第5話「シトラスは笑えない①」
わたしは、ダークエルフのシトラスといいます。この世界のエルフ族はテレパシーによる通信ができるので各国をダークエルフの通信によってつなぎ、素早く魔王様に情報を伝えることが私たちの仕事になっています。
いまは、魔王様というか、勇者ハイネケン様にお仕えしてます。事情を説明するのがすごく難しいのですが、いま竜に乗り私の背中にいる方は、体は勇者ハイネケンの体なのですが、中身は魔王ゴーガ様のはずなのです。
ですので、私は勇者ハイネケンではなく、魔王様にお仕えしてるダークエルフでして、疑問に思うようなことではないのです。
そして、竜の先頭に乗ってる方は、ダークエルフとハイエルフのハーフで、さらに
キャビンさんは、ハイネケン様の中身が魔王であることを知りません。勇者ハイネケンが今回魔王退治するというので、付き合わされたのです。
今回私たちは勇者ハイネケン(中身魔王)が魔王ゴーガ(偽物)を倒すためにたった4人で魔王の城へ乗り込んだのです。残念ながら仲間の一人は命を落としました。でも何とか、ゴーガ様は単身で偽物魔王の前にたどり着いたはずなのでした。
さっきはびっくりしました、魔王討伐の道中でキャビンさんはケガをしたので、仕方なく救助要請をしました。わりとにすぐ救助のドラゴンが来て、さぁドラゴンで逃げようと思って飛び立ったところ、窓から飛び出すハイネケン様が見えたのです。
これは大変と思って、急ぎ向かうと、ハイネケン様(中身魔王)は魔王ゴーガ(中身誰か)に敗れ、逃げてきたということなんです。
そして、いまハイネケン様は竜の上で、私の後ろに乗っています
私シトラスは、正直苦悩しています。
何かが変だと思っています。かれこれ1時間以上、竜に乗っていますが、「シュタントに向かってくれ」といったきり、ハイネケン様改めゴーガ様は何もしゃべろうとしないのです。
そんなわけないのです。私の知っているゴーガ様はそれはもうおしゃべりとセクハラが大好きなのです。さっきも、「無事一緒に帰ってきたら、一発やろうぜ。」って言われたばかりです。だから、わたしに会って何も言わないゴーガ様には違和感しかないのです。
さっきから後ろに座っているのに、なるべく私に触れないようにしてるようにとしか思えないくらい、体を触れさせてきません。まるで、女の子に対する気づかいをしているようです。
おかしいです、ゴーガ様なら「やったぁ。シトラスちゃんの大きなおっぱいもみ放題のポジションゲット」とかいって、真っ先におっぱいを触ってくるはずです。
いや別にそうされたいわけじゃないんです、でもそれをしてこないゴーガ様のイメージが湧きません。
そもそも、魔王ゴーガ(偽物)から逃げてきたというのがわかりません。見たところ大したケガもしてないようですし、そもそも自信満々で乗り込んだんです、偽物など倒して当たり前っていう感じでした。
そう私は、そんなことを考えたらある仮説にぶつかってしまったのです。
ひょっとして、今後ろにいる勇者ハイネケンの中身は再び入れ替わって、他の誰か、いや元に戻って勇者ハイネケンなのではないでしょうかと。
今回、魔王ゴーガ様は入れ替わって、勇者ハイネケンの体になってしまったとおっしゃってました、常識で考えれば、勇者ハイネケンと魔王ゴーガがそのまま入れ替わってしまったというのが筋でしょう。
それが今回直接対峙することで、二人の魂が元に戻ったということは十分あり得るんじゃないでしょうか。
そう考えたら、さっき述べた疑問がすべて解決してしまうのです。もちろん証拠があるわけじゃありません、すべてシトラスの推測です。ああ、でも事実なら私は大変ピンチなのです。
何せ私の前に座っている最強のダブルハーフキャビンさんは、ハイネケンの中身が魔王ゴーガであることを知らないのです。だから、中身が勇者ハイネケンに変わったと訴えても、そりゃぁそうだろうで終わりなのです。
むしろ、私が魔王側で敵なのです。
もし仮説が事実なら、一刻も早く、ここから逃げないと命が危ないのです。でもとにかくまずは、偽物である核心をつかまなきゃいけません。
そんなことをずっと考えて、15時間ほどドラゴンに乗り続けた結果、(とうとうゴーガ様は私と一言もしゃべりませんでした。)魔法と森の国でありキャビンさんと勇者ハイネケンの出身国である「シュタント」に到着しました。
「疲れるな、ずっと竜に乗っているだけというのも。」
真っ白なタキシードに身を包むかっこいいキャビンさんがそういいました。
「足のケガは大丈夫なのですか、キャビンさん。」
先ほどの戦いでキャビンさんは、足を骨折していました。
「一応、ドラゴンの上で回復魔法をかけ続けたからな、歩くだけなら問題ないはずだ。」
ずっと集中してると思ったら、そういうことだったのですね。さすが無駄がないなぁ。
さて、シュタントの地についたのですが、ここから王都「メス」まではドラゴンで行くことができません。魔族を通らせないための強力な結界がここから先は張られているので、ドラゴンみたいに強い魔力をもってる魔族でも無傷で侵入することはできないのです。
そしてそれは、もちろん私も例外ではありません。
ですので、私とドラゴンちゃんはここで待機なのです。逃げるチャンスであるともいえます。
「久しぶりだな、シュタントは…シュタント国王は元気だろうか。」
久々に、勇者ハイネケンは言葉を発しました。
……⁉ 私は、この言葉にものすごい違和感を感じざるを得ません。
「何を言ってるんだハイネケン、今の国王は君だろう。冗談が好きだな相変わらず。」
キャビンさんがすかさず突っ込みを入れます。
そう、そうなのです。今の国王は勇者ハイネケン自身であるのです。先代の国王はハイネケンと魔王ゴーガ様が入れ替わった時に、魔王ゴーガ様によって殺されてしまったはずなのです。
冗談とは思えない、あきらかに本音でぼそっと言った感じなのです。
「……そうだったな。」
その証拠にかなり間を開けて、そして本当にただただ話を合わせたといった感じの答えを目の前の勇者ハイネケンはしました。
間違いありません、この勇者ハイネケンは魔王ゴーガ様ではなく、魔王ゴーガ様の偽物の真の勇者ハイネケンです。
わたしはどうしたらいいでしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます