第2話:魔女と銃弾

喫茶店をでた後、俺は夢美ちゃんを家まで送る事にした。

「いいんですか、家まで送ってもらって」

「かまわないよ。近いしね」

夢美ちゃんの家は中心街の近くにある高級マンションに住んでいる。

両親は海外で仕事をしているらしく一人暮らし。部屋にお邪魔した事はないが、相当広い部屋で落ち着かないらしい。

「そういえば戸塚さんはトモエさんと一緒に暮らしてるんですよね」

「ああ、事務所の横に部屋があるからね」

特殊解決事務所は仕事場と寝室とで区切られている。寝室は二つあり、部屋の中はベッドに机、ユニットバスとビジネスホテル並みの設備。

事務所の周りにはコンビニやスーパー、飲食店、ドラックストア、診療所と店が充実しているのでまさに良物件である。

「綺麗な女性と同居して緊張しないんですか?」

「緊張か。トモエさんは尊敬する上司だよ。それ以上でもそれ以下でもない」

美人なのは否定しないが、トモエさんどころか他の女性を恋愛対象で見たことなど一度もない。それにトモエさんも恋愛に興味はないらしく、一度も異性と付き合った事がないと言っていた。 

ある意味、俺とトモエさんは似たもの同士かもしれない。

「つまんないです。てっきり付き合ってるのかと思ってたのに」

「期待通りの答えでなくてすまんな。そういう夢美ちゃんはどうなんだ?彼氏の一人や二人いるだろ」

夢美ちゃんみたいな可愛くて優しい子、男共が放っておくわけがない。

「私、男の人に興味ないですから。彼氏を作ろうなんて考えたことないです」

満面の笑みで答える夢美ちゃん。

「男の人に興味ない?」

「ええ。私、同性愛者ですから」

「ああ、なるほどね」

昔とは違い今の時代、同性愛者を公言する者は珍しくない。同性愛者に嫌悪感を抱いている者もいるが、俺は人の恋愛を傍目から見て気持ち悪いと思う奴に嫌悪感を抱くな。

「好きな人はいるのか?」

「み、都ちゃん……です」

夢美ちゃんは少し照れながら思い人の名を答える。

「都?もしかして月野都の事なのか?」

俺の問いに恵美ちゃんは顔を赤らめ微かにうなずく。

「なるほどな。夢美ちゃんが今回の事件に必死になるはずだ」

好きな相手が動物虐殺者で超能力者で。そりゃあ心配するわな。

「こ、この事は内緒ですよ。まだ告白してないんですから」

「わかってるよ。告白受け入れてもらえるといいな」

「はい!」

気付くと夢美ちゃんのマンションの近くまで来ていた。

高級マンションというだけあって、白く清潔感の溢れる外見を持ち、自動ドアから見えるエントランスにはレッドカーペットに高級そうなソファや自動販売機が置かれてある。中心街にあるし何千万とするんだろうな。

「それでは戸塚さん。私はここで」

「ああ、また月野都の事で何かあれば連絡するよ」

「はい、よろしくお願いしますね!」

そう言うと夢美ちゃんは一礼し、エントランスへ入っていくのであった。


「さて、そろそろ出てきたらどうだ。悪趣味な魔女さんよ」

俺は振り向き、道の端に建っている電柱に向かって話しかける。

「あらら、やっぱりばれてた?」

すると、電柱の裏から一人の少女が姿を現した。

栗色のセミロングに袖なしのセーラー服姿。本来なら逮捕されているはずの少女、月野都がそこに立っていた。

「一つ教えといてやる。超能力者同士の距離が近づけば近づくほど、嫌でもその気配を感じ取る事が出来るんだ」

俺みたいに長年人間止めてきた者限定だがな、と俺は言葉を足し魔女に近づく。

「へー、超能力者って本当に興味深いわね」

魔女も小悪魔のような笑みで俺に近づく。

「それよりもなぜお前がここにいるんだ?」

「仕返しに来たからに決まってるでしょうが!」

突如、魔女が叫び俺を睨む。

「仕返し?」

「そうよ。昨日は不意打ちに脚を撃ち抜かれて、すごく痛い思いしたんだからね!」

そう言うと魔女はスカートの中に手を入れ、銀色に鈍く光る何かを取り出した。

「この距離からだと外さないわよね」

「おいおい、何でお前がそんな物持ってるんだよ!」

俺は魔女が構えるニューナンブを見て焦る。

「ちょっと借りたのよ!返すつもり!」

魔女は銃口を少し下げる。

「大丈夫、殺しはしないわ。ただしすごーく痛い思いをするだけだから。昨日私が撃たれた場所と同じ場所、撃ってあげる」

「まて、止めろ!」

「何?撃たれたくないの?それって不公平じゃない?」

「言ってることが無茶苦茶だぞお前。いいか、いくら人通りの少ない場所とはいえ発砲してみろ。マンションの住人が通報し、警官がすぐにここに駆けつけてくるぞ」

その言葉に魔女はにっこりと笑う。

「大丈夫。撃った後すぐに飛んで逃げるから」

「これ以上罪を重ねるな!人を撃ったとなるとただでは済まんぞ!」

「うるさいわね。いいから撃たれなさいよ!」

いくら言っても無駄って事か。仕方がない、やるか。

俺は全身に力をこめる。

「な、なによ!やる気?本気よ!本気で撃つのよ!」

「撃ってみろよ。本当は戦いたくないが仕方がない」

「馬鹿にして!」

鈍い発射音と共に撃ちだされる弾丸が俺を襲う。たとえ超能力者であっても近距離で弾丸を撃ち込まれればダメージを受ける。致命傷にはならないがしばらくは動けなくなり、一方的に追撃を受けることとなる。しかし俺は全く動じない。なぜなら――

「え……嘘でしょ?」

金属が弾かれる音が響く。俺の身体には傷一つない。血もでていなければ痛みさえも感じない。

俺は呆然と突っ立ってる魔女に接近し、思いっきり腹部に拳をめり込ませた。

「がっ!」

魔女の身体がくの字に折れ、目が大きく見開かれる。

「相手の能力も知らずに戦いを挑むなんて愚かだな」

「な、なんで……」

拳を下げると魔女が地面に倒れ、拳銃が魔女の手から離れ音を立てて落ちる。

「俺の能力はどのような攻撃も防ぐ鋼鉄の身体を持つ能力者だ」

「ず、ずるい……」

そう言い、魔女は苦しそうな顔で俺を睨むと気を失ったのであった。

「さてと……どうするかな」

正当防衛とはいえこの状況を他人に見られれば間違いなく通報される。俺は手早く拳銃を拾い、ショルダーバッグに入れ辺りを見回す。

と、その時、俺の目に一台の軽自動車が目に入った。かなりのスピードでこちらに向かってきた。

「あの車は―――」

太陽光を反射させながら、真紅のMOCOは俺と魔女を避け、停まる。

「乗れ!」

助手席のウインドウが下がり、トモミさんが鋭い声を出す。

「了解!」

俺は後部座席のドアを空け、気絶している魔女を抱きかかえ乗り込みドアを閉める。それと同時に車が動き出した。

「まったく、人騒がせな魔女さんだ」

「ええ、それにしても助かりましたよトモミさん。よく俺がここにいるのが分かりましたね」

「――電話があったんだよ」

「電話?」

「ああ、非通知でな。男の声で涼介が八番地で魔女と戦ってると聞いて急いで駆けつけたんだよ」

目撃者がいたのか。しかしなぜ通報せずにしかもトモミさんの携帯に連絡をしたんだ。

「とりあえず事務所に戻るぞ。こいつには聞きたいことが山ほどあるからな」

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