―思索―
不安と恐怖の感情が張り詰めた一室。
息を潜めた人で溢れる大して広くもない部屋の中、フーシーの領主であるゾイルは考えていた。
窓から覗ける広場で繰り広げられている戦闘。
〈聖輝統団〉の警戒網を潜り抜けて攻め込んできた部隊。
そして、黒ずくめの男。
「ゾ、ゾイル町長。あ、あの人は何者なんでしょうか?」
隣で窓を覗き込んでいた青年がそう尋ねてくるのも無理はない。
彼だけではないだろう。
広場に隣接したこの石造りの町内会館に逃げ込んできた数十人の住民たち、そして、この状況を目の当たりにしている全ての者がその答えを知りたいであろう。
「〈神護の園〉からの救援とは思えないのだが……」
青年を一瞥して言い淀むと、ゾイルは窓の外に視線を移し、蓄えた顎鬚を撫でる。
ゾイルは考えていた。
武装した部隊がこのフーシーに迫っていることが分かったのが、今から1時間程前。すぐに警鐘を鳴らし、遠隔通信で〈神護の園〉に救援要請を出したのがそれから数分後。
〈神護の園〉からの返答は、隣の領地に巡回で来ていた遊撃隊をすぐに向かわせる、とのこと。
しかし、隣の領地からは、どれだけ速い馬を走らせたとしても1時間以上は確実にかかる。
救援要請からまだ1時間は経っていないはず……。
それに、あの黒ずくめの男は恰好から判断するに〈聖輝統団〉ではない事は明らかだ。
いや、何者だとしても、自警団が全滅してしまった窮地に現れ、侵略者たちと戦っている。
十数人の軍人をあっという間に蹴散らしたかと思うと、突如として現れたおぞましい怪物を瞬く間に葬り去り、今は空から雷を落としている。
圧倒的な力を屠る存在だ。
いや、そもそも……。
「あの人は……味方でしょうか?」
青年が続けて尋ねてきた。
ゾイルが先程から考えていたことだ。
自身がその答えを聞きたいのだと。
「そ――」
青年に考えていたことを伝えようとゾイルが口を開くと、同時に裏手の方から爆発音が轟いた。
「ま、まさか……」
悲鳴と共にどよめきが起こるが、すぐに静かになった。
轟音に続いて、廊下をドカドカと走る音に気付いたからだ。
状況を察した住民たちは身を寄せ合い、近づいてくる慌ただしい足音に体を強張らせて息を飲む。
そして、この部屋にあるただ一つの扉に全員の視線が注がれた。
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