第10話「勇者、デビューする②」
「やっぱ、今時代はラインLIVEだからね。」
ある日、唐突に私はカスミに変装をさせられた。眼には、私の国でもよく仮想パーティで使われるバタフライマスクというやつがかけられ、口元にはスカーフをあてられた。さらになぜか白いシルクハットをかぶせられる。
なんだこれは、とてもかっこ悪い。
私ハイネケンはシュタントでは、一応美の勇者ということで有名なのだ。ダサいのは許されない。
「なんだ、この格好はこんなんで人前に立てるか!」
私はカスミに対して抗議をする。
「こういう変な感じじゃないと目立たないからね。それにハイネケンの元の顔は知らないけど、鋼華君の顔は地味なんだから、このくらいしなきゃ。」
うぐぐ、たしかに鋼華君の顔は地味だ。
いわゆるテレビ映えする感じじゃないからな。
カスミの話では、とりあえず素人として目立ってから、そこでテレビの人に目をつけてもらう作戦だという。はじめはゆーちゅーぶって物を使おうとしたのだが、それだと魔法が映像を加工したものだと疑われて信用されないから、生しかないのだという。
そうこうしてるうちに、らいんらいぶとやらの放送が始まったようだ。
私はこの恥ずかしい恰好のままで出なきゃいけないらしい。
放送が始まってしばらくして、カスミは一声を発した。
「おはようございまーす。」
>かな おはよう。
>ミカチ さーちゃん きょうは放送はやい
>サリサ さーちゃん、きょうもかわいい
>ねこ さーちゃん、おはよう
いろいろな言葉が、画面上に浮かんでいる。
もちろん私にはなんだかよくわからない。
「あっ、もう今日は20人も見てる。きょうはこのさーちゃんLIVEにゲストが来てくれてます。」
カスミはそういって、私に手のひらを向けて紹介をする。
私はカスミの指示で軽く手を振った。
>かな うわなんか変な奴笑
>ゆうた トランプマンかな?
>サリサ うわ、やばいやつきた
やばいやつとは失礼な。好きでこの格好をしてるわけではないというのに。
「ええと、この人は異世界から来た勇者様でハイネケン様といいます。」
おい、ばかもの。何を正直に全部言ってるんだ。
……まぁ信じるやつがいるわけないか。
>けんと ゆうしゃ卍
>れいら 勇者きた
>サリサ さーちゃん勇者とかマジ受けるわ
>たろ卍 まじかあ!
卍っていうのはなんだろうか。
『まじかあ』ってなんか信じてる奴いるな。
ちなみに私はしゃべらなくてよいと、カスミに言われている。
「みんな、疑ってるよね?私も疑ったけど、マジだからね。なんとハイネケン様は魔法が使えるのです!」
>けんと まほう?
>かな まほうきたーー
>たろ卍 まほうまほうまほう?
「では、皆様ご覧ください、ハイネケン様どうぞ!」
そういって、カスミは私の方にカメラを向ける。
そして私は、指先に小さな炎をともした。
>けんと すげーーーーーーーーー
>かな すごっ
>たろ卍 いや凄くないから、ラインライブの機能だし
>サリサ まじでつっこむなよ
>けんと そっかラインの機能か
>にーな さーちゃんのライン新機能紹介
「ふふ、みんなそういうと思ったけど、本物ってことを見せます。」
そう言って、私の指先にある炎に、カスミは紙切れを近づける。
紙切れはふわっと燃え上がり、一瞬で黒いチリと変わった。
>けんと うわ、まじかよ。
>かな 燃えたんだけど、機能じゃない
>シール いまきたらなんかすごい
>たろ卍 いやいや、トリックだってこんなん
さらに私は指を銃を撃つようなか形に変えると、スマホの画面に向かって人差し指の先端から水を放った。画面いっぱいに水が放たれ続けた。
>けんと おぉーー、水で画面が見えない
>サリサ やばーーーつ
>リーサ ちょっと本物じゃないの勇者?
>たろ卍 手自体が何か仕掛けてある模型かなんかなんだよ。
>けんと たろさん必死過ぎ
>リキ おれもなんかのトリックだと思う、さーちゃんだまされてる。
スマホに水がかかってしまったので、それをカスミは布でふき取った。
「どうですか勇者ハイネケン様の力、これはトリックじゃないですよ。さらにもっとすごいものをお見せします。」
そういうと、今度はカスミはカッターをもってきて、自分の指先を軽く切り始めた。
>けんと 何考えてるのさーちゃん
>サリサ 自虐良くないよ
「ハイネケン様お願いします。」
そう言って、指先を私の前にさし出した。
私は彼女の左手で手首を持ち上げて、私の右手を彼女の指先の血がにじむ裂傷部分にかざした。
すると、血がにじむ切り口はみるみるふさがれていった。
この程度の傷口ならば今の魔力でもほんの数秒で治すことができる。
>けんと まじだ、これはやばいやつだ
>さりさ 絶対本物じゃん
>かな やばいのきたー
>シール これ動画拡散していいですか。
>れいら 魔法が実在したー
「どうですか、勇者ハイネケン様の力を信じてもらえますか。これからもさーちゃんLIVEでは勇者ハイネケン様の魔法をガンガン見せていきます。みんなももっともっと、他の人に教えてあげてね。」
そういって、カスミは画面に向かって手を振って、ラインライブを終了させたようだ。
「やった。なんだかんだで200人見に来たよ。最高記録かも!ハイネケン、これからも放送を続けて、少しずつ注目を浴びるからね。」
無事、私勇者ハイネケンは異世界におけるラインライブデビューを果たすことに成功したのである。
そしてこの反響は、少しずつではなく瞬く間に世の中に広がることになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます