―現状―
〈神護の園〉に続く大街道を、甲冑に身を包み馬に跨った一団が進行していた。
〈聖輝統団〉第六師団。
各師団の補佐と同時に自由領土を巡回する、拠点を持たない遊撃隊。
精鋭の集まりであるこの第六師団の長を務めるのは、〈聖輝統団〉全団長の紅一点であるザグリブ。
そのザグリブは一部の部下にフーシーでの後処理と駐留警戒を命じ、残りを率いて〈神護の園〉へと帰還する所だった。
そして、そのザグリブの隣で馬を繰る黒いマントと黒い鎧を纏った男。
男の名はラスト。
〈漆黒の風〉と呼ばれる男――。
「――コラムス?」
「ああ、そうだ。西に存在する殆どの街や村を治めている領主。コラムス卿だ」
ラストの言葉にザグリブはそう答えると、溜息を吐いて、空を見上げた。
「あの街。フーシーと言ったか? そこで騒いでいたのは、そいつの軍隊だったのか?」
「いや、コラムス卿の私兵ではなかった。北の大陸国ノーキスの軍隊だったみたいだな」
ザグリブは推し量っていた。
隣にいる漆黒に身を包む男の素性、そして、思惑を……。
傭兵であるのなら、キュースの今の情勢には興味を示すはずであり、案の定というべきか、言葉数は少ないが、今の所こちらの話には関心があるようだ。
そして、カリスマ性というべきなのか、近寄り難くも惹き付けられる、異様な雰囲気をこの男に感じる。
ノーキスの部隊を一人で葬ったという事実があるからだろうか。
侵略者たちが相手だったとしても、とてもじゃないが一般人には目を背けたくなるようなあの広場の惨状。それを演出した張本人に、フーシーの住民たちは畏怖ではなく、称賛の目を向けていた。
それに、あの少女に……あの時に、一瞬だけ見せた微笑み……。
この男は悪人ではなさそうではある。
しかし、得体が知れないことに変わりはない。
だからこそ、〈神護の園〉に連れて行く――。
「ほう。そうか」
「現在、各地で起こっている戦……それらは、コラムス卿が裏で手を引き、焚き付けられたノーキスが起こしているそうなんだが……」
「ちっ。ならば、反撃すればいいだろ?」
言い淀むザグリブを横目に、ラストは面倒そうな口調でそう言った。
「……いや。我らは、あくまで〈神護の園〉の使兵。戦争をするための集団ではない。害悪から人々や土地を護る事が使命だ。況してや、こちらから害するような事を、〈聖輝統団〉はしない」
「ふん。なるほど、な」
真摯な眼差しを〈神護の園〉があるであろう前方に向け、ザグリブは凛とした口調で言い切った。
「まぁ。だからといって、悪を放っておく様なことは、しないがな」
「……悪、か……」
ザグリブの言葉に、ラストは宙を見つめ、噛み締めるようにそう呟いた。
「さぁ、見えてきたぞ! 漆黒の風よ。あの山脈の麓にある……あれが、我らの帰還る地。〈神護の園〉だ」
ザグリブは意気揚々とした表情で、道の先に姿を現し始めた白い建物の群れを指差した。
「〈神護の園〉、か……デカイな」
ラストはザグリブの指差す先、連なる山々の麓に所狭しと林立する建物群を眺め、唸るようにそう呟いた。
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