第16話:戦闘準備2

柄架弖から連絡が来たのは魔女が宣言してから一時間後のことであった。

「また公衆電話からか……」

『公衆電話にもまだ需要があるという事なのです。さてさて、最終決戦の舞台が決まりました。……場所は稀火山山頂にある剛雷寺。夜の八時にてお待ちしておりますわ』

稀火山。稀火兎市の東端に位置する山で標高三百メートルの小さい山だ。昔は山頂にある剛雷寺に参拝者が多く来ていたが、数十年前に参拝道が大規模の土砂崩れにより現在も立入禁止となっている。

「おいおい、あそこは立入禁止だぞ。行けるかよ」

『そのための協会じゃないのですか?飛んで来てください。ああ、ご安心ください。あくまで私はあなたを直接殺す事が目的です。ですから空中で殺しません。では失礼いたします』

通話が終わると魔女が寄って来た。

「空を飛んで来いって私がみんなを箒に乗せて飛べばいいの?」

「いや、航空機で来いって事だろう。武藤、協会の所有する航空機はあるのか?」

「五月蝿くていいのならヘリコプターがある。夜間に飛べば騒音問題となるがそんな事言ってられんよ」

「じゃあ手配を頼めるか?」

「ああ、任せておけ」

 そう言って武藤は携帯を取り出したのであった。


出撃前に大量の栄養ドリンクを飲んでいると、それまでTVを見ていた魔女が俺の方を向いた。

「そういえば涼介って格闘技をどこで習ったの?」

「格闘技?」

「ほら、私のお腹を殴って気絶させた事あるでしょう。どこで習ったのかなって」

「ああ、あれか。自己流だよ」

「うそ!だって気絶するほどの威力よ!武道やってないと不可能よ!」

「あれはトリックがあるんだよ。利き手にサイコスフィアを集中させて殴る事で他の細胞に連鎖的な衝撃を与える事が出来る」

「ど、どういう事?」

「そうだな、簡単に言うと殴った箇所を中心に電気が体内を駆け巡るって事だ。サイコスフィアが放つ衝撃を吸収しようとその箇所の細胞が頑張るが、壊れそうになる。壊されまいと他の細胞に衝撃を受け渡そうとする。その細胞も耐え切れなくなり他の細胞にとこうやって連鎖的に衝撃が体内に走るわけだ。もし、受け渡された衝撃が脳にいけばどうなる?」

「し、死ぬ?」

「死ぬはないな。俺のサイコスフィアはそこまで強くない。気絶の原理は大脳もしくは脳幹って言う延髄にある物が血液が遮断され起こる現象といわれている。衝撃が脳に来る頃にはその衝撃はかなり弱くなっているが衝撃を抑えようと踏ん張る脳の細胞が縮む。血流は一時的に止まりそして気絶するって事だ」

「な、何だかよく分かったような分からないような。とにかく涼介はすごいって事ね!」

こいつは後でみっちり生物学を叩き込んでやろう。

「俺は人から教わるのが嫌いでな。教えてもらうよりも独学の方が自然と頭に入ってくるし、やる気の度合いも違う」

学生の頃は勉学に勤しむ気などさらさらなく孤独に過ごした日々を思い出し虚しくなる。

「ふうん、不思議な物ね。私は教わるの好きだな。だって調べなくていいしその場で質問し放題だもの。大抵は夢美に教わるけどね。夢美の教え方ってすごくうまいのよ。それに理解できたら頭撫でて褒めてくれるしもう最高よ!」

「誰もがお前みたいに言いたい事を言える性格じゃない。まあお前みたいな性格だと将来は安泰だな」

のろけが始まりそうだったので打ち切る。

「……なんか馬鹿にされた気分」

「これでも褒めてるんだぜ。親友のために無償で動くお前にな。さあこのドリンクを飲め。最終決戦は近いぞ」


最終決戦の三十分前。俺達は車に乗り、稀火兎市の北の森の中に向かった。数十分して森の周囲に木々が生えていない場所に着くと漆黒のヘリコプターと黒服の男達がそこにいた。

「ご苦労だったな諸君」

車を降り、武藤が挨拶すると黒服達が一斉に敬礼をする。

「隊長。協会専用特別攻略ヘリ『スズバチ』搬送いたしました」

「よし、辺りに人らしき者は?」

「警戒態勢を引いてくまなく捜索しましたがいたのは野生動物のみ。ご安心ください」

「完璧だ。いいねえ。帰りは車を使え。安全運転でな」

武藤が黒服に鍵を渡すと黒服達は再び敬礼をする。

「そういえば誰が操縦してくれるの?」

「ああ、俺がやるんだよ魔嬢」

「え?武藤って操縦できたの?」

「協会は様々な免許が取れるぞ。大型・重機から戦闘機までな。ヘリなら二百時間程度で取得できるしまあ興味があったから取ったんだが、こんな所で操縦する機会があるとは思ってもみなかった」

「自信はあるのか武藤?」

「トモエ。自信は常にある。度胸もある。腕もある。ないのは墜落してお前達を殺すという想像だけだ。さあ乗った乗った」

ヘリのスライドドアを開け、俺達は座席に座る。初めて乗ったが意外と硬い。

「シートベルトはしといてくれよ。黒髭危機一髪みたいに飛び出して俺に直撃するぞ」

武藤は慣れた手つきで操縦席にあるレバーやボタンを押す。しばらくするとローターの旋回する音が響いた。

「よし、離陸準備完了だ。シートベルトは……全員OKだな。これより協会専用特別攻略ヘリ『スズバチ』浮上する!」

武藤の言葉と同時にヘリが上昇する。胃が微かに浮くような感覚。血液が下に集結していくような感覚。重力から開放される直前はどうもなれない。

横に座る魔女を見ると機嫌よく鼻歌を歌っている。重力から開放された人種は楽でいいな。

「津着予定時刻は八時ジャスト。夜間飛行だから速度を落とし進む。各自、イメージトレーニングをしておけ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る