第16話「魔王のエラー③」

「ダンヒルとミネが裏切ったということか?」

 予想外だ!あの二人がそんな大胆な真似をするはずがない。


「はい、コルドの情報では、ダンヒルの部隊が一斉に移動を開始し、はじめはファウストを侵攻し始まったのかと思ったのですが、ファウストの部隊に合流したということです。」

 ダンヒルめ、……いやもともとあいつの忠誠心は怪しかった。俺よりはるかに年上だしな。そう考えればこの勇者ハイネケンと魔王ゴーガとの、偽物本物騒動はたしかにダンヒルにとっては最大のチャンスか。もともと巨人たちは、俺じゃなくてダンヒルに対する忠誠が高い。

 作戦上、ダンヒルとミネに対峙する機会を与えたのがミスか、どちらが本物かわからない以上、自らが王になるというわけだ。

 俺も偽物も完全にあいつらを甘く見たな。

「ふふふ、おもしれ―じゃねーか。もともと俺軍団作るとか向いてね―んだよ!敵なんていうのは多い方がおもしれ―。あいつらがその気ならやってやるよ。」

 どうも性格的に、敵が向かってくるとわかると熱くなってしまうな。

 

「えっと、ゴーガ様。ミネ様、ダンヒル様と争う気なんですか。」

 ピアニッシモは不満そうにそういってきた。

「当たり前だ、歯向かう以上は容赦しねえ。ピアニッシモ、もうあいつらに様なんてつける必要はねえ。あいつらは敵だぜ。」

「えぇっ?話し合いとかしないんですか。仲間だったんですよ。」

 必死に訴えかけるピアニッシモ、こいつにとっては俺よりあいつらと長くいたわけだからな。

「話し合う余地ないから、あいつらもファウストを占拠したんだろ。関係ない。今俺の敵は、あのバカ二人のファウストと、ハイネケンのシュタント&デザス連合国だ。燃えるじゃねーか。」

 完全な状態のおれに立ち向かうってことがどういうことなのかわからせねーとな。


「こっちの戦力はすごい低いですよ。だってダンヒルの部隊はファウストに行ってしまいましたし、本国メンフィスの魔導軍団とか強いやつはそれこそゴーガ様が倒してしまったじゃないですか。せいぜい勢力になるのは10000人もいないんですよ我々は!」

 しかし、俺の意気込みをよそに、ピアニッシモは声を荒げて反対し始めた、確かにピアニッシモの言う通りこちらの戦力はほとんど死に体だ。強力な部隊は、ほとんどダンヒルが持って行ってしまったし、メンフィスの強そうなやつは大体俺が倒してしまった。

 だがそれは戦わない理由にはならない。


「関係ない、もともと魔族は2000位の数でメンフィスの土地を奪うことからスタートしたんだよ。ゼロに戻っただけじゃねーか。それより、ヴォーグだ、あいつさえいれば戦力はどうにでもなる。」

 いまはファウストにいるだろうが、会えば説得することはきっとできる。あいつは馬鹿だが素直だからな。


「……ゴーガ様、伝えづらいのですがヴォーグ様はその……、あの、コルド上空で…。」

 なんだ、ピアニッシモそれはどういうことだ。

 何が言いたい?

「……敵のドラゴンと相討ちになりました。」

 悲痛な表情でピアニッシモは俺に伝えた。


 ‥‥‥‥‥‥‥


「バカな!誰があの最強のドラゴンを倒せるというんだ?完全体の俺でさえヴォーグを倒すのなんて不可能だぞ。」

 そんなはずがない、ヴォーグが、ヴォーグがやられるはずがない。


「そ、その、敵のオリオマイト爆弾によって沈んだということです…。」

 またしてもまたしてもオリオンの仕業か。


「くそが、そのオリオンはどこにいるんだ。」

「オリオンは先ほどまでメンフィスで偽ゴーガ様と戦略を立てたりしてたのですが、一人戦闘機っていう乗り物で逃げ出しました。」

 ヴォーグが、ヴォーグが、なんてことだ。敵のドラゴンを甘く見過ぎた。万が一でもやられることはないと思って、単独で陽動に行かせたのが間違いだった。あいつをあいつの死に目すら見ることができなかったなんて…。

 

 この怒りはいったい誰に向ければいい。

 オリオンか、ハイネケンか、それとも鋼華おれか?


「くっ…‥。」

 柄にもなく涙がこぼれそうになるのを俺はぐっとこらえた。

「ゴーガ様……。」

 ピアニッシモはそんな俺を心配そうに見つめる。

 大丈夫だ、俺は冷静だ。ここで落ち込んだりするような男じゃねえ。

 ただ、あのヴォーグばかの声がもうきけねぇと思うと寂しいだけだ。


「……シャフトとコルドはこちらの味方だと思っていいんだな。」

 冷静さを失うわけにはいかない。いくらおれが直情的でも、無策に振るまえば、メンフィスの魔族たちが滅びを歩むことになることくらいわかる。

「はい、コルド、シャフトは問題ないと思います。ですが、アサマ連邦はもし我々魔族の内部分裂を知ったらもはや従わないと思います。」

 そうか、手ごわいな。

 そうなるとアサマ連邦が次に狙うのは、シャフトだろう。

「こちらからどこかを攻めるような状態にはないということか。」

 こんなに四面楚歌になるとはな、コルドもシャフトもこちらに戦力をむける状況にないのは知っている。コルドはファウストと交戦しなければいけないし、シャフトはデザスと戦況が膠着している。


 すると思いついたようにピアニッシモが言葉を発した。

「……ゴーガ様一つ忘れています。あの、たぶんご自分で指揮されたと思うんですが、シュタント、デザスの連合国軍が、デザスにあるバルサバル要塞を陥落させてこちらに向かってきてるはずです。」


 …そうか、そうだった。自分がハイネケンだったときに指示しておいて、この入れ替わりのバタバタですっかり忘れていたが、そう確かにシュタント、デザスはここメンフィスに侵攻中のはずだ。

 

 おいバカ野郎、ピアニッシモ!お前とイチャイチャしてる場合じゃ本当になかったじゃないか。すでに魔王城までの戦力はがほぼ一掃してるんだ。いくら何でも分が悪い。


「いま、シュタント・デザス連合軍はどうしてるんだ。」

「それが、まだメンフィスに上陸した話は聞いてないです。そのままバルサバルにいるのではないかと。」

 そうか、確かシトラスから連絡があるまで、攻めるなと言ってあったんだ。ってことはまだ、シトラスはその指示をしてないということだ。どういうことだ、シトラスは、今どういう状況にいやがるんだ?

 まぁとにかくだ。

 先手必勝といこう。


「よし、今の間にバルサバルを奪還しよう、そのままデザスをつぶす。」


「どうやってですか、戦力なんてろくにないんですよ。」

 ピアニッシモは大変驚いている、何をとんでもないことをとそんな表情だ。


「なめるなよ、魔王の体を取り戻した完全体のおれなら人間の軍隊ごとき一人で十分よ。」

 そうピアニッシモは本気の俺の力を見たことがないはずだ。

 まぁ見てるがいい。

 久々に全開で大暴れしてやるぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る