第20話「灼熱のバルサバル②」
「このままなら、デザス首都も俺一人で落とせそうだな……」
と余裕をぶっこいていたら、
「っあ!」
背中に、さすような痛みを受けた。
振り返ると、20m程度先に、全身を白い鎧で包んだ男が、こちらに人差し指を突き出して立っている。
「わたしの
その男はぼそっとそんなことを言った、聞こえるように言ったつもりもないだろうが、あいにくだが俺は地獄耳だ。
あの顔はハイネケンか!?
いや、似てるが違う、そうか俺がバルサバルにハイネケンの偽物として派遣したハイネケンの弟の『ギネス』か!?
俺が勇者ハイネケンと入れ替わっていた時、陽動のためにここバルサバル要塞にはハイネケンの偽物を用意する必要があった。そこで白羽の矢が立ったのが、目の前にいる男ハイネケンの弟ギネスだ。
もちろんギネスは、シュタント国王を殺した張本人であるハイネケンを許しちゃいなかったが、魔王を倒すためだとしつこく説得をすると、重い腰を上げて協力してくれた。真の魔王である俺は、なかなか複雑な気持ちだったがな、いや、それは嘘だけどな。
すっかり忘れてたが、そういやここバルサバルにはギネスがいるんだった。少しだけ厄介、というか楽しみだな、まともに勇者の血を引いたやつと戦うことなど初めてだからな。
「俺の体に傷をつけるとはやるじゃねぇか。お前は誰だ?」
おれは相手に聞こえるように大声で言ってやった。
「悪に名乗るなど名など持ち合わせてない。」
向こうはきりっとした表情で、そうはっきり言った。
いいね、ザ・勇者って感じで、俺のテンションは上がってきたぜ。
「じゃあ俺は名乗ってやるぜ、俺はな魔王ゴーガ本人だよ。」
「!?」
相手は明らかに表情をかえた、そりゃあそうだろうな。まさかこんな最前線に魔王自ら乗り込んでくるとは思いもしないだろうからな。
相手は何も答えず、そしてすぐさまに片手を頭上に掲げ、まっすぐこちらに振り下ろす。
そして、5匹の水の竜が放たれた。
あれは、キャビンが使う「
俺もそれに合わせ、俺の左の指先から5匹の炎の竜を、相手の5匹の水の竜に合わせて放った。こっちは10本同時に放つことができるが、まぁ様子見ってやつだ。
合計10匹の竜は、俺とあいつちょうど中間地点でお互いに激しくぶつかりあった。その瞬間に、バッシャァァアァァン!!と大きな爆発が起きる!!
「なんだ、なぜ爆発が!」
衝撃はすさまじく、爆風が俺を襲った。吹き飛ばされはしなかったが、目の前は霧のようなものであたり一面真っ白になっている。
おかげで完全に視界が奪われやつの白い鎧のせいもあって、姿を見失った。
「どこだ?」
視界が頼りにならない以上、音を頼りにする。
すると俺の背中の方から水流の激しい音が聞こえてきた。
「すでにほかの5匹水流を放ってやがったか!?」
5本の水龍が俺の背中に向かってくる、俺は素早く振りむいて炎の剣でそれを防ごうと思った。しかし、それをためらった。
先ほどの現象は水蒸気爆発……?
通常であれば、おれの炎は相手の水をすべて蒸発させるのだが、ある程度の魔力の力があれば、相殺させて爆発するのかもしれない。今までに経験がなかったことだが、もしそうならばさすがに近距離であの爆発を受けるのはまずい。
俺はあわてて、
貫通されるだろうが、直撃よりはましだ。水対水によって威力を減らす。
そして水の5竜が俺を直撃するその瞬間、
「ぐあっ!!」
衝撃は正面からだけでなく、俺の背中をも襲ってきた。
龍がぶつかった瞬間、俺の背中の翼が引きちぎられた、いや何か鋭利なもので切り裂かれたような感触を受けたといった方が正しい。
振り返れば、目の前にはくるりと体を翻し、こちらから離れようとするギネスがいた。
ヤロウ、霧に紛れて背中にむけて飛ばした水の竜をおとりに、自ら接近攻撃に来やがった。しかも
たしかに、俺の翼は本隊に比べそこまで丈夫にできているわけではない。構造上、密度が小さいからな。
しかし、その接近は高くつくぞ勇者ギネス!
俺は翼の痛みに意を介さず、長さ10mの
相手の体は白い鎧の効果もあって、霧に隠れていてみえないが関係ない、半径10mのノーネームから逃れる手段は奴にはない。
手ごたえあり。
そう思った瞬間、再び先ほどと同じ水蒸気爆発がおこった。
爆風が俺とギネスの二人を襲った。先ほどとは違い近距離なのでさすがに、今度は俺の体も吹き飛ばされる。
5m程度後方に俺の体は吹っ飛ばされた。が、ダメージはたいしてない。
ギネスめ、自分の身体が傷つくのを承知で、炎の剣に大量の水をぶつけやがった。こんなかわし方があるとはな、確かに炎の剣を直撃されるよりはす蒸気爆発の方がましかもしれねぇ。
しかし、この爆風程度では俺にダメージを与えられないが、果たしてお前はどうだ鎧をつけてるとはいえ、爆発の威力にお前の体は持つのかな。
そして爆発の効果で、霧は晴れていった。
あたり一面の視界が元にもどる。
が、いない!?爆発で吹き飛ばされたとはいえ、ギネスの姿は視界にないのだ、隠れたのか逃げたのか。そんなわけない、あんな危険な真似を冒す奴が逃げるはずがない。
「上か!」
おれが上空を見上げるといま、まさにこちらに向かって、剣を突き立てて空中から降りてくるギネスの姿をとらえた。
大したもんだぜ、あの爆発とさらに風の魔法を利用したのだろう、はるか上空に飛び上がり、俺の視界以外のところから攻撃を仕掛けてくるとはな。しかも自分の身体のことなどお構いなしかい、見るところ体中が血だらけでぼろぼろだな。
が、俺が気づいた時点でお前は終わりだ。
落下中の人間に、俺の炎による迎撃を防ぐ手段はない。
食らえ全力の俺の炎による10の竜の総攻撃を。
「
俺の十本の指先から、十の炎の竜が目前に迫るギネスに向かって放たれた。
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