第19話「灼熱のバルサバル①」

 ピアニッシモのかったるい語りはもういいだろう。やはり主役は俺魔王ゴーガだ。


「さあて、いっちょやるか。」

 俺は魔族の本土メンフィスの南西に位置するコルド帝国の中で最も、メンフィスに近いバルサバル要塞の上空まで来た。

 さすがに敵もこちらに気づいたようで、こちらにむかって銃撃を始めたが、残念だがその銃で俺の体を傷つけることはできない。お前らには竜の装甲を貫くオリオン弾の技術がわたっていないということは、ピアニッシモからの情報で知ってるんだよ。


俺の怒りの槍に文句は言わせないノークレーム


 俺は、長さ10mの炎の槍を右手に出現させた。人間の体では5、6mが限度であったが勇者としての経験と、魔王の体が戻ったことで、10mサイズの炎を生み出すことが可能となった。

 俺は、その10mの炎槍えんそうを目下にあるバルサバル要塞の中央部、要は司令部があるであろう部分におもいきり投げつけた。


「いけぇぇぇぇぇっ!」

 炎の槍はまっすぐ、重力にひかれ、狙い通りぴったりと要塞の中央部に引き付けられていく。

 シューーーーーーーッ!

 ごぉぉぉぉっっっっ!!!


 炎の槍は要塞の中央を貫き、周囲を炎上させる。広範囲に及ぶ攻撃ではないが周辺にいた人間は即死であろう。

 もっとも、一発で終わらせる気などさらさらない。

「ノークレーム!」

 俺はさらに炎の槍を繰り出し、そして目下の要塞に向かって投下する。次々と槍を繰り出しては投下していく、5本投下した時点で、すでに要塞が炎獄と化しているのが上空からでも見て取れた。


 俺の位置からでは、要塞は両手に収まるような大きさにしか見えないが、暗闇の中をきれいに赤く映し出し、なかなかの絶景であった。


 やがて、ずっと続いていた地上からの射撃がやんだ、観念したかな。

 とどめを刺しに行くとするか。

  

 俺は俺よりはるか上空で待機しているアイシーンに陸上に降りる合図をする。アイシーンはドラゴンから飛び降りて、それを俺は受け止める。

「あら、抱きしめられるなんていつ以来かしら、魔王様。」

 アイシーンがちょっとした皮肉を俺に言った。


「さぁな、夢の中ではいつもなんだけどな。」

 おれはちょっとしたきざなセリフを返す。


 そして俺とアイシーンは二人で、要塞から逃げ出してくる無煤の兵士たちの方に向かって、どんどん上空から地上へと距離を縮めていった。豆粒の大きさよりも小さかった兵士たちがぐんぐん大きくなって迫ってくる。

 ドンッ!


 そして堂々とおよそ5000程の兵士たちの前に立ちはだかった、いや舞い降りたといった方が正しいか。お前らに引導を渡す天使が地上から舞い降りたってところだな。


 俺らは燃え盛る要塞を背に、目測で約5000の兵たちによって囲まれた。囲まれたって表現は正しくないがな、俺らがわざわざ5000人の中に入り込んだわけだから。


 兵たちは俺たちから一定の距離をうかがって取り囲んでいる。何をうかがっているんだかな、先手必勝で飛び込んでくるぐらいの勇気を見せてくれよ。

 ならばまあ、先手必勝と行きますか。

わが真の最強の剣に名はなくノーネーム

 俺は右手に10mの炎の剣を繰り出す、出現させただけで延長線上にいた兵士を3人焼き殺す。


 と同時にアイシーンは左方の兵士の集団に向かって走りこんでいった。髪の代わりに頭についているすべての蛇を刃に変えてそしてそれを振り回しながら、特攻していく、さらに両手の10本の指の蛇は、炎を周囲にまき散らす、勢いのついたアイシーンを止めることは俺でも難しい。

 

 アイシーンが左を担当するなら俺は右、10mの炎を振り回しながら兵士の集団に近づいていく。


「さあて死にたいやつからかかってきな。」

 ほとんどのやつが逃げようとするも、人の壁に阻まれそしてその人の壁ごと俺の炎に焼かれていく。さらに燃え上がる人に抱き着かれ炎上するものもあらわれる。人の焼けるにおいが何とも心地がいい。


 ぎゃーとか、あぁーっとかいった声が俺の周りでも、アイシーンの進んでいった方からも聞こえてくる。気の毒だったなこいつら、魔族の中でもおそらく俺らは最も多数を虐殺するのが得意で、また実際に最も多くの人間を肉の塊に変えてきた二人だ。


 アイシーンは母になってからはすっかり落ち着いていたが、今回引っ張り出したことでやつの闘争本能に完全に火をつけてしまった。こりゃあ、戦いが終わった後にあいつを鎮めようと思ったら、俺の腰がイカレれちまうな。


ズドーーーーッッッン!


 そんなことを考えていると爆音と共に目の前にいた兵士たちが突然はじけ飛んだ。肉片が俺の顔にとびかかる、爆風におどろいた俺はおもわず羽を広げ上空に飛び立つ。

 オリオマイトか。噂のいろいろな命を奪った爆弾だ。俺もかつてこいつのせいで水難事故に巻き込まれた。


 俺は、オリオマイトが飛んできたと思われる方向を上空から確認する。うむ。あれか、あれがいわゆる戦車ってやつか、ピアニッシモが確か恐ろしく丈夫な車をデザスは開発していると聞いた。


 俺は大声でアイシーンに向かっていった。

「しばらくここを頼む、向こうの邪魔そうなやつをぶっ壊してくるわ。俺の分を残しておけよ。」

 アイシーンは黙ってうなずいた。


 3000以上残る兵士を一人で任せられるのは、ダブルハーフのキャビンかアイシーンか。まぁ全盛期のダンヒルでも任せたかもな。


 俺はまっすぐ戦車に向かって飛んでいく。途中戦車から俺に向かってオリオマイトが放たれるが、所詮は対地兵器、で大型の物体や大量破壊用だ、俺のように高速で向かってくる物体にあてられるわけがない。


 そして、戦車の装甲はドラゴンの炎にすら耐えるそうだが、それはあくまでドラゴンの炎が拡散して広範囲に照射するものだからだ。すでに俺はイブサンと戦った時の反省をしている。すでにあの装甲に対して有効な手段を研究済みなんだよ。


この炎に貫かれたものに帰る場所などないノーリターン

 俺は通常半径10㎝はある太さの炎の剣を、半径1cmまで細くした。大体俺の指の太さと同じくらいだ。要は水魔法のハイドロビームを参考にしたもので、細くすることでエネルギーを集中させ、貫通力を高める。


 俺はこの炎の槍、いやもうキリといっていいだろう。それを素早く戦車の側面に回り込んで、操縦者が乗ってると思われる部分に突き刺した。

 予想通り、俺の炎は戦車の装甲を貫いて奥まで達した。

 突き刺した炎は周辺の装甲をさらにゆっくり溶かしていく。

 もちろん、中にいる操縦者も熱によって溶かされてるだろう。  

 戦車の分厚さのせいで操縦者の悲鳴は聞こえてこないが。


 ほかにあった4台あった戦車に対しても同様に炎を突き刺していった。小回りが利かない戦車なので事態に気づいても俺に対処することができない。周囲に援護部隊もいない、もっともいたところでどうにもならないがな。

 慌てて戦車から逃げ出す兵士も俺はもちろん逃がさず焼き殺した。


 だから言ったろうピアニッシモ、完全体に戻った俺なら、デザスを一人で落とすくらい訳ないんだよ。

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