そんな女子高生と一人の青年がすれ違ったとき、急に雨が降った。雲一つない快晴であるにも拘わらず。

 そして、女子高生の一人が急に倒れた。大丈夫?と声をかけようとして振り返ると、一人の青年が笑顔で立っていた。

 彼は夕日に染められたように真っ赤だった。日はまだ高い時間であるにも拘わらず。

 恐怖を覚えた少女は一歩、後ずさろうとした。けれど、足を滑らせ、その場に座り込んでしまう。そして、手を着いたとき、ピチャッ、と音がした。

 少女が横を見ると、から大量の――


「いやあああぁぁぁぁぁぁ」


 少女の叫び声が響き渡った。

「うるせぇな」

 青年は気だるげにそう言うと、少女の口を手で塞ぎ、胸を切り裂いた。

 再び降り始める。それを浴びながら青年は自然な感じで呟いていた。


「どうせなら殺人だけじゃなくてレイプも合法にしてくれよな。そうしたらこいつらを犯せたのに」


 ここに殺人による二人の犠牲者が出た。けれど、これが報道される日はない。なぜなら、殺人は青年が言うとおり、合法なのだから。

 殺人法が施行されて以降、日本では殺人事件はなくなった。それは、平和になったから、などではなく、合法になったが故に。

 そして、殺人は加速度的に増えていった。



 日本の残り人口、およそ2億8千万人。

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殺人事件がなくなった理由 星成和貴 @Hoshinari

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