第6話:早すぎたハロウィン
午前五時。
携帯の着信音が部屋中に鳴り響いた。
「誰だよ......」
眠たい目を無理矢理開け、上半身だけ起き上がり枕
元の棚から携帯を取り出す。
ディスプレイに映る文字はグレンオード。
「なんだよまったく......。どうした?」
『やあ涼介、朝早くからすまないね』
「全くだ。で、どうした?魔女の事で何かわかったか?」
『いや、それはまだなんだが、ちょっと気になったことがあって電話したんだ。涼介、日本では真夏の早朝にハロウィンパーティーをするのかい?』
「は、何言ってるんだお前は?ハロウィンは十月最後の日だろうが。日本もそれに合わせて楽しんでるぜ」
『そうなのかい?じゃあ僕が見たあれはなんだったんだ?』
「仮装した野郎が映ってたのか?」
こんな時間にコスプレパーティーとはおかしな奴もいたもんだな。
「ああ、でも奇妙なんだ。映ってたのはカボチャを被った複数の女子生徒なんだ!しかも刃物みたいな物を持ってるんだよ!」
「何だって!?場所は?」
嫌な予感がする。確信ではないが只の仮装パーティーではない。
『橋の下だよ。そこに三人のカボチャ女子がいる』
「わかった。行ってみる」
通話を終了し、手早く着替える。
シャツにスラックスといつもの服装。
橋の下と言っていたがおそらくこの街の中心部を流れる川の橋を言ってるのだろう。
徒歩では時間が掛かってしまう。俺は机の上に置いてある原付の鍵を手にし、外に飛び出した 事務所の横に隠れているように停めてある青のトゥデイに跨がり、発進させる。
朝も早いのか人通りはほとんどなく、涼しい風が心地いい。事件じゃなけりゃこのままドライブといきたいとこだがそうもいかない。目指すは街の中心を流れる川、『稀火川』
原付を飛ばして五分ほどの距離。
車の通りもほとんどないのでスムーズに走れる。あっという間に中心街を抜け、川が見える位置まで来ていた。
原付を土手の端に停め、急な坂を降りる。
川沿いの道は普段ならランニングコースと化しており、ジョギングをする人々が行き来しているが時間も時間なのか、誰も通らない。
「あいつらか......」
橋の下に、そいつらはまるで俺を待ち構えるかのように立っていた。
セーラー服にカボチャの頭を被った三人の少女たち。手には鉈と非常に現実にはあり得ない光景だ。
「ハロウィンにはちと早すぎないか?」
ゆっくりと警戒しながら南瓜女子に近づく。俺の身体は鋼並みの堅さとなる身体だ。刃物の威力も無効化できる自信がある。だが油断はできない。
「キ、キィタァ!」
「コォコロス!」
「ハラワタ!トォル!」
耳に響く異常に響くかん高い声。そして狂ったように鉈を振り回す南瓜女子。
「薬でもやってんのかお前ら?だとしたら感心しないな」
その時、南瓜女子の一人がこちらに向かって跳躍してきた。
「なっ!」
只の跳躍ではない。自分の身長より何倍も高く跳んだのだ。普通の人間では出来ない芸当。
南瓜女子が鉈を振りかざし降下する。狙いは俺の頭。
「シェァァア!」
俺は咄嗟に左腕を出し、頭を庇う。次の瞬間、硬い金属音が橋下に響いた。
「ガ!?」
鉈は俺の左腕で止まっていた。切断されることなく止まる。
「薬物中毒者ではないことは確定だな。黒幕は人間も洗脳できるのか?」
俺は唖然としている南瓜女子の腹に拳を叩き込む。それだけで南瓜女子は身体をくの字に曲げ、吹っ飛ばされる。
「俺は一般人とは違うぜ。倒したけりゃ戦車でも持ってくるんだな」
一歩足を踏み出した瞬間、残りの南瓜女子達が襲いかかる。今度は左右からの同時攻撃。素早い動きこちらに移動し、思いっきり鉈を俺に降り下ろす。
だが、結果は変わらない。
鉈は俺の身体を傷つけることなくそこで留まっている。
俺は再び拳を南瓜女子達の腹に叩き込む。
吹っ飛ばされる南瓜女子。それと同時に周辺が静かとなる。
橋の下に立っているのは俺だけ。
「弱い......」
待ち構えられていた。しかも洗脳された女子達でこれが意味するもの。
「深紅の魔女か」
人間を洗脳するのは容易ではない。しかも複数人を洗脳となるとかなりの精神力を使う。
聞いた話だが、洗脳の能力の方法は接触し相手と目を合わせる。目の中の細胞内にあるサイコスフィアが光をだし、その光を間近でみた相手は洗脳される。
仕組みはまだ解明されてないが、この行為にはひどく精神と目を疲れさせるらしい。
俺はポケットから携帯を取りだす。
「グレン。ハロウィンなんてなかったぞ」
『みたいだね。ということはこの子達は洗脳された子達なんだね?』
「ああ、間違いない。深紅の魔女の仕業だとしたらかなり厄介な敵だな」
『なるべく早く動画を編集して送るよ。それとその場を早く離れた方がいい、ポリが来たら面倒だよ!』
「ああ、そのつもり...」
その時、嫌な気配を背後に感じ、俺は振り返った。
どす黒く、不快としか言い表せない気配を身に纏ったそいつは不敵な笑みをもらしながら立っていた。
黒のスーツ姿に黒縁眼鏡を掛けたオールバックの男。背は高く蛇のように鋭い眼が俺を見ていたのであった。
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