第15話:戦闘準備
「はいってこい」
ドアが開かれる。
そこにいたのはぼさぼさの赤い髪に青い瞳の背の高い男。
「グレンオード!」
「やあ会うのは久し振りだねトモエ。そしてそちらの二人は初めましてかな」
グレンは甚平姿で肩にショルダーバックを掛け、手には黒のガンケースを持っている。
「誰よあんた?」
「グレンオード・ケーズボルト。この街の監視者。元は盗撮業者として犯罪行為を行っていたが、今は市長からの命令で街の監視を任されている」
「その通りだよムトー。ああそれとグレンと呼んでくれ。グレンオードって長くて言いにくいからね」
そう言ってグレンは笑顔を崩さないまま魔女に近づく。
「君がミヤコだね。うん、いい名前だ。それに映像で見るよりもずっと可愛いね」
魔女はさっとグレンから距離を取る。
「あんた、変態?」
「変態かもしれないね。まあそんなに距離を取らないでくれるかい?武器が渡せない」
そう言ってグレンはガンケースを開ける。
中には手のひらサイズの拳銃と数個のマガジン、レッグホルスター二個が綺麗に収められていた。
「見なれない銃だろ?P239と言って小さく可愛らしい銃なんだ。正式名称はSIG SAUER P239でドイツの拳銃。手の小さな女性でも握りやすい銃だ。大きさは十七センチとコンパクト」
そしてグレンはレッグホルスターを取り出す。
「これは両脚に付けてね。片方は拳銃を仕舞うホルスター。もう片方はマガジンを仕舞うホルスターだよ」
「脚?私スカートなのに、抜きにくいんだけど……」
「……言われてみればそうだね。涼介、何でこの子の服装をいってくれなかったんだい?」
「すまん、言うの忘れてた」
「まあ、この銃は小さいから鞄にでもしまっておいてね。マガジンも」
そう言ってガンケースをテーブルの上に置く。
「市長からの伝言だよ。『必ず黒幕を殺せ。そして魔女を護れ』だってさ。この任務が完了したら君の希みである多額の報酬を払うだってさ。涼介、そんなにお金が必要なのかい?」
「金はいくらあっても困らないだろ。それにこんな面倒くさい任務は初めてだ。沢山金を貰わなくてどうする?」
「そりゃあそうだね」
グレンはそう言いながらショルダーバックを開け、イヤホンらしき物を俺に渡してきた。
「これは?」
「高性能骨伝導マイクイヤホンだよ。一度セットしたら中々離れない吸着性。工事現場でもクリアに聞こえる快適受聴。雑音、鼻息、吐息、無駄な音を全てシャットアウトする不思議なマイク。さらにボタン一つで順番に複数の通信者を選べる。お値段はたったの十二万円。面白かったんで買ってみたよ」
通信販売員並みの宣伝をするグレン。
「聞きたい事があったら僕に通信を送ってね。何でも答えてあげるよ」
「分かった。複数って事は……」
「そう、ここにいる全員分あるよ。それで僕の仕事は通信による君達のバックアップだよ」
そう言ってグレンはソファに座りノートパソコンを取り出す。
「市長からの命令でね。最終決戦が近いんだろう。何が起きてもいいように僕がオペレーターとして派遣されたんだ。僕は部屋から出たくないのにね。半年ぶりの外出だよ。久し振りに知らない人に会いまくって気持ち悪かったよ」
市長の考えてる事が分からない。確かにこの街を誰よりも知ってるのはグレンだ。だが、なぜ彼にオペレーターをまかせたのか?疑問だ。
「ああ、そうだ。言い忘れてたけど星野・夢美ちゃんだっけ?あの子は協会が厳重体制で保護してるから安心してくれって市長が言ってたよ」
「夢美!じゃあ夢美は無事なのね?」
「うん。緊急事態だからメールも電話も一切シャットアウトさせてもらってたからね。悪く言えば軟禁に近い事させてしまった感じかな」
なるほど。この数日彼女に連絡しても繋がらなかったのはそのためだったのか。
「だけどそのおかげで黒幕は彼女に手を出せずにいる。黒幕が一番にやりそうな事と言えば親しい者を人質に取る事。ミヤコ、彼女から伝言を受け取ってるが聞くかい?」
魔女はすぐに頷いた。
「この事件が終わったら伝えたいことがあります。必ず生きて帰ってきてください。以上だよ」
このメッセージの内容は俺と魔女は既に知っている。だが、何故か再び聞くと重みがあった。
「勿論よ。こんな所で死んでたまるもんですか」
そう言って魔女は手を高く上げる。
「私は宣言するわ。月野・都は死なない。絶対によ」
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