―異形―
黒ずくめの男が見上げていた空の一部が渦を巻くように歪んだかと思うと――。
『ぶぐしゅるるるるるろろろぉぉぉっぉ!』
その歪みから、複数の触手と複数の口を持った真っ赤な球体状の異形の生物が飛び出し現れた。
咄嗟に黒ずくめの男は後方へ大きく飛び退き、その異形と間合いを取る。
「なるほど。
不快感を顕わに異形を凝視し、黒ずくめの男は地に突き立てた剣の柄を握り締めた。
「ふん……どこの世界のモノか知らんが――」
黒ずくめの男は剣を引き抜くと。
『ぶしゅるろろるるるろろっるるぅぅ!』
気味の悪い液体をまき散らしながら唸る異形と対峙する。
「醜いっ! 滅べっ!」
一瞬だけ顔を顰め、黒ずくめの男はそう発して地を蹴った。
『ぶしゅるるるっ !』
異形は黒ずくめの男の殺意を感じたのか、触手を巧みに動かし、異様な速さで間合いをとった。
「ちっ。迅いな……それにしても、気味の悪い動きだ」
足を止め、異形の動きを観察しながら黒ずくめの男は剣を水平に構える。
『ぶしゅろっ! ぶしゅぶぅっ! ぐしゅぅっ!』
異形の複数ある口から、いくつもの炎の塊が、黒ずくめの男に向けて吐き出された。
「ふん。牽制か。お決まりだな」
黒ずくめの男は剣を水平に構えたままサイドステップで炎弾を回避すると、複数の炸裂音を後ろに、そのまま異形に向かって突進した。
『ぶしゅろろっ!』
「なにっ?!」
異形が高速の動きで一気に間合いを詰めてすぐさま打ちつけてきた触手を、黒ずくめの男は身体を反転させて躱し――。
「ちぃっ!」
その勢いで触手を斬りつけたのだが――。
「くっ……なんて硬さだ」
斬撃を弾かれ剣を素早く戻すと、大きく跳び退り間合いをとった。
『ぶしゅるるるっ!』
間髪容れずに、異形は異様な動きと速さで間合いを詰め、再び触手を打ちつけてきた。
「ふん。甘いっ!」
黒ずくめの男はバックステップでそれを回避すると、異形よりも速い動きで更に間合いをとった。
「大した生きモノだな……だが、面倒だ」
黒ずくめの男は剣を地に突き刺し、両掌を異形に向けた。
「汝、助けよ」
『ぶしゅるっ! しゅるるっ! ぶぶるぅっ!』
「
『ぶしゅぶしゅるぶしゅるうぅっ! ぶしゅるるっぶしゅるうぅっ!』
異形から複数の炎弾が連続で放たれ続けるが、黒ずくめの男はその全てを紙一重で躱し、その場から然程離れることも無く詠唱を続けた。
「我、授かん。全知、汝、服せよ!」
『ぶしゅうるるるぅっ!』
炎弾を全て回避された異形は触手を振り回しながら、黒ずくめの男に向かって突進する。
「
黒ずくめの男はそう発しながら、目前にまで迫った異形に両掌を翳した。
『ぶしゅぶしゅぶしゅしゅしゅるるるるうぅぅぅぅぅっ!』
異形は一瞬動きを止めたかと思うと、高周波音と共にのた打ち回り始め、その体躯を塵散りに崩れさせていった。
「ふん……自らの世界で、生まれ変わる事だ……」
塵となって舞い散って行く異形にしみじみと語り掛けると、黒ずくめの男は徐に剣を引き抜いた。
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