第4話:グレンオード

事務所を出て、近くのコンビニで大量のコーラとポテトチップスを買う。

健康を害する組み合わせ上位にランクインするこれを持ち、俺は事務所より更に北を目指す。

これより北は何もないに等しい。あるとすれば誰も住んでないマンションがいくつも建ち並ぶ元住宅エリアと木々が立ち並ぶ森があるだけだ。

周りに店もなく、背後は森。森の中は野獣の住み処。そして蚊や蛾など害悪な生物が容赦なくマンションの住民にまとわりつく。

最悪な立地条件を持つマンション群に住む物好きなど皆無に等しく、ゴーストタウンと化している。

「何であんな所に建てたんだよ。土地の無駄遣いだぜ」

先がゴーストタウンなので向かう車もなく整備された道路が延々と続いている。

時計を見ると午後四時。そういや今日はコーヒー以外何も口に入れてないな。腹が減った。

「あいつに会ったら軽く飯でも食うかな」


寂れたマンションに入り、階段を上る。

二階の二〇六号室。あいつが根城にしている場所だ。

インターホンを押すと直ぐ様ドアが開き、1人の男が姿を現した。

「やあ涼介、待っていたよ」

ぼさぼさの赤色の髪に、青い瞳。背はひょろりと高く、縁なしの眼鏡をかけている。

「起きていたのかグレンオード」

グレンオード・ケーズボルト。

街に住む観察者と名乗る男で、街のあらゆる場所に隠しカメラを仕掛け、それをモニター越しに眺める変わった男だ。

「あがってくかい?」

「そのつもりだ。みやげもある」

ポテチとコーラの袋を見せるとグレンオードの目が輝く。

「燃料をありがとう!」

グレンオードの部屋は辺り一面モニターで覆われていた。モニターに映るは稀火兎市のあらゆる場所。

「事件は終息を迎えたのではなかったのかい?」

「いや、黒幕がいたんだ。捕まえた魔女はポーンにすぎなかったんだよ」

俺は手短に魔女を再び捕まえ、真相を聞き出した所までを語る。

「じゃああの魔女は快楽で殺してたわけじゃなかったんだね」

コーラを一気飲みし、満足そうな顔をしたグレンオード。

「ああ、おかげでまた犯人探しだよ」

市長から依頼を受けてグレンオードに頼み込んで調べてもらった膨大な量の映像。

そこに微かに映った制服姿の魔女と夢美ちゃんの証言が今回の事件の終わりを告げると思っていたのだがまだまだ終わりそうにない。

「魔女だけが映っている映像はまだ保存してるな?」

「ああ、ばっちりだよ」

元は街のあらゆる所に仕掛けてあったカメラで歩く女子のみを映し、その映像で莫大な利益を得ていたグレンオード。しかし市長の命令により俺達によって逮捕され、その後は街の観察者として暮らしている。

「悪いが一つ仕事を頼みたい。もちろん報酬ははずむ」

「魔女が誰と映ってるかを見直してそこだけ編集しろってことだね?」

「そうだ。察しがいいな」

「それならまかせて。観察と編集は僕の十八番だ」


事務所に戻るとソファーで気持ちよく眠っている魔女の姿が見えた。

首に黒のチョーカーをつけているがそんな物つけていたかと一瞬悩む。

「それはGPS付きのボムチョーカーだ」

コーヒーカップを持ちながらトモエさんが答える。

「市長の側近がここに来て着けていったんだよ。魔女が私達から一定距離離れると爆発する仕組みになっている」

「側近が来たんですか!?」

「ああ、こいつが黒幕がいることを吐いてくれただろ。その事を報告したら来たんだよ。市長から新たな命令だ。魔女と協力し、黒幕を捜し捕獲せよだとさ」

「犯罪者と協力ね……」

しかしこの魔女、よくこんな目にあって眠れてるってどんな神経してるんだ。

「協力というか囮だな。こいつと黒幕が接触した瞬間を狙うんだよ」

「了解。それまでこいつをどこで寝かすんですか?」

「私の部屋だ。ベッドが広いから二人なら余裕だろ。てなわけで起きろ都」

トモエさんがソファーで寝ている魔女を揺する。

「ん......。トモエ?」

魔女がゆっくりと起き上がる。

「あ、お帰りなさい涼介」

昼間銃で脅されガタガタ震えていた姿はどこにいったのやら、魔女は満面の笑みで挨拶をする。

「さっそく大人を呼び捨てとは生意気なガキだな」

「あら、これから仲間になったんだからいいでしょ別に」

「こいつ......」

「まあまあ涼介」

説教をしようと魔女に詰め寄ろうとしたがトモエさんにとめられる。

「脅えさせると黒幕に勘づかれる可能性があるからな。ここは耐えてくれ。ようやく打ち解けてくれたからな」

「打ち解けたですって?」

小声で話すトモエさんに俺も小声で話しかえす。

「協力しろと命令されたからな。泣きじゃくる都をなだめたんだよ。なんとか泣き止ませて大好きと言ったうな重食わせて、一緒に風呂に入って身体を洗ってやったりいたせりつくせりしてここまで来たんだ。私の努力を無駄にしないでくれ」

「わ、わかりましたよ!」

半泣きで迫るトモエさんに俺は頷くしかなかった。

「何こそこそ話してるの?」

「何でもないぞ!そうだ都、晩御飯は何が食べたい?何でもいいぞ!」

「本当!?じゃあオムライス!」

「オムライスか。じゃあ出前で頼むか!」

そう言ってトモエさんは電話の受話器を取るのであった。

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