第12話「勇者、テレビに出る②」

「さて、今日はゲストがいます。いまネットで話題の本物の魔法使い。ねぇねぇほんとうこれ、魔法使いって、俺、笑っちゃうんだけど。」


「坂下さん、あきませんよ笑ったら、今日は本当に注目高いんです。ハイキングがテレビ初出演ですから、まぁやらしい話、今日は視聴率上がるんちゃいますか。」


「はっは、宮下くんのオフホワイト程は注目されてないんじゃない?」


「ちょっといい加減にしてくださいよ、いつまで引っ張るんですかその話。」


「バーカ、不倫はいつまでたても許されないんだよ。さてそんなわけで金曜ハイキング、今日もスタートです。」

 という番組の司会の坂下さんと、昼下がり眠り隊の宮下さんの軽快なトークによって番組が始まった。


 よかった、私は金曜ハイキングが一番好きなのだ。ハイキングはハチテレビで12:00から始まるワイドショーみたいなバラエティ番組だ、特に昼下がり眠り隊の宮下さんが好きで、『夜なのに昼トーク』も必ず見ている。


 まだこの二人は私の魔法を見ていない、プロデューサーとスタッフ以外の出演者は今日初めて魔法を目にすることになる。


 昨日私の魔法を目の当たりにしたプロデューサーは、何回も本当かどうか確認した後、自分の指先をカスミと同じように切って、私に直させた。それを見た瞬間、しばらく動けなくなり、人生で一番驚いたといった。


 そして、『明日すぐ放送するから絶対他に出ないでくれ、ギャラは出せるだけ出す』といっていた。交渉事はカスミに任せたので金額の詳細は知らないが、かなりカスミはにっこにっこだったので、相当もらえるのだろう。


 そしてなんと昨日はテレビ局の配慮で、超一流ホテルのスイートルームに泊まることができた。あのプロデューサーは人生で一番驚いたといっていたが、私はホテルから見たトーキョーの夜景が人生で一番感動した。 

 

 私の世界では絶対に見られない光景がそこには広がっていた、地球人は何と闇を制したのである。私が見た今までの何よりも間違いなく一番美しかった。


 こんな素晴らしい文化を持つ地球人が一体私の魔法を見て一体何を感動するというのだろうか。私の魔法よりもこの人工的に作った街の光の方がよほど素晴らしいというのに、そこはカスミが私の魔法に驚いてから、ずっと理解できなかったところだ。


 さて昨日のことを思い出してる間にCMが終わり、とうとう出番がやってきた。勇者なのに情けないが、非常に緊張する。結果的には私はしゃべれないという設定になっていてほっとしていた。

 カスミは平気なのか。


「さぁ、紹介しましょう。今日のゲスト、ネットで注目の本物の魔法使いこと勇者ハイネケンとそのお友達のさんです。」

 パチパチパチパチと我々は拍手で迎えられ、前へ進み坂下さんの隣に立った。

坂下さんの左手側にカスミがたち、さらにその隣に私が立つ。私はもちろんこの間の変な格好のままである。


「ええと、さーちゃんでいいのかな。あなたが勇者ハイネケンを見つけたんですね。」

 坂下さんがカスミに話しかける。いまさらだが、なんでさーちゃんなんだろう。


「あっ、はい。なんか道で困っていたので話しかけると、勇者とかなんだとか言いだしたんで変な人だなぁと思ったんですが、なんか気づけば私の部屋に住みだしたんです。」

 おいおい、なんだそのストーリーは、私は思わずむっとしたがしゃべるわけにはいかない。


「ちょっとちょっとぉ、大丈夫なのぉ、そういう変な人にからんじゃだめだよぉ。最近の女子大生は危ないなぁ。」

 はははははっ。

 会場からちらほらと笑い声が起きる。


「いいんですいいんです、タイプだったんで。」

「あっはは、いいねぇ正直で、ハイネケンさんは話さないの。」

そうやって私に話を振ってきた。


「あの彼、恥ずかしがり屋で私以外と話さないんです。だからちょっと顔も隠しています。今日も私が無理やり連れてきました。」

 まぁ実際その通りだ、無理やり連れて来られたし、正直目立ちたくはない。


「ミステリアスだねえ、じゃあまぁとりあえず、いったんユーチューブに上がってる動画をみんなで見てもらいましょう。」

 そうして、スタジオにおいてあるモニターにカスミが作ったユーチューブ動画が映し出された。みんなじっとそれを見ている。私の魔法のシーンになるたびに、多くの芸能人方は大げさなリアクションを取ってくれてるが、2名ほどむすっとしたまま、画面みて反応しないものがいた。


「いっや、すごいね動画見る限り本物じゃないこれ。で、今日はこの魔法の正体を探るために、テレビに久々登場のこの方に来ていただきました。自己紹介どうぞ。」

 動画を見終わった後、坂下さんはそのむすっと反応を取らなかった人物に話しかけた。


「どうも、ハネダ大学理工学部教授の大和田です。テレビは本当久しぶりですね。」

 なに、大和田教授だって、この間読んだ大気電気学の本を書いた人じゃないか、私はあなたにぜひとも話を聞きたいぞ。


「どうです、大和田教授、特に最後の皮膚を直す奴なんて、大和田教授でも説明できないんじゃないですか。」

「まぁ、映像だからねいくらでもごまかせちゃうでしょ。皮膚の奴なんて逆回しすればいいだけなんだから。」

 大和田教授はめんどくさそうにそしてあきれた感じでそう言った。あれ、大和田さんは私に対して否定的なようだ。結構悲しい。


「でもラインライブでもやってるんですよ。映像加工なんかできないです。」

 思わずカスミが口をはさんだ。真っ向から否定されればそりゃあムキにもなるであろう。

「さーちゃんちょっと落ち着いて、どうなんですか教授。」


「いやいや、ラインっていうか生だろうが何だろうが映像加工するのなんて今簡単だからね。よくもまぁこんなの信じて騙される人多いよ。私を出してもらって悪いけど、ハチテレビさんも素直にだまされて地上波にこんなインチキ流しちゃダメでしょ。」

 私は勇者ハイネケン、誇り高きシュタントの勇者である。その私にインチキだと? 


 許せない発言だ!

 そう思った時には、私は大和田教授の顔面の横をかすめるようにして、指先から火の魔法を放っていた。しまった、やっちまったと思った時にはすでに遅い。


 そんな大きい火の玉ではない、指3本分の太さ位の小さな火球が大和田教授の顔の横をかすめ、少しだけ髪の毛をあぶった。あたりを、髪の毛が焦げる嫌なにおいが包む。火の玉はそのまま、大和田教授の後ろのセットに当って消えた。


「!?」

全員が固まってしまって言葉が出ない。

事態がわかっているカスミだけが大和田教授に駆け寄った。

「大丈夫ですか、大和田教授?」

 カスミは大和田教授に寄り添って、言った。

「トリックだ!!トリック!何か手に仕込んであるだけだ。」

 大丈夫とも何とも答えずに大和田教授は激高して、私の元へとどんどん迫ってくる。


 そして、私の手を強引につかみ観察し始めた。さらに、大和田教授はカメラに目配せをし私の手を詳細にうつすように指示した。もちろん私の手には、何も仕掛けなどない。大和田は信じられないといったように私の全身を見回す。


「大和田教授、説明つきませんか?というより大丈夫ですか。」

 ようやく坂下さんが、言葉を発し、場を仕切り始めた。


「さーちゃんさん、今のが魔法なのかな。」

 坂下さんがていねいな口調で、カスミに尋ねた。


「そうです、ハイネケン様はインチキって言われて、怒って思わず火を放ってしまったのだと思います。本当に申し訳ありません。でもご安心ください。大和田教授、先ほど焼けてしまった箇所を見せてもらっていいですか。ハイネケン様こちらに来てください。」


「なんだ、別にかすめただけでやけどもしてない。髪の毛が少し焼けただけで心配はいらんよ。」

 私はそういう大和田教授のそばに立つ。そして大和田教授の焼けた髪の部分に手を当てる。


「カメラさん、ハイネケン様の手元を映してください。」

 カメラは指示通り、私の手元と大和田教授の髪の毛の焼けてる部分をアップにする。


「何をする気だね。」

「ハイネケン様お願いします。」

 わたしが魔力を放つと、ゆっくりではあるが確実に、大和田教授の焼けていない髪の毛が伸びていって、焼けた個所を覆っていく。

 目で分かるスピードで修復されていく大和田教授の髪。


「おおおおおおおおおおおおおおっ!」

スタジオ中から驚嘆の声が上がった。

本当に目の前で繰り広げられる奇跡に、もはや疑うものなど誰もいなかった。


その日のハイキングの視聴率は始まって以来の、最高視聴率を記録したのだという。


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