第23話「ハイネケンとオリオン③」

「時にオリオンさっそくお願いがある。」

 私はオリオンを自室に招き一緒に食事をとることにした。

 この場には私とオリオンしかいない、シトラス達は部屋の外に待機させた。


「お願いか、もちろん聞くよ。しかし不思議なもので、俺は鋼華君が魔王だったときも、そばにいてよくこうやって話していたのものだ。また同じ状況かと思うと面白いな。」

 そうだろうな、オリオン以外に私と鋼華君の状況を理解できるものは他にいないのだ。私がそうなように、鋼華君もオリオンにしか話せないことがたくさんあったに違いない。さて、さっそくお願いことを切り出すとするか。


「お願いというのはまず、バルサバルに派遣してる弟のギネスのことだ。私の読みではこのままではあいつが魔王と戦うことになる。そばにいたのなら魔王の弱点とか知らないだろうか。」

 もちろんギネスが戦わないことが一番いいのだが、もしぶつかった場合まともに戦っては勝ち目がない。少しでも勝ちの目を作りたい。


「ふむ、魔王の弱点か。まぁ体の丈夫さはドラゴン以上だからな。生半可な攻撃は通用しまい。オリオン弾でも通るかどうか怪しいな。しかし魔王の攻撃を防ぐ方法なら、ないわけじゃない。」

 ……なんだと、魔王の攻撃を防げるのか? というものの私は直接、魔王の攻撃を見たことがない。その辺も含めて本当にオリオンに会うことができてよかったな。


「どうすればいい。」


「魔王の攻撃手段はシンプルだ。炎による剣か竜の二択だ。もちろんほかの魔法も使えるだろうが、この二つに自信があるからな、基本的にはこの二つで押し切ってくるはずだ。」


「……だが攻撃手段がわかったからといって、どうやって防ぐというんだ。魔王の炎の威力のうわさは聞いたことがあるぞ。おそらく、ギネスでは対抗できない。」

 ギネスは私の次ぐ魔力の持ち主ではあるが、それでも正直私の魔力の半分といったところだろう。


「うむ、これは日本というか地球にいたハイネケンならわかってもらえると思うが、あらゆる物質は元素でできている。その中に水素と酸素という物質がある。この水素と酸素が2:1の混合気体を点火すれば大爆発を起こすことができるんだよ。」


「大学で勉強したときに水素と酸素は習った、水素が爆発するのも分かるが、しかしそれをどうやって発生させるつもりだ?」

 ちなみに水素と酸素の混合物に火をつけて爆発させることを爆鳴気ばくめいきという、オリオンは向かってきた炎を爆鳴気によって止めるつもりなのだ。しかし、水の魔法は存在するものの、水素と酸素を生み出す魔法はない。


「さすがに、その場で発生させるのは無理だろう。だからこの爆鳴気による作戦は仕上げに使うのみだ。奴の炎を防ぐだけなら、魔王の炎を上回る大量の水をぶつけるだけでいい。ものすごい単純だがな。それによって、一瞬で水は水蒸気に代わるはずだ。その時体積は1000倍以上になるからな、一気に気体が膨張し、爆発が起きると考えられる。」


「しかし、そんなことが可能か。魔王の炎は、水魔法を簡単に打ち消すと聞いてるぞ。」

 聞いた話ではあるが、魔王が勇者ハイネケンを演じてた時の炎の剣に対して、水の魔法は無力だったと聞いている。


「だから、大量に必要なのだ。炎に対して圧倒的に上回る水をぶつける必要がある。」

 そんなこと言ってもギネスは確かに高い魔力を持っているが、魔王の炎に勝つほどではない。結局机上の空論ということか。


「一人でダメなら二人でかかればいいだろう。なんで君たちはそうタイマンで戦うことを考えるのだ。いないのか誰か水魔法の強い者は?」

 水魔法の強いやつか……もちろん私が一番だろうな。

 確かに私とギネスの二人がかりならば、奴の炎を制すことが可能かもしれぬ。


「そうか、なら私が出向こう。」

 今思えば最初からそう判断すればいいだけだった、何もオリオンに相談する必要などもなかった。何より自分の弟のことだ、自分で守るのが何より確実で、筋が通る。


「……おいおい、君は王なんだろうここの、そんな簡単に前線に行くなよ。それにまだ魔王がバルサバルに侵攻すると決まったわけじゃない。あくまで予想に対して、一応手段を講じているだけに過ぎないんだ。それに危機はバルサバルの弟より、目の前のファウストって要塞の方が高い。君が前線に出向くのはお勧めしないけどな。」

 オリオンは食事をする手を止めて、私の提案に異議を唱えた。確かにオリオンの言う通りだとは思うが、しかしこの上からの物言いは少し腹が立つな。

 今はそんなこといってる場合でもないので、他の人物を考える。


「私に匹敵する魔力というと……、そうか、キャビンがいるか。」

 両性具有にして、ハイエルフとダークエルフのハーフであるキャビンは、水魔法に関しては私より強いかもしれぬ。彼、いや彼女ならば、私が現場に出向くよりうまくやるかもしれん。


「そうかそんな人材がいるのか、じゃあ問題ないな。そして、爆鳴気を使う手段に関しては、ちょっとした兵器を思いついた、そんな時間がかかるものでもないのだが、しかしどうやらここには電気というものが通ってないらしいな。シュタントは魔法の国だから仕方ないか。」

 そういってオリオンは壁にあるランプを見つめた。確かにシュタントでは電気は通ってなく明かりの手段は、オイルに火をともすという、原子的な手段を用いている。壁の明かりを見てオリオンはそれを確認したのだろう。


「電気が必要なのか。」

 私はオリオンに尋ねた、そんな言い方をする以上、電気が必要な何らかの手段をとるのだろう。

「ああ、シャフトでは俺が開発したからな。問題ないのだが、ここで電気を開発、配備するのは結構時間がかかるよな。」

 オリオンは少し困ったような表情を見せた。


「大丈夫だ、私、勇者ハイネケンは電気の魔法が使える。」

 私は自信に満ちた表情でそう伝えた。

 大学で電気を学んだ時に、これは魔法化できると考えていた。そして案の定、こちらの世界に戻った時に、理論をもとに魔法をつかってみたところ電気を産み出すことに成功したのである。

 さあ、オリオンよ電気をどう使うつもりだ。教えてもらおうじゃないか。

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