第21話「ハイネケンとオリオン①」

<時は戻り、ハイネケンとシトラスの二人が、ミネとダンヒルがファウストを占拠したという報告を受けた場面である>


「そのミネとダンヒルっていうのは誰だ。」

 私はシトラスが発した言葉にそう尋ねた。魔族の事情など私はもちろん知らない。シトラスは最初ためらうそぶりを見せたが、すぐ話始めた。

「……魔族の六魔団長のうちに二人です。巨人族とオークとかゴブリンたちのリーダーです。」


「その二人がファウストを乗っ取ったってことは魔族の内紛てことか?」

この質問に関してシトラスは答えづらそうで口を閉ざしてる。


「違うのか?」

私は口調を強めさらに問う。

「……その通りだと思います。」

 パシンっと、私はすぐさまシトラスの頬を何も言わずに叩く。

 質問にはすぐ答えろというそういう意味合いだ。


 なんども言っておくが好きでこんなことをしているわけではない、私とシトラスの間の主従関係を築くためには仕方ないのだ。

 

「申し訳ありませんでした。」

 すぐ土下座しようとするシトラスを私は制す。姿勢が見られただけで十分だ。


「シトラスの見解を聞かせろ。」

今度はすぐシトラスは答えた。


「しばらく魔王ゴーガの真偽騒動が続いたので、どちらも信用できなくなった二人が決起したものと思われます。どちらも好戦的なタイプではないので、自ら攻勢に出たりはしないと思います。ただ、部下の信頼が厚いので、あの二人が動いたとなると、もう説得は難しいと思います。」

 つまり私がゴーガのふりをして、ファウストを手中に収めることは難しくなったというわけか……。


「ゴーガはすぐにファウストを奪還しようとすると思うか?」

 もしそうならばそれに乗じてシュタント軍を動かすことができる。


「……いえ、魔王はやさしい方なので、そんなことはしないと思います。逆にあの二人の性格も知ってるので、ほおっておくのではないかと。」

 少しいい方に敬意がこもっていたのが気に入らんが仕方あるまい。そういうところは今後じっくり教育すればいいだけだ。


「ならば、ゴーガが動くとすれば連合軍を組んでるシュタントとデザスに向かってということになるな。」

 一瞬対峙しただけだが奴は相当強い、ゴーガ一人だけでも並みの軍隊なら全滅させられてしまうだろう。シュタント軍は私の大切な仲間だ、もっとも本来の仲間とは違うものだが、それでも祖国の大切な仲間だ、おろそかにはできん。


「シトラス、今この場にキャビンを呼べ、作戦会議だ。」

 

 シトラスとキャビンはエルフ同士なのでテレパシー通信が可能である、まったく便利だな。もっとも日本にいたころは、電話という便利なものがあったので、こいつらの必要などなかったのだがな、まったく地球人は恐ろしい。

 

 五分ほどでキャビンはやってきた。


「すまない、ハイネケン。シャワー浴びていたのだ。」

 確かにキャビンの髪の毛は濡れたままだった。そうか残念ながら、この世界にはドライヤーというものがない。まぁあったところでそれをかけてる時間もないだろうがな。


「今、バルサバルはどうなってるんだ?」

 来たばかりのキャビンにさっそく私は尋ねた。


「バルサバルには、シュタントの軍とデザスの連合軍が送られているよ。ってハイネケン、君が指示したんだろう。なぜ私にいちいち尋ねるのだ?」


 そもそも私はおまえ、キャビンのことをほとんど知らないんだよ、あの禁忌を犯した夫婦の忌まわれた存在としてのお前しか記憶にはない。そんな、お前と関係を持ってしまったとは、いくら魔王ゴーガがやったこととはいえ吐き気がする。


「……確認だ。そしてその指示にあたってるのは誰だ。」

 そう尋ねると、なんでそれを聞くんだとばかりに、首を振りながらキャビンは答える。


「君の弟のギネスが行ったんじゃないか、君の代わりに説得したのは私なんだぞ。全くもうしっかりしてほしいぞ、ハイネケン。」

 ギネス…。

 なに、ギネスが前線にいるだと!


 初耳だ、もちろんギネスのことは気になっていたが、私が自身の手で王を殺してしまったという話を聞いた瞬間に、ギネスは俺を軽蔑してるだろうと思い、完全にもう交流することはないだろうと思っていた。だからこそあいつの詳細を今まで聞かなかったのだが、そうか、ギネスが……。

 

 しかしだとすればギネスが危ないな。ゴーガ相手ではギネスでは歯が立たん。

「キャビン、ギネスを国に戻すことはできないか。あいつが、あいつの身が危ない。」

 俺は、キャビンの両肩をつかんでそう訴えた、俺は、本来のおれならばギネスを前線に立たせるなどするはずがないのに。


「き、君がギネスに対して偽ハイネケンを演じて、魔族をバルサバルで足止めするように言ったんじゃないか。急に止めるなんてどうしたんだ。たしかに、ハイネケンの作戦が失敗した以上、もうギネスがバルサバルにいる必要はないと思うが。」


「そうだ、もう必要がない。だからすぐに戻すのだ。」

 そうやって訴えるとキャビンは、バルサバルに派遣されたハイエルフに対して連絡を取り始めた。


「……あぁ、キャビンだ。ギネス様とは連絡取れるかい。……そうだ、ハイネケン様からの命令で、うん、戻ってくれるように伝えてくれ。もう用はすんだ。……、なに戻る気はないだって、‥‥‥なぜだ、今自分が離れると、再び魔族が襲ってきた際に対抗する手段がないだって……。ハイネケン!断られたぞ。」

 キャビンが、慌てふためいて私にそのように伝えた。

 あの男は無駄に責任感だけ強いからな、しかも今までなるべく危険な目に合わないように、前線に立たせないように過保護にやってきたもんだから、この機会を逃すまいとしてるな。


 これは、エルフを通しての通信で説得するのは厳しいだろうか。

 そんなことを考えていると、私たちがいる部屋に一人の兵士が飛び込んできた。


「ハイネケン様、ご報告が!」

 ずいぶん息を切らせて慌てている。


「どうしたんだ。」

「あ、あの、シュタント領内に謎の空飛ぶ乗り物がやってきまして、それが中に乗っている人間が、何と勇者オリオン様だったのです。ぜひハイネケン様にお会いしたいと。」


 勇者オリオンだと!?

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