第10話:作戦会議

『初めまして。そしておはようございます協会の人』

若い女性の声が電話越しに聞こえる。

「誰だあんた?」

『誰だと言われましても、あなた方をもて遊んでいる深紅の魔女としか言えませんわ』

相手の暴露に緊張が走る。俺の表情を悟ったのか、武藤がトモエさんに声を掛け、隣の部屋に移動する。

「ようやく声が聞けて嬉しいよ」

『私もですわ危険因子さん』

「で、どうして俺の電話番号知ってるんだ?」

『手短に話をしたいので、それはまた後日。それよりも私の可愛い可愛い弟子が逮捕されて私、とても心を痛めておりますの』

「弟子?ああ、魔女の事か」

『逮捕されたのになぜあなた方と行動してるのかは不可解ですが、まあいいでしょう』

「何が目的だ?魔女に野良犬を殺させたり、俺達を狙わせたり遊びにしては達が悪いんじゃないのか?」

『それも時間が足りないので後ほど。……今日の夜に会えませんか?』

「夜?今からじゃ駄目なのか?」

『魔女は夜行性ですの。いいですか、今夜八時に稀火兎グランドホテルの屋上に来てください。ああ、もちろん可愛い魔女さんも一緒にね。それ以外の人間はNGですよ。多人数との会話は面倒臭いのでね』


目覚めると時計の針は七時を指していた・

心地良すぎるベッドのおかげか仮眠とはいえ十分に寝てしまったようだ。

真紅の魔女との戦いに備えて俺は仮眠を取っていた。体内に宿るサイコスフィアは宿主の睡眠によって回復すると言われている。

今日で少量だが何回か能力を使ってしまったため、念には念をいれて取った行動だ。

「魔女は起きてるかな?」

魔女も一応能力を万全に使えるように仮眠を取ってもらっている。真紅の魔女は俺と魔女を指名してきた。戦闘になることは確実。

トモエさんは屋上を狙撃できる場所を探しに外に出ている。武藤は酒を飲みながら見張りをしていると言っていたのでソファで飲んでるはずだ。


「あら、起きたのね」

ソファのある場所まで移動すると魔女と武藤がソファに座っているのが見えた。ソファの真ん中にあるテーブルには大量の栄養ドリンクが置かれてあった。魔女の顔はげんなりとしている。

「ああ、すっきりしたよ。それよりもこんなに買ったのか」

「そうだ。サイコスフィアに活を入れるためにな。最低十本は飲んでもらわなくてわな」

「そんなに飲んだらお腹たぷたぷになるじゃん!」

「我がままを言うな魔嬢。この栄養ドリンク『ブルフル』にはタウリンが大量に含まれてるんだ。タウリンは俺たち能力者にとって必要不可欠な栄養素なんだよ」

「タウリンってなによ!ファイト一発させる気?」

「タウリンは簡単に言えば肝臓を強くする効果があるのだよ。さらに細胞膜を安定化させたり、さらには脳の負担を抑えてくれる」

「それが……何なのよ?」

「お前、ひょっとして生物苦手なのか?」

俺はそう言いつつ魔女の隣に腰掛け栄養ドリンクを飲む。相変わらず酸っぱくて甘い味だ。キンキンに冷えてうまい。

「私、生物の時間は嫌いなの」

「そうか……。魔女、昨日軽く説明したよな。サイコスフィアは細胞内にあると」

「ええ、それは分かってるわ」

「細胞膜を安定化すると細胞内のサイコスフィアが激しく動いても多少の無茶が効く。つまり安心して自分の能力が出せるってわけだ」

「ああ、なるほどね。じゃあ脳の負担ってのは?」

「タウリンは脳の興奮を抑える働きもあるんだよ。脳も勿論、細胞で出来ている。脳は人間の司令塔だ。能力の制御や限界位置を把握している。だが、脳が興奮状態だと正常な命令が下せなくなる。そうなると能力の限界を超えてしまう」

「限界を超えるって、まさか超えちゃうとやばいの?」

「ああ、オーバーヒートした機械は壊れる事があるだろ?能力者も同じだ。ついつい能力を使いすぎて、脳も止めろと命令できなくなると当然身体にガタが来て壊れる。いやその場で死ぬんだよ」

魔女の顔に冷や汗が流れるのが見えた。

「特にお前のようなヒステリックで、なりふりかまわず行動する奴は能力の制限ができず死んでいくパターンが多い。だからタウリンを大量に取っとけと言ってるんだ。これで分かったろ。飲め、死にたくなければな」

俺ら超能力者は薬の影響を受けやすい。このため真剣な能力を使った戦闘前には薬を飲んで備える事が当たり前になりつつある。

「わかったわよ」

魔女はしぶしぶ栄養ドリンクを手に取り飲み始めた。

「現代の科学の力に感謝するんだな魔嬢。昔のタウリン入りドリンクなんてまずくて飲むのに吐くかもしれない、という恐怖に囚われずに済んでるんだからな」

「そうなの?……あ、意外と美味しい。でも夢美が私のために作ってくれた特性蜂蜜ドリンクの方がおいしいわね」

「美味くなきゃ何十本も飲めるかってんだ。武藤、作戦はもう決まったのか?」

「ああ、今から軽く説明しようと思ってたところだ」


そう言って武藤は胸の内側のポケットから折りたたんだA4サイズの紙を取り出すと、テーブルの上に広げた。真ん中に長方形が描かれていて中にホテルと書いてある。

「ここがホテルの屋上と思ってくれ。お前達が、魔女とコンタクトを取る場所だ。そんで……」

武藤は長方形の下に正方形を描く。

「ここがトモエの狙撃ポイントだ。屋上の高さと同じ位置、さらに距離は約二百で今日は風も強くない。天気は快晴、湿度も高くない。絶好の狙撃日和だ」

狙撃と聞いて魔女が若干嫌な顔をする。

「屋上の扉には格子タイプのフェンスで囲まれているが、トモエなら外さないだろう」

「私は何をすればいいの?」

「魔女と出来るだけ長くお話をするだけだ。話してる間にトモエが奴の死なない位置に鉛弾ぶち込んで逮捕して終わり」

「もし真紅の魔女がいきなり襲い掛かってきたらナイフで応戦する」

「私も何か武器が欲しいんだけど……」

「おいおい、冗談言うな魔嬢。お前は魔女の変身セットと竹箒だけだ。囮は囮らしく丸腰でいろ。勿論、殺させはしないから安心しろ」

「……わかったわよ」

「以上が猿にも分かる作戦内容だ。既に屋上の鍵は支配人から預かっている。さあ作戦準備に取り掛かれ」

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