第11話「勇者、テレビに出る①」

 瞬く間に本物の魔法使いがいるという情報は日本中に広がったようだ。1回目の放送をあとから見た人は10万人を超え、これはすでにランキング一位らしい。二回目のラインライブの時には、アクセスが集中しすぎて放送ができなかったということだ。

 せっかく、体を鍛えるなりして、多少は魔力をあげたというのに。

 私の魔法力自体は、元の世界にいた時とそこまで大きくは変わってないのだが、発動させるには体の親和性が大事になってくる。元の世界の時勇者の体はハーフエルフと勇者を両親に持つ体だったので、申し分なかったのだが、残念ながら鋼華君の体は魔法を使うにはちっとも向いていない。


 それでも体を鍛えるなり、体力等をつけるとそれに付随して威力は増していくので、私はこの世界に来てからは毎日鋼華君の代わりに筋トレ等をするようにした。

 おかげで、火の能力はガスバーナー程度の威力を出せるようにはなった。とはいえ、ガスバーナーの威力ならガスバーナーを使えばいいので、この能力に騒ぎ出す地球人の気持ちは少しわからない。


 たぶん私がこの世界に来てから得た感動の方がはるかに大きいだろう。


「……やばい、やばい、ハイネケンやばいよ。ジャスティンが、ジャスティンビーバーが私の動画を紹介してくれてる!」

 なんだ、そのジャスティンビーバーってやつは、この世界に来てからテレビは毎日見てるが、さすがにそんなところまでは把握できない。

 それにしてもテレビっていうものはおもしろいな。これを見てるだけで楽しいじゃないか、テレビがあれば争いも起きないと思うのだが、地球人は何をそんなにもめることがあるのだろうか。


「ジャスティンが気に入ったってことは、世界レベルってことだよ。デビットカッパーフィールドを超える本物の魔法使いとか言われてるよ。やったぁ。」

 カスミはラインライブの放送の後、結局ユーチューブ用の動画も作成した。


 ユーチューブの閲覧数も瞬く間に増えていき1週間でおよそ500万人を超えたらしい。カスミは「私お金持ち、お金持ちになってしまうー」とユーチューブの閲覧数を眺めるたびにぶつぶついっている

 そして、とうとうそのジャスティスなんとかっていうやつに紹介されたらしい。まぁなんだかわからないが、世話になっている女が喜んでくれるなら何よりである。


 カスミ自身もちょっとした有名人になってしまったらしく、ラインとやらにめちゃくちゃ連絡が来るので、最近はあまりスマホをいじらないようになったらしい。あと外出もサングラスをかける等、多少の変装をしないといけないので、めんどくさいといっていた。


「しかし、これがどうやって私がお金を稼ぐことにつながるのだ。」


「……うーんと、ハイネケンには直接お金入らないけど、ユーチューブの再生数はこれから先も伸びていくだけだから、私には結構入って来るのね。それで二人分の生活はできると思うよ。」


「それでは、結局私はヒモじゃないか。」


「そうだけど、いいじゃないこの際。ハイネケンがよければ結婚しようよ。」

 なんだと、この女。

 まだ出会って半年もたたない男に対して、結婚を迫るとは、この世界の人間というのはそんなに結婚を急ぐものなのか。

 

 私の父ラガーは、魔王を倒しに行くかたわらで、各地に女を作り、子供を産ませていたが一切の責任を取らなかったのだぞ。この世界ではそんなことになった場合、養育費とかってやつを払わなきゃいけないらしいじゃないか。

 わたしも父と同じように、正直一人の女に縛られたくない。


「結婚はまだ早いというか、こんな異世界から来たような奴と結婚したら、親が心配するだろう。」


「でも、見た目は田中鋼華君だし。言わなきゃわからないよ。田中君の両親も安心するだろうし、一石二鳥だよ。」


「……うーむ。それはそうかも知れない。」

 この体で生きていく限り、親の問題はついてまわる結婚してしまえば、あーだこーだ言われないかもしれないな。いやいや、まてまて勇者として一人の女に縛られるわけにはいかないのだ。


「あっ。メール来てる。えっ、ハチテレビ?……マジで!?来たよ、ハイネケン、テレビ局から依頼来たよ。ハイキングだって、ハイキング、ハイキングに出てくださいって依頼が来たよ。」


「おぉっ!ハイキング!」

 とうとうテレビ局が動いたのか。私はこの世界に来てからハイキングは毎日見てるぞ、ふふふ坂下さんに会えるじゃないか。どちらかといえば、ヒルノビ派なのだが、やはりバラエティ色が強い方が先に動くのだな。

 カスミは電話をかけ始めた。


「……あ、そちら編成部の飛鳥さんの電話でよろしいですか?…ええっ、はいそうですメールを見まして、わたしラインライブやってる『さーちゃん』っていうものなんですけど、ええ、ええ、そうですそうです。勇者ハイネケンのプロデューサーです。」

 いつの間にかカスミは私のプロデューサーになっていたようだ。

「あぁ、はい、ほんとうに本物なんです。……いえ信じられないと思いますが、あ、もちろん生で見せることもできます。加工とか一切していないので、えぇ一度目の前でですか?もちろん見せられます。…今日、今からですか?あぁはい大丈夫です、お台場に行けばいいんですね?はい、分かりました。すぐ伺わせていただきます。」

 

「テレビ局の人か?」


「そうだよ、今からハイネケンの力を見せてほしいんだって、本物なら明日のハイキングでさっそく放送するって。やばいねとうとう、私たちテレビデビューだよ。一気にスターダムへの道に駆け上がれるよ。」

 カスミはものすごくうれしそうに、体を左右に揺らしながら顔はにっこにこだ。

「なんで、私たちなんだ?カスミはあまり関係ないと思うんだが…。」

 そういうと、カスミはものすごくむっとした顔でこちらを見た。


「なんでそんなひどいこと言うの。コンビでテレビ出るに決まってるでしょ、ハイネケンはしゃべっちゃだめだからね。しゃべれない設定で、私がいないとコミュニケーション取れませんってことでお願いね。」

 なんだか、すごく利用されてるな、一応私は勇者なのだがな。そうかまぁ、要はカスミが目立ちたいのだな。世話になっているし、私はさして目立ちたくもないし、テレビの前で気の利いたことも言えないからな、カスミの言うとおりにしようか。


「わかったよ、カスミにはかなわないな。あ、でも。」


「どうしたの。」


「坂下さんのサインは欲しいぞ。」

 というわけで、いよいよテレビ出演だ。

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