聖都崩壊


 教会の聖都。


 その権威の象徴である聖者の塔の一室。


 ギルメア王国国王、ハルゼー

 

 教皇、アレクセイ


 他にも世界各国のトップが参加しているが大学の講堂を連想させる構造を思わせる議事堂で待機させている。

 二人がいるのは応接室。

 煌びやかな家具や絵画が並び、カーテンも絨毯も高級な素材だ。

 質素とは程遠い。


 ハルゼーもヒゲを蓄えた悪人面だがアレクセイは太り気味の超えた小悪党が漂う人相の教皇だ。

 

「魔王軍の残党狩りも進んでおります。勇者も死に、魔王も死んだ今、奴達は烏合の衆でしょう」


 ハルゼーの言う通り、ランドキャリバーと近代兵器の力で次々と魔王軍の残党は駆逐されている。


「これで我が教会も盤石な物となり、そして亜人どもの奴隷化政策も進むと言う物だ」


 アレクセイは「グフフフ」と下卑た笑みを漏らしながらそう言った。

 邪魔者は消えた。

 勇者の暴走と最終決戦の損害は少々予定外だったが、それでも勇者の遺産であるランドキャリバーの力を使えば自分の野望を達成するのは容易いと考えた。


 彼の次なる野望、それは――


「エルフやダークエルフ、翼人や獣人、ドワーフ、マーメイド・・・・・・全ての亜人どもが私にひれ伏す時が来るのだ」


「そして次は勇者のいた世界への進行準備も整えております。その時は是非我が国も一枚噛ませて頂きたい物ですな」


 異世界アストラスの異種族の奴隷化。


 そして勇者――キリヤがいた地球への進行。

 その二つが彼達の目的だった。


 その為に異教徒討伐軍を結成し、果ての無い野心を満たすためにこの二つの野望を画策したのである。


 それの発表を行うために、そして自分達の手持ちの軍事力を知らしめるために世界各国の王族達を集めたのだ。


「勇者も馬鹿な奴よ。最後の最後まで裏切りに気付かずに手駒として働いて死におった!」


 ハハハハとアレクセイは笑う。


「我が国の勇者ながら、見事な道化でしたな! 置き土産も残して置いてくれた!」 

  

 ハルゼーもガハハハと笑う。


「さて、そろそろ発表の時間ですな。新たな時代のために」


「そうですな教皇――」


 その時だった。

 銃撃音と爆発音が鳴り響き始めた。


「な、何事だ!?」


 そして「失礼します」と伝令の兵が駆け付けて来た。 


「報告です! 何物かがランドキャリバー一機でこの聖都に襲撃を仕掛けた模様! 防衛線も次々と突破されています!」


 その報告に二人はギョッとした。


「何だと!? 我が聖徒に賊が!? それも単騎でだと!?」


「馬鹿な!? 何かの間違いではないのか!?」  


 アレクセイもハルゼーも思わぬ事態に狼狽した。

 まさか単騎でここに突撃する馬鹿がいるとは。

 

「間違いありません! 聖徒や各国の部隊が防衛線を張っていますが――」


 そして再び大爆発の音が聞こえた。

 更に伝令の兵がやってくる。


「報告! 被害甚大! 此方の攻撃で聖都や民だけでなく、他国の兵士にも被害が出ており! 同士討ちが発生しております!」


 何という体たらくだとアレクセイは怒りで頭がどうにかなりそうだった。

 その怒りを諫めるかのようにまたしても爆発音が聞こえた。 


「虎の子のランドキャリバー隊はどうしている!?」

  

「そのランドキャリバーで此方にも被害が拡大しているのです! 既に戦闘に巻き込まれて王族にも被害が――」


「何と言う事だ――いや、まさか――」


 ハルゼーはある予測を立てた。


「どうした? 何か心辺りが?」


「まさかあの勇者が・・・・・・生きていたのでは? 復讐の為にここへ突撃して来たのでは!?」


 恐ろしい予測だった。

 敵がランドキャリバーで単騎によるここまでの被害。

 それがあの勇者の手による物であればある程度は想像が付くと言う物だ。


「何を馬鹿な!? こんな状況で仕掛けてみろ! 世界を敵に回す事になるぞ!!」


 今この聖都には世界各国の王族貴族や彼達の軍がいる。

 その状況で攻撃を仕掛けるなど正気の沙汰ではない。

 世界を敵に回すのと同義だ。


 だが確かにいるのだ。

 それを行った馬鹿がこの聖都に。



 聖都と言うだけあって煌びやかな町並みだ。

 復讐だと言うのに怒りの炎と言う奴が今一燃え上がらなかった。 

 その気持ちを代弁する変わりに聖都が地獄絵図へと変わっていく。

 大半は敵の流れ弾のせいだ。


 最初は聖都の防衛隊であるランドキャリバーも他国の通常部隊などと共同戦線を張っていたが、練度はそこまで高くなかったらしく同士討ちを引き起こし、仲間割れを起こしている有様だった。


 練度の高い部隊は残党狩りに狩り出されてるか、もしくは魔王軍との最終決戦で死んだのだろう。


 飛行船が爆沈。

 竜騎士が血飛沫に変わり、銃を狂ったように乱射していたランドキャリバーが魔法攻撃で爆発炎上する。

 

 俺が乗ってるランドキャリバー「ゴースト」・・・・・・様々なランドキャリバーのパーツを継ぎ接ぎにして作り上げたマシンだ。

 武装も持てる限りの重武装で使い終えた武器は放り捨てていっている。


(正直この世界がどうなろうがしったこっちゃない――後はやり残した事を遂行するだけだ)


 復讐。

 対象の皆殺し。

 それが今の自分を突き動かす目的だ。

 

『貴様は、貴様はあの勇者なのか!?』


『誰だ?』


 男の名前。

 金色のランドキャリバー。

 大剣に盾を持っている。

 装飾が多くて正直趣味が悪い。

 

『俺が、俺がギルメス王国の新しい勇者――』 


 俺は持てる火力で蜂の巣にした。

 大方自分の後釜を此奴にするつもりだったのだろう。

 新しい勇者の従者らしい特別製のランドキャリバーも重火力で瞬殺してその場を去る。

 話にならない。

 

 これが勇者だとはな・・・・・・


 ともかく馬鹿でかい塔。

 教会のシンボル。

 ランドマーク。

 聖者の塔内部に侵入する。



『魔導動力炉がやられました!』


『爆薬庫が爆発! 被害甚大!』


『格納庫のランドキャリバーが次々と破壊されています! 魔導路の爆発で聖者の塔が崩れる恐れが――』


『飛行船の動力が!! 誘爆が止まりま――』


 アレクセイとハルゼーは状況を把握するために聖者の塔の防衛隊司令室にまで来ていた。

 そこでは耳を覆いたくなるような凶報が舞い込んでくる。

 二人トモゾッと恐怖と顔が青ざめていた。


「お二方、お逃げ下さい! このままでは聖者の塔が崩壊する恐れが・・・・・・」


「馬鹿な。この塔が崩れるだと!? ありえん・・・・・・あってたまるか・・・・・・」


「ワシは逃げる!」


「ま、またんかハルゼー!!」


 ハルゼーはアレクセイを置いて逃げようとした。

 その時、塔の崩壊が始まった。

 悲鳴を上げる間もなく天井に押し潰される。

 

 死に行く人間に善悪の条件など存在しない。

 周辺を巻き込んで倒壊していく。

 その光景は戦闘を中断させるのに十分過ぎる光景だった。

 この世界の、アストラスの人間の歴史の中枢を担ってきた教会の終焉。


 自分の信じる神が目の前で死んだような、そんな気分にさせた。


 だがそれも一発の銃声で再びその場は戦場へと変わる。


『まだ戦うつもりか!?』


『待て! 撃つな! 同士討ちになる!』


『しかし――』


『うわぁあああああああああああああ!!』


 銃声。

 爆発。

 悲鳴。

 それが再び聖都を戦場へと叩き込む。

 この狂った、勝者なき泥沼の戦いは戦う者がいなくなるまで続いた。

 

  

 聖都から離れた場所。

 誰もいない静かな森の中。


 鹿島 キリヤはランドキャリバー、ゴーストを乗り捨てる。

 もうこの世界にも未練はない。

 かといって元の世界にも戻る気分にもなれない。

 これからどうすればいいのか分からなかった。

 

 だが自然とキリヤの足は進んでいく。



 世界を滅ぼした勇者の消息はそこから途絶える。


 その消息を気にする程世界には余裕などなかった。


 人と言う種族を纏め上げていた教会の権威の失墜、崩壊。

 

 更には世界各国の王族、貴族の死亡。


 世界中の国々が混乱の渦へと叩き落とされ世界の彼方此方で内紛が勃発、魔王の残党達も勢いづいて反撃に乗り出すが嘗ての最盛期の勢力取り戻すには程遠く、一定のコミュニティを維持する程度に留まった。

 

 支配者達は滅んだ。 


 この後、誰がどうするかは誰にも分からない。

 

 END

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異世界騎兵ランドキャリバー MrR @mrr

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