第6話「シトラスは笑えない②」
シトラスです。あの後、わたしはシュタント城の来客用の部屋に通されました。しばらくお風呂とかにも入れてなかったので、ちゃんとした部屋に案内されるのは大変ありがたかったのですが、敵の手中に入ってしまったようなものです。
本来はシュタントのバリアの外にいるつもりだったのですが、状況に流されるままに、ここに来ることになりました。
「では私とドラゴンちゃんは、バリアの外で待たせていただきます。」
わたしはちゃんとそう伝えました。
ところが、ハイネケンはそういう私に突然魔法をかけたのです。
風魔法でしょうか…生暖かい風に私の体は覆われ始めました。
「これで大丈夫だ、君の魔族としての力は抑えさせてもらった。バリアも君のことを魔族と感知することは出来ない。さすがにドラゴンちゃんくらい強い魔力は封じることはできないけどね。だから、
とまぁ、そんな感じで何と私は魔力を封じられてしまったのです。しかし、まさかこんな簡単な方法で、シュタントに入れるなんて、苦労していたミネ魔団長とかがかわいそうです。
ということで部屋に通されました。もちろん魔族の私がここに入るときには、周りの人間、特にシュタントの薄汚いハイエルフの連中からすごい目で見られましたが、そこはハイネケンが大切な客人だといって制していました。
中身がゴーガ様だったときとは段違いの紳士ぶりです。彼は本当に、正体を隠す気があるんでしょうか。
…いやないんですね、そんな必要、もともと彼はシュタントの人間です、だます必要があるのはわたしだけ、むしろ、だましていたのはゴーガ様なのですから。
「まぁ、とりあえずお風呂に入らせていただこう。」
なんとこの部屋にはお風呂があります。もう、実は部屋に入った瞬間からそれにしか興味がないのです。
わたしの今のところの心配は、全部私の心配過ぎの性格から来るわけで、目の前の危機というわけでもないのです。
わたしが、真実を知ったということがばれない限りは特に危険はありません。しばらくは、シュタントでゆっくりさせていただきましょう。わたしだってそこまで仕事が好きなわけではないのです。いい機会だから少しゆっくりしたい。
問題は、シュタントに入ってしまったせいで、仲間のダークエルフとの通信ができなくなってしまったことです。
しまったと思いました、通信できるうちに誰かにこの疑念を話しておけばよかったのに…。
そんな軽い後悔をしながら、わたしが服を脱いでいると。
「…!?」
急に体が動かなくなりました。
ど、どうして。
風が、見えない風が私の体を締め付ける感じ。
あれです、あの時かけられた、生暖かい風が今度は、縄となって私を締めてきます。
「…っぐ!」
く、苦しい、魔族としての力も封じられているし、一向に身体を動かせません。
「…動けないだろう。」
そういって突然、背中から肩越しに手をかけて、声をかけられました。
その両手は私の両方のむねに軽く触れられています。
「…ハ、ハイネケン…さ…ま?」
間違いなく声はハイネケンです、でもどうして…。
「様なんてつけなくていい、君は私に何が起きたのか知っているのだろう。」
なんてこと、私が悟ったことをすでに知られているようです。バリアの前で魔法をかけられた時には、すでにばれていたのかも。
「な、何をおっしゃってるのか?」
とぼけるしかありません、こんなところで死にたくはないですから。
「ばればれだよ、『私がシュタント王は元気かな』といった時の君の反応を見れば明らかだ。君は明らかに私に不信感を覚えた顔をしていた。君は何かを知ってるんだな。」
あの発言が罠だったなんて!……確かにいままで黙ってたのに、急にボソッてなにかいうなんて、おかしいと思ったけども。
「っ痛い!なにを?」
ふいにハイネケンは、わたしのやわらかい胸に手をかけていた両手を乱暴に握りました。
「君も優秀な人材なんだろう、簡単に何かをしゃべるとは思っていない。夜はまだ長いということだよ。くくくっ…。」
そういって、笑いを浮かべながらハイネケンは私にささやきます、すごく色気のある声です。
この先、何が行われたかは私の口からはとても言えません。
◇
とても長い長い夜でした。
私は何度も何度もおかしくなりそうでした。勇者ハイネケンはまさに女の敵だったと思います。正直言って、魔族の仲間の中では私はおとなしい方で、性行為があまり好きじゃないです。だからといって、嫌いなわけでもないんですけど。
だから、この間ゴーガ様に、『帰ってきたら抱きたい』といわれたときは心の底からうれしかった。久しぶりに、性行為を楽しみに思ったのに、まさかこんな形でそれを迎えるとは思いませんでした。外見は中身がゴーガ様だったときの勇者ハイネケン、だけど中身は勇者ハイネケン。
私ももういったい自分で何を言ってるのかわかりません。
勇者ハイネケンはひどい男です、まず、水の魔法で、粘度を上げた水を私の体中に塗りまわしました。そういえばそういう使い方を、サキュバスの友達がよくやるといっていたのを思い出します。
さらに振動魔法、この世界の魔法の概念は後で説明しますが、振動魔法で私の体中を内部から、外部から攻め続けたのです。
これ以上は恥ずかしくてとても言えないです。
長い夜が明けるころにはすっかりわたしはおかしくなってしまっていました。正直勇者ハイネケンのいうことなら、何でも従いたいとそういう気持ちになってるわたしがいます。
今でも心では魔族として勇者に従うわけにはいかないとわかっていますが、もう私はダメです、ハイネケンの虜になってしまってます。
身体が心にしたがってくれそうにないです。
結局昨日のうちに、わたしの知っている情報、ゴーガ様とハイネケンにいったい何があったのかを、そして今魔族がそういう状況にあるのかをすべてしゃべってしまいました。
そういえば聞いたことがあります、勇者ハイネケンはサキュバス以外でも
「おはようシトラス、少しは眠れたかい。」
ベッドの隣の男はそう聞いてきいてきました。風魔法による拘束はもう解かれています。
そうです、わたしは逃げる気になれば逃げられるのでした。
「私のことは好きになったか、シトラス。」
ハイネケン様はそんな訳の分からないことを聞いてきました、あそこまでの辱めをした相手にそんなことを聞いてくるなんて、どうかしてるんじゃないでしょうか。
「…大嫌い。」
私は、正直にそう答えました。
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