入浴
水着着用だと思っていた。
腐っても僕は元男だ。
雪乃様も恥ずかしがると思っていた。
恥ずかしがるのは僕だった。
よく混浴の風呂で恥ずかしがるのは男で女は堂々としているなどというが・・・
それとも女の子になった僕に見られても恥ずかしくないのだろうか?
まあ、本当は恥ずかしいけど恥ずかしがっている僕の気持ちが伝わってるから、何ともないフリしてるんだろうな。
「今の晶さんはメイドであり、奴隷なんですからご主人様の服を脱がせて下さい」
・・・ここには僕と雪乃様とスレイプニールしかいない。
他の人にはスレイプニールは見えていない。
スレイプニールに話しかけるというのは、端から見ると何にもない虚空に向かって話しかけている危ない人だ。
だが、ここには僕達三人しかいない。
誰憚る事なく頭の中だけでなく、実際に話しかけれる。
「スレイプニールって、六本足の雄の馬でしょ?
どう見ても女の子にしか見えないんだけど・・・」
「私の母親ロキは老若男女何にでも変化できました。
母親はよく老婆に変化していましたが、私には訳がわかりません。
何より美しくないじゃないですか。
私も母親ほどではありませんが変化の術を使えます。
ですが私は老婆には変化しません。
若い女性に変化いたします。
理由は私の美的感覚がババアへの変化を拒否しているからです。
男の姿とか馬の姿とかも冗談じゃありません!
美しくないじゃないですか!」
・・・そうですか。
つまり、僕達と一緒に風呂に入るつもり、と。
「いや、ここ最近雪乃様と私は一緒に風呂に入ってましたよ?
そんな事はどうでも良いですから、早く雪乃様の服を脱がしちゃって下さいよ」
「・・・うぅ、話をそらしたつもりだったのに。
やっぱり一緒に風呂に入るし、僕が服を脱がすのか・・・」
「イヤなんですか?」スレイプニールが言う。
「雪乃様の服を脱がせて、一緒に風呂に入ってイヤな訳ないだろ?
恥ずかしいだけだよ。
何回妄想したと思ってるんだよ?
ちょっと望んだ形と違うけど。
僕は雪乃様が元男と一緒に入浴するのに抵抗感があるんじゃないのか、と思っただけだよ」
「随分素直なんですね」とスレイプニール。
「どうせここで表面だけ取り繕った事を言っても、スレイプニールと雪乃様には心の中までモロバレなんだろ?
だったら開き直って本音言った方がみっともなくないと思っただけだよ。
わかったよ!
雪乃様の服脱がせれば良いんだな!?
イヤじゃないぞ!
恥ずかしいだけだからな!」
「ちょっと待って下さい。
お付のメイド達は雪乃様を脱がす前に、自分が素早く先に一糸纏わぬ姿になっていました。
後から自分が脱ぐと主人を裸で待たせるからでしょう。
さあ、躊躇わずに裸になって下さい!
雪乃様も晶さんの裸に興味があるようですよ」とスレイプニールに言われ、雪乃様の方を見ると激しく頷いていた。
今の僕はメイドだ。
メイドの決りにしたがって行動する事に異論はない。
それが雪乃様のリクエストであるなら尚更だ。
僕は恥ずかしがりながら服を脱ぎ裸になった。
「美少女の恥ずかしがりながらの脱衣・・・
これよ!
これこそ私が求めていたものよ!」雪乃様がよくわからない熱弁を奮っている。
ハンバーガーショップで元着ていた制服はボロボロになり、Tシャツと短パンという恰好だ。
当然ノーブラだし、下は元々履いていたボクサーパンツだ。
ボクサーパンツのCMで、女性モデルがボクサーパンツを履いていた。
実際にボクサーパンツを履いている女性がいるかはともかく、ボクサーパンツは女性が履いても変じゃない、女性でも履ける構造なのだ。
僕はボクサーパンツを履いて過ごそうと思っていた。
ブラは・・・必要ないだろう。
全く揺れないし支える必要がないのだ。
太った男性のほうがまだ揺れるというものだ。
僕が服を脱ぐ様子をまるでショーケースに並ぶトランペットを見る黒人の子供のような純粋な透き通った目で見ていた雪乃様は、僕のノーブラでボクサーパンツを履いている姿を見て「全然ダメ!可愛くない!」と唐突に脱衣場の隅に置いてあるベルをチリンチリンと鳴らした。
どこで控えていたのだろう?
ベルの音を聞いてメイド長がすぐに現れた。
「雪乃様、お呼びでしょうか?」
「大至急、晶のサイズに合って、晶に似合う下着を10セット用意して。
光希は私の好みは理解してるわね?」
「お任せ下さい」
「頼むわよ。
私達が入浴している間にだから・・・あと20分以内に必ず用意してちょうだい。
それとその禍禍しい晶が今履いている下着を焼却処分して塵も残さないようにね!
あと晶の新しいメイド服も用意しておいてね」と雪乃様。
いや、僕の履いていたボクサーパンツはそんなにばっちいだろうか?
少なくとも禍禍しくはないと思う。
人のパンツをまるで呪いの装備のように扱うのはやめて欲しい。
しかも、処分方法が焼却・・・まるでそれに触ると伝染病に感染するような処分方法だ。
雪乃様は男だった僕を好きだったんではないのか?
僕の勘違いなのか?
僕はメイド長にボクサーパンツを剥ぎ取られ、全裸になった。
僕は恥ずかしさのあまり股間を手で隠した。
「手で股間を隠すな!
晶は何か雪乃様に見られて困る物が股間についているのか!?」
「い、いえ・・・。
ついてなどいません。
どちらかと言えば何もついていません!」
「だったらもっと堂々としなさい!
晶は雪乃様の裸を隅々まで見るのです。
恥ずかしがってどうするのですか!?」
わかってる。
でも裸を見られて恥ずかしがるのは生理的な物だろう。
そして雪乃様の裸を特別な物に感じるのは別に失礼な感情ではないだろう。
モジモジとしながら体を隠さないで真っ赤になりながらまっすぐ立った。
メイド長はガバっと僕を胸に抱き寄せた。
むーむーと窒息しそうになりながらジタバタしていると「ちょっと!光希!何してるのよ!」と雪乃様が僕とメイド長を引き離した。
「しょうがないでしょう!
そりゃ抱きしめますよ!
『抱きしめるな』って言うのは『息をするな』というのより無理ですよ?」メイド長は開き直りながら答えた。
「それはそうだけど・・・」認めるんかい。
「晶は私の物です。晶を抱きしめて良いのは私だけです」僕は雪乃様の持ち物らしい。
メイドというものがよくわからない現状では『違う』とも言い切れない。
そもそも「可愛い」と言われても鏡で自分の姿を見てもいないのだ。
女子は理解出来ないような気持の悪いものを平気で「可愛い」などという。
僕は雪乃様に「可愛い」と言われたからといって額面通りには受け取っていなかった。
僕は自分の姿を鏡ではまだ確認していない。
僕が確認した自分の体は一人称視点のものだった。
服を脱ぐ時自分の裸が「これが自分の裸だ」という実感はまだなかった。
ただひたすらに変な感覚だった。
何が変ってこの角度で女の裸を見た事はなかったのだ。
別に裸の女の子を見慣れている訳ではない。
僕はバリバリの童貞だ・・・童貞だったと言うべきかも知れないが。
ただネットで見る女性の裸と上から見おろす自分の裸では訳が違う。
この視点だから興奮しないのか、自分の体だから興奮しないのか、自分の体が幼児体形だから興奮しないのか・・・。
確かに雪乃様と比べて僕は興奮するような体形ではない。
背の低さもあって、大人の男同伴だったら男湯に入れるかも知れない。
この裸を見て興奮するのはちょっとマニアックなのかもしれない。
結局は雪乃様の裸を見て「女性の裸を見て興奮しないようになったのか」を判断しなくてはならない。
興奮しても身体的には変化のない体になったが、考えている事は雪乃様に筒抜けだ。
スレイプニールが頭の中に語りかけて来る。
メイド長がいなければ、直接語りかけてきて会話するんだろうが、ここにはスレイプニールの存在を知らない第三者がいる。
「心配要りません。
男性のご主人様に女性のメイドというパターンも珍しくありません。
女性のメイドが男性の裸に恥じらいを感じないと考える方がどうかしているのです。
晶さんも最初は雪乃様の裸に恥じらいを感じるでしょう。
でもそれは慣れてくるものですし、慣れなければいけない事です。
女性のメイドも次第に男性のご主人様の裸に慣れ、隅々まで観察しながら綿密な奉仕をするようになります。
恥ずかしいのは最初だけです。
さあ、雪乃様を裸にして下さい。
いつまで脱衣場でご主人様を立たせておくつもりですか?」
僕は雪乃様と向き合い「失礼します」と上着に手をかけた。
何度も夢見たシチュエーションだ。
一つ妄想とは違うのは165センチと女性としては背が高めの雪乃様に約30センチ背の低い僕が見下されている、という事だ。
懸命に背伸びして、雪乃様の胸元のボタンを外す僕を微笑ましい物を見るように、中腰になりながら雪乃様は見つめている。
ほどなく雪乃様は下着姿になったが、恥じらう様子は全くない。
僕が既にスッポンポンの裸だから恥じらうのは失礼だと思っているのだろうか?
それとも本当に僕に裸を見られても何とも思っていないのだろうか?
「じゃあ早く下着も脱がせちゃってください!」スレイプニールが頭の中に語りかける。
我ながら卑怯だと思う。
スレイプニールに指示させる事で「指示に従っただけで、自分の意思ではない」という逃げ道を作っている。
今もやる事は「雪乃様を裸にする」と決まっているのに、スレイプニールが言うまで下着に手をかけなかった。
「最初はしょうがないと思いますよ。
むしろその恥じらいだけで雪乃様は丼めし五杯はご飯食べれると思いますからね。
徐々に慣れていけば良いんです。
でもいつまでもウブじゃダメですよ!」とスレイプニール。
そうだった。
考えている事は二人に筒抜けだったんだ。
サトラレみたいだ。
あんな風に僕は天才じゃないけど。
僕は雪乃様の下着を脱がす事にした。
ブラを外す。
重力に従い、垂れ下がると思っていた胸がそのまま上を向いている。
「本当に女性にとっては嫌味な胸ですね。
世の女性が背中の肉を持ってきたり、パットを入れて何とか偽乳を作りあげてるのに天然物の乳でこれだけの大きさなんですから。
街ですれ違う人が『垂れろ』って呪いをかけてるのにこの大きさで上を向いてるんですからね、坂本九もあの世で驚いてますよ。
ここまでは無理でも晶さんももう少し成長しますよ!
気を落とさないで下さい!」
壮観だなーとは思ったけど、 別に羨ましくねーし!
(男の人はこれだけの巨乳を見たら興奮するものなんですよ、客観的に『壮観だなー』なんて見れるって事が『もう男性じゃない』って事なんです)
スレイプニールはこの時、思った事を僕に指摘しなかったという。
次に下を脱がす。
年齢は僕の下のはずだ。
だが体つきは遥かに僕より大人だ。
何より僕のような無毛ではない。
薄く茂みが出来ている。
「大丈夫です。
そのうち生えてきます」とスレイプニール。
だから羨ましくないって言ってるじゃん!
つーか、僕の心の声にいちいち返事するのやめて欲しい。
僕とスレイプニールと雪乃様が入浴する事となり、メイド長は出ていった。
「晶、じゃあ背中を流してもらおうかしら?
背中を流す時、布を使ってはダメよ!
晶の体を使って・・・」
「雪乃様、気持ちは解りますがステイです。
晶にあまり難易度の高い性癖全開の指示を最初からしないで下さい。
晶さん、雪乃様の背中を普通に流して下さい。
良いですか?
あくまで普通にです。
雪乃様の言葉に耳を貸してはいけません」とスレイプニール。
残念そうに項垂れる雪乃様の全身をせっせと泡立てた布でこする。
前を洗おうと雪乃様と向き合った時、僕は雪乃様に抱き付かれた。
「ゆ、雪乃様!?一体何ですか!?」
「別に何もしてないわ。
晶を体で洗っているだけよ」
「雪乃様、ステイです」スレイプニールが雪乃様に言う。
「はっ!私ったら思わず何をしていたのかしら?」雪乃様が我に返り言った。
(でも前から裸の雪乃様を覗き込んで何とも思わないなんて・・・
女性でも溜息が出るほど、雪乃様は美しいのに。
急速に晶さんは女性としての体に慣れはじめている。
もしかしたら晶さんは『美少女戦士』として適正が高いのかも知れない)
スレイプニールがそう思っていた事を、その時の僕は知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます