第8話:喫茶店で硝煙の香りを


『はちゃとりあん』

稀火兎市の外れにある外見がログハウスの喫茶店。

マスターは丸々太った人の良さそうな中年男性。

店の中は開店したばかりなのかスーツを着た若い男数人がカウンター席にいるだけ。

「......」

テーブル席には俺を含めた三人の超能力者と一人の刑事。魔女は少し眠たそうに眼を擦り、トモエさんは無言で武藤を睨み付けている。

「そう睨むなよトモエ」

武藤がトモエさんに笑顔を向ける。

「全く、こんな形で会うとは思わなかったよ武藤」

トモエさんはため息を付く。

「会えて嬉しいよ。忙しくてなかなか連絡が出来なかったんだ」

二人の会話からするにどうやら知り合いらしい。しかし、こいつ馴れ馴れしいな。どんな関係だ。


「ああ、涼介。武藤は組織の者だ。私達と同じな」

「ということは超能力者?」

「そうだ。お前と同じ組織に所属し、超能力者だ」

武藤は警察手帳を取りだし、その中から一枚のカードを取り出す。

青の背景にクマバチのシルエットが描かれ、下には八桁の数字が書かれている。

「なにこれ?」

魔女が不思議そうな顔をする。

「超能力者保護協会の証明カードだ。私達はこの組織に所属しているんだよ」

「仕事内容は超能力者の保護や監視、討伐と日夜平和のために頑張っているんだよ童」

武藤は魔女に笑顔を向ける。童って何だよ。変な呼び方だな。

「もちろん悪い事をした奴には子供だろうが容赦はしないがな。だから童には罰を与えてるんだよ」

「このチョーカーの事でしょ?今回の事件に協力したらチャラになるから私ってラッキーなのかな?」

「利用価値があるからなお前には。価値があるから生かしといてやる。事件後、合格点を越えなかったら殺すからそのつもりでいろよ」

武藤は胸ポケットから拳銃をちらっと出し魔女に見せる。

「越えて見せるわよ。だって告白の返事もしないまま死ぬのは夢美に悪いからね」

自信たっぷりに宣言する魔女。そういやこいつ、夢美ちゃんと俺の会話を隠れて聞いていたな。

「たいした自信だな」

「あら、好きな女の子のために頑張る女の子は無敵って言葉知らないの?」

その時、店の扉を開く音が聞こえた。


新しい客かなと思い、俺は何気なく視線を店の出入口に向ける。

「なっ!」

一瞬、思考が停止する。

そこにいるのは南瓜を被ったランニングシャツ姿の男が立っていた。手には......ショットガン。

「伏せろ!」

停止した思考が解けると同時に、叫びながら隣に座る魔女を無理矢理頭を伏せさす。

次の瞬間、銃弾が発射される音と悲鳴が店内に響き渡った。

硝煙と血の匂いが鼻をつく。直ぐに顔を上げ、席を立つ。カウンター席にいた男達とマスターが血を流し倒れている。

「ヒットオォォォォ!」

しわがれた叫び声を上げながら南瓜男はショットガンのポンプを引く。

俺は南瓜男に向かって駆け出す。銃口が俺を見つめている。

「ハズサナァァァァイ!」

二度目の重い銃声音と共に数多の散弾が俺を襲う。

「ぐっ!」

全身を殴られた衝撃を感じ、俺の身体が少し後退する。しかしそれだけだ。

「ヒットオォォォォ!」

再びショットガンのポンプを引く南瓜男。しかし、彼の動きはそこで止まった。

左胸に穴が数個空き、そこから噴水のように赤い水が流れている。そして、南瓜男は糸の切れたマリオネットのように倒れるのであった。

「さすが鋼鉄人間。丈夫だな」

いつの間にか武藤が横に立っていた。手にはコルトガバメントが握られている。

「駄目だ。私達以外棺桶に入ってやがる」

振り向くとトモエさんが魔女を支えていた。魔女の顔は真っ青だ。

「モーニング食い損ねたな」

そう言い、武藤は南瓜男の南瓜を外す。

口と目を大きく広げた初老の男の素顔があらわとなる。

「こいつは......」

「知り合いか?」

「ああ、俺達公僕が血眼になって捜していた賞金首だよ」

武藤はそう言って携帯を掛けるのであった。

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