第3話:尋問と動機

事務所に戻ると俺はすぐさま背もたれ椅子に、抱えていた魔女を座らせる。

「目を覚まさして尋問開始といこうか」

机の引き出しから手錠を取り出すトモエさん。

「了解」

俺はトモエさんから手錠を受け取り、魔女の両手を背もたれの後ろに回し、手錠を掛ける。

同時にトモエさんが拳銃を装備したまま、気絶した魔女の正面に立つ。

「涼介、相手は子供とはいえ、お前を殺そうとした殺人者であり、超能力者だ。私は容赦なく尋問するからな」

トモエさんはきつく魔女を睨み付ける。俺は無言で頷く。普通に聞いてもこの魔女の事だ。とぼけるか、大声で喚き散らす可能性が高い。ならば最初から脅して恐怖心を煽らせるのが得策だ。

「さて、いつまで寝てるのかな!」

パァンと乾いた音が響く。トモエさんが魔女の頬をはたいた音だ。

「痛っ!な、なに……あがっ!」

目を覚ました魔女が声を上げようとした瞬間、トモエさんが装備した拳銃を口内に突っ込む。

「私の事務所にようこそ可愛い魔女さん」

にっこりとほほ笑んでいるが目は笑ってない。

「あがっ!あぐ……あ!」

魔女は涙を流し、後ろ手に掛けられた手錠を外そうと暴れるが、トモエさんは口から拳銃を離さない。

「初めに言おう。お前には選択肢が2つある。激しく暴れて口の中に弾丸を入れられるか、大人しく私の質問に答えるかだ。ちなみにこの拳銃は本物だ。まあ実際撃ったおっ前なら分かるよな?なんなら本当かどうか確かめてみるか?その変わり選択肢を与える前に死んでも文句は言うなよ」

トモエさんの指が引き金に添えられる。魔女は目を大きく目を見開き、微かにだが首を横に振る。

「そうか。これが本物だと信じるんだな?じゃあ次のステップに進む。この場で弾丸を飲み込むか、質問に答えるかだ。前者なら首を縦に、後者なら首を横に触れ。制限時間は5秒だ」

「あぐ!んん!んん!」

トモエさんの質問が言い終わった瞬間、魔女はすぐさま首を横に振った。

「ほう、即答だな。いい判断だ」

そう言ってトモエさんは拳銃を魔女の口腔内から出す。銃先が魔女の涎で濡れているがそれを拭うことなく、魔女の顔に向ける。

「ぷはっ!……はぁ、はぁ。い、言います!何でも話しますから殺さないで……」

恐怖に怯え、涙が止まらない魔女に一瞬罪悪感を覚えるがそれを振り払い、俺は魔女の前に立つ。

「なぜこんな事をしたんだ?」

「せ、正義のためよ」

涙声で答える魔女。

「ほう、お前の言う正義とは醜い死体を公然の地に置く事なのか?」

再びトモエさんの指が引き金に添えられる。

「ひっ!し、仕方がなかったのよ。証明のためにこうするしかなかったの!」

「証明?」

「そうよ!私は奴と戦ってるの!野良犬を操っている奴と!この街を救わなくちゃならないの!」

支離滅裂な言葉で語る魔女。あまりの恐怖に混乱してるのか?

「落ち着け魔女。奴って誰だ?」

「この街にいる野良犬を倒さないと、被害が増える!増えるから増える前に殺すの!殺したらその分平和になるの!」

泣き叫びながら再び支離滅裂な言葉を発する魔女。首を嫌々振り、身動きの取れない身体を必死に揺すろうとする。

「恐怖のあまり混乱してるか……。仕方ない」

次の瞬間、鈍い発砲音が部屋中に響いた。

「ひっ!」

暴れていた魔女が静かになった。魔女の視線はトモエさんの持つ拳銃。そして穴の空いた天井。

「あんまりうるさいと殺すぞ糞餓鬼」

そしてそのまま再び銃口を魔女に向ける。

「ひとつ言っておく。私は今まで何百という人間を殺してきた。もちろん子供、老人も躊躇いなくだ。お前をこの場で殺しても何も感じないんだよ。まあ殺した後の清掃代がかかるが安いものさ。さあ、私達に理解できるように話してもらおうか」

魔女はゆっくりと頷いたのであった。


「なるほど。つまりお前は『真紅の魔女』と名乗る奴が操る野良犬を退治していたのか」

魔女が事件を起こした理由は実にシンプルであった。

同じ浮遊能力を持つ人物に、洗脳した市に存在する野良犬を全て殺してみろと挑発されたらしい。

俺たち超能力者は一つの能力だけを持っているとは限らない。中には複数の能力を持っている奴も存在し、珍しくはない。今回の『真紅の魔女』と名乗る超能力者は浮遊と洗脳の能力を持っているみたいだ。

「その洗脳された野良犬だが、まさか第三者を巻き込むから仕方なく討伐してるのか?」

「ううん、違う。夜の間だけ、私を見つけたら攻撃するように命令されてるのよ」

「命を粗末にしてはいけませんって学校で習わなかったのか?」

「私、犬嫌いなの。それに野良犬って人間に危害を加えるかもしれないし、最悪保健所で始末されるわけだし」

確かに魔女の言葉も一理ある。近年、無責任な人間が増えたのか簡単に動物を捨てるようになった。結果野良犬が増加し、市に駆除の依頼が殺到している。

「そうだな。だが、それはお前のやっていい事ではないだろう。私たち能力者は影の存在だ。目立つ事は許されない」

トモエさんは呆れた顔で魔女を見る。

「私達は異質な存在だ。そして人間の敵として見られる事が多い。もし超能力が公にでてみろ。第二の魔女狩りが始まるぞ」

超能力者が公に出ないように管理する組織は存在する。魔女のように突然超能力に目覚めてしまった者が能力を悪用しないために事前に保護するのが目的だ。俺も能力に目覚め、保護された身だ。

「しかし洗脳と浮遊の超能力者とかレアすぎだろ。浮遊なら組織の中にいくらでもいるが、洗脳となるとかなりの使い手だ」

超能力の中でも自分自身を強化する能力は珍しくない。しかし洗脳となると相手の精神を乗っ取り命令させるため、膨大な精神力が必要になってくる。故に洗脳が使える超能力者は滅多に存在しない。

「深紅の魔女と初めて会った日は事件の始まりの日と同じ日なのか?」

魔女は無言で頷く。

「トモエさん。ちょいと出掛けてきます」

「ああ、あいつの所にいくのか。いいぞ、私はもう少しこの糞ガキとガールズトークでもしてるからな」

魔女は俺の方に向き、目で助けを求める。都合のいい奴だな。

「それじゃあな魔女さん。生きていたらまた会おう」

俺は魔女に背を向け事務所を後にするのであった。

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