第14話「魔王のエラー①」
<時は戻り再び魔王城にて勇者と魔王が対峙する場面>
消えそうになる意識の中で、少しずつルーシアの姿がうつろになっていく。
(おい、ルーシアどこ行くんだ!?)
その疑問には答えず、ルーシアは真の魔王ゴーガである俺を置いてどこかに消えてしまった。ルーシアは、入れ替えた3人の、勇者、魔王、異世界の人間の魂を元に戻すと宣言してどこかに消えた。
さて果たして3人の魂はほんとに戻されたらしい。
今、俺の目の前には先ほどまで俺の体であった勇者ハイネケンの姿がある。そして勇者ハイネケンの体が目の前にあるということは、その対面にあるこの体つまり今のおれの体は魔王ゴーガであるということだ。
今まで俺の体は、勇者ハイネケンだった。ようやく、魔王ゴーガの本来の体にもどった。
この体はまず間違いなく
声をかけるべきか?
話し合いでもするべきか、共通の敵はルーシアだと意見を同調すべきか。
しかしそんなことを考えてる間に目の前のハイネケンは、少しずつ後方に下がってるように見えた。
「逃がさん!」
俺の体は反射的に動いた、考えるより先に手が動いた。
直感的に逃がすのは面倒なことになるとそう感じたからだ。
ジワリと後ろに下がろうとする勇者ハイネケンに気づいた俺は、やつの顔面に、鋭く爪を差し込んだが、しかしそれは、すんでのところでかわされた。
どうも、体がなじんでこない。
突然バンっと目の前で空気がはじける音がした。
「ぐっ、風のかたまりか!」
俺が次の攻撃に移ることに手間取ってるうちに、奴は俺に風のかたまりをぶつけ、その反動でドアをぶち破り、全速力で逃げてく。
もちろん、俺も走って追っかけて行く、が、先ほどまでの勇者ハイネケンとの体の大きさの違いにとまどい、無様なことに追いかける途中で軽くつまずいてしまった。
あわてて、体勢を直すもガシャーンと窓が割れる音が聞こえ、窓からハイネケンが城の外に飛び出していくのを目撃した。
「くっ、完全に逃したか!?」
完全にすべての行動が後手に回ってしまった。俺らしくもなく、信じられない状況にいろいろと戸惑ってしまったらしい。
あわてて、割れた窓から下を見ると、キャビン、シトラスとともにハイネケンがドラゴンの乗って飛び立つところだった。
万が一の時のために、あらかじめ近くにドラゴンを配置させといたのがまさか裏目に出るとはな、キャビンのやつもあんなにタイミングよく、
中身がハイネケンなのかどうなのかはわからんが、
俺はこれから真の魔王として行動せねばならない。だが、いまあの勇者ハイネケンはシュタントとファウストの魔族を両方おさえている存在だ。
まさか、
そういうこともあって逃がすのは危険だと俺は、とっさの判断でさっきのあいつを殺そうと思ったが、すんでのところでかわされた。それにしても、あいつだって、入れ替わったばかりだろうによくあんなスムーズに動けたな。
逃がしてしまったのは仕方ない、相手がドラゴンでは追いかける手段もない。最悪身体さえ万全ならば自分の翼を広げて飛んで追いかけることもできるが、今とっさにやってみたところで追いつかないだろう。
むしろ、少し今の状況を冷静に考えるか、前勇者ハイネケンの体になってしまった時は、後先考えず目の前のシュタント王を殺したせいで、結果としては、自分に都合のいい状況を作り出すのに、かなり時間がかかったからな。
俺らしくもないが少し考えてみよう。
俺、魔王ゴーガは勇者ハイネケンの体にルーシアによって魂を移されていた。そして、
そしてルーシアの言葉を素直に信じるのであれば、今すべての魂は元に戻されたのだと考えるべきだな。
オーケー、ここまでは間違ってねぇだろう。
問題はこの状況で俺の味方はいったい誰だということだ。本来魔族はみな俺の家族みたいなもんだが、さすがにそんな情緒的なこと言ってられねぇ。
果たして、誰が俺についてくるのか見極める必要がある。
クールは死んでしまった。すまんが、結果としては俺が殺したようなものだな。
あぁ、そういやクールとピアニッシモの間には子供がいたか。気まずいな……。
キャビンは偽だろうが本物だろうが、ハイネケンについていくだろう。あいつは細かい事情を知らない。
シトラスの身は心配だな。あいつは勘が鋭い、何も気づかなければ問題ないが、もしハイネケンがシトラスを危険な存在と感じた場合、生かしておくとは思えない。
ピアニッシモは、偽ゴーガを慕っていたようだが、私が今この状態で真実を話しても、俺を本物と信じてこちらについてきてくれるだろう。ダンヒルもそれは同じように思う。
問題はヴォーグか。あいつはハイネケンが俺だと思ってる。正直ヴォーグはいろいろな意味で敵に回したくない、どうやってヴォーグを説得したものかな。
ミネはまぁいてもいなくても同じだから、どっち陣営についてもいいか。
とにもかくにもピアニッシモに会わないことには情報も何も手に入らんし、手の打ちようもないか…。
俺はいろいろ考えながら、魔王の間に戻った。
するとそこには、ちょうど探そうとしてたピアニッシモがいた。
「あ、ゴーガ様よかったぁぁっ!」
ピアニッシモはタタタとこちらへ駆け寄ってきて、ぴょんと抱きついてきた。
おぉっ!と思ったが、俺は正直こいつのことをほとんど知らないのだ。
クールと一緒にあいさつに来たのは覚えてる。そういや、こんな顔だったな、なんだ結構いい女じゃねぇか。
そんなこと考えてる場合じゃないか、ピアニッシモにはクールの死をはじめ、いろいろ、つたえなければいけないことがある。
ふぅ……、気が重いが仕方ないな。
俺は意を決して、何があったのかをすべてピアニッシモに語ることにした。
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