4「人質の運命」
セレシアと蓮は黒い霧を抜けて小さな町へ到着。
そこは活気もなく、ただ薄暗くて辺り一面ゴミだらけの町だ。
「⋯⋯本当にここ町なのかよ。店ひとつねーじゃん」
「なにいってんのよ。ここは列記とした町よ! 店だってちゃんとあるわよ。⋯⋯多分だけど」
「おい、最後に何て言った?」
「何にも言ってないわよ」
「いや、ごまかすの下手か! ぜってーセレシアここ来たことねーだろ!」
セレシアは黙ってうなずいた。やはり図星である。
二人は門らしきところから町へ入った。やはり遠くから見た感じと全く同じだ。
ここにも黒い霧がかかっている。
「何か臭くねーか? ⋯⋯なんつーか、ゴミの匂いじゃねーよーな⋯⋯」
ここ一面が臭いのも無理はない。何故ならそれは──
「え」
蓮の足に次々と当たるもの、それは人間の死体だった。
「うわ、あぁ⋯⋯」
死体なんて見たことがなかった。というより見る機会なんてそもそもなかった。
蓮は初めて見る人間の死体に嗚咽が生じた。
「っう⋯⋯うぇ⋯⋯」
「だ、大丈夫? どうしたの?」
「⋯⋯いや、なんでもねぇ。⋯⋯人間の死体なんて初めて生で見たから。少し気分悪ぃわ」
「私も最初人間の死体を見たときはよく気持ちが悪くなって吐いていたわ。でももう慣れちゃった」
「いや、慣れちゃうもんなの!? ⋯⋯まぁ、死神だし無理ねぇか」
それから歩いてる途中にどれだけの死体を見ただろうか。
数えきれないほどの死体があちらこちらにまるでゴミのようにころがっている。
「この町はある世界の神によって破壊されちゃったの。だから住んでる人もその時に生き残った人達なの」
「⋯⋯そーなのか。そんなことが⋯⋯」
蓮は、この世界がよくわかっていない。どれだけの神がいるのか。どれだけの敵が待っているのか。
蓮に唯一わかっていることと言えばセレシアが死神だということ。それだけである。
その時、住民であろう人達が騒いであちこちを駆け回っていた。
「小さい子がレーウィン神族軍に捕まったぞ! 急いで救出に!」
「どーしたんだろ、小さい子が⋯⋯誰に捕まったって? ⋯⋯レーズン? なんだって?」
「レーウィン神族軍よ。町外れの凶悪犯。最近ここを支配下としてここの住民を奴隷として毎日働かしてるのよ」
「ひでぇな⋯⋯」
「私たちも助けに行きましょう。時を止める力が何かの役に立つかもしれないから」
「いや、絶対役に立つに決まってんじゃん! ゲームなら超チート能力だし!」
「とにかく住民達が向かってる方向についていってみましょう」
「お、おう。そーだな」
二人は住民達が走っていく方向へついていく。
住民は若者と老人が半々ぐらいだ。
──しばらく走っているとその場所であろうある建物に着いた。
そこは住民で溢れかえり、中に入れる状態ではなかった。
「とにかくどうにかして中に入りましょう」
「おう、行ってみるか」
二人は溢れる住民を押し退け、中へと入っていく。
見えたのは髭が生えた背の高い男とその部下であろうやつらが二十人程度。
そして、その男の手には幼い男の子がいた。
だが、それを見たセレシアの顔が崩壊した。
「⋯⋯え、⋯⋯ソルシア?」
──その男の子はセレシアの弟だった。
「ソルシア!」
彼女の声が建物一面に響く。
「お姉ちゃん⋯⋯? お姉ちゃん!」
ソルシアの顔や腕はひどく傷ついていた。
「ほう⋯⋯お前がこいつのねーちゃんか。⋯⋯へへ、面白くなってきたじゃねーか!」
男は大声で笑う。
蓮はあの路地裏で出会った殺人犯を思い出した。
あの殺人犯もこんな風に笑っていた。
蓮の中に酷く、恐怖心が芽生える。
だが、蓮にはこういう経験があるからこの状況はもう慣れていた。
「奴隷ども、よく聞け! この子供との取引をしようではないか。
こいつの命を助けたいなら、今すぐ他の誰かがここで自殺をする。⋯⋯これでどうだ?」
「⋯⋯っなんて卑怯な⋯⋯」
「卑怯だぁ? まぁたかが未来のないゴミ奴隷が一人死ぬだけだ。まだ未来のある子供を救ったほうが対等な手段だと思わねーか?」
「⋯⋯だけど⋯⋯」
セレシアは酷く困惑していた。
顔がひきつり、今にも泣きそうな顔をしている。
それもそうだ。たとえ弟を救えたとしても他の誰かが死ぬ。
そんな究極の選択を迫られていた。
──だが、蓮にはこの状況を逆転する一つの案を思いついていた。
それは──
「⋯⋯時を止めたらなんとかできるんじゃねーか? チート能力だし⋯⋯」
蓮は回りの人に、セレシアに聞こえないように呟く。
しかし、その案は死ぬ覚悟の上でやらなければならないことだった。
もし、うまく死に際に行けずに痛い思いをしたら?
もし、失敗して全員皆殺しになったら?
蓮はセレシアにこの案を言えなかった。
もし言うと絶対に止められるに決まっている。
そう考えたからだ。
でも、もう時間がない。どうにかしないと死んでしまう。
──そして蓮は思い至った末、覚悟を決めた。
「⋯⋯チャンスは一度。とりあえず俺が殺されにいくっきゃねぇか」
そして、蓮はレーウィン神族軍の前に堂々と出て、
「俺とその子供と命の引き換えだ。⋯⋯それで条件成立だろ?」
「レン? あなた何言って⋯⋯」
「セレシア」
「────」
蓮はセレシアに向けてピースをした。
それは彼の覚悟を決めるものだった。
「⋯⋯お前がここで自殺をするのか? 未来の人材が死ぬのか。⋯⋯くはっはっは! 笑えるぜ」
「⋯⋯いいや、自殺をするのはごめんだぜ。誰でもいい。盛大に俺を殺してくれ」
「ほぅ、誰かに殺してもらいたいと? ⋯⋯いいだろう。おい、全員このガキに向けて銃をかまえろ」
一斉に銃が蓮に向けられる。
下手をしたら痛い思いをする。
死ななかったら時を止める能力は発動しない。
蓮はひとつ後悔をしている。
何故ならセレシアにこの作戦を伝えていなかったからだ。
⋯⋯セレシアがこの作戦を分かっていなかったらどうしよう?
⋯⋯もし、失敗したら?
確実に死ぬ。
どう足掻こうと死ぬ。
蓮の顔は汗まみれだ。
だってこれが3度目の死への覚悟。
当然だ。
「全員、かまえ!」
ついに約二十本もの銃がこっちを向く。
もう後戻りはできない。
自分で決めた事だ。
「⋯⋯っ頼む。死に際に行かせてくれ⋯⋯」
そして──
建物中に銃声が鳴り響く。
「──っ⋯⋯」
目を開けると蓮の四方八方に弾が浮いていた。
煙も弾も何もかも止まっている。
「あぁ⋯⋯助かった⋯⋯。ありがとなセレシア」
「いいえ、お礼を言うのは私のほうだから。私、動揺しちゃって一つも案が思いつかなかった」
「⋯⋯まぁ、とりあえずこいつらをどうするかだな。この部下たちは放っておいてもいいよな。どうせこの弾が全員ヒットするし」
「そうね。⋯⋯で、あとはこの男よね」
「そうだな。⋯⋯心臓にナイフでも刺しとくか?」
「そうしましょうか」
「え」
蓮は冗談で言ったつもりだったのだが、セレシアは本当に転がっていたナイフを拾い、男の心臓に刺した。
「あぁぁぁ!!!」
「どうしたの?」
「いや、どうしたのじゃねーだろ! 本気で刺すとは思わなかったわ!⋯⋯ってあれ? 血が出てない?」
男の身体からは一滴たりとも血が出ていない。
「時が止まっている間は血は出ないの。人とか物とかは動かせるけどね」
「⋯⋯なんとも複雑な⋯⋯」
そして男の手からソルシアを奪い取り、二人は住民達を安全な場所に避難させて、その場所から離れた。
──しかし、蓮たちはあの事を忘れていた。
それが蓮たちを悲劇へと招く。
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