真上位から魔法を放つことになった。本来、空中を飛行中に魔法と魔法がぶつかる場所を狙うなんて言うことは、難しいことこの上ないだろうが、私のファイブスターはホーミング機能付きだ、狙いを外すことなどない。


 そして、ゴーガの炎がギネスの水を包み込もうとするその瞬間に、私の水の魔法が間に合った。負けそうになる水の勢いが再び強まり、炎と均衡を保とうとする瞬間に、二つは蒸気爆発を起こした。


 どおおおおおおおおっつつん―――――!


 轟音が空中にも伝わり、爆風の影響はちょうど真上を飛んでいる私たちにも少なからず影響を与えた。わずかに気体が風でふわっと持ち上がる。コントロール不能になるほどではない。

 目下には、蒸気爆発による白い霧が広がっていた、今二人の姿は視認することはできない。私たちの飛行機は、その白い霧の上を旋回するようにしながら、地上の様子を探っていた。

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