帰宅後

第0.5話 過去現在未来についての説明会

「COLORの正式名称は知らなくても良い」


 旧時代と現代の違いについて話すと言いながら、


「当たり前だ。このCOLOR首輪は、現代の私達人間を人間たらしめるものだからな」


 首輪。


「そう、首輪だ。わかるだろう? 私達人間は世界政府に、管理され、監理され、飼い慣らされ、飼い殺され、そして使い潰されているのだよ」


 それはまるで、


「否、道具ではない。道具というのは目的のために作られるものではあるが、しかし世界政府の目的は人類種の存続だ。人間はその結果であるのだから、道具と言うべきはCOLORの方だろう。これは人間を保全するための道具なのだよ。電子世界だとか、電脳世界だとか、そういう娯楽は副次的なものだ。個性ある人間達をより監視しやすいように、な。旧時代で流行ったプライバシー保護の思想を鼻で笑うような情報公開ぶりもそのためだ」


 そういうものなのだろうか。


「もっとも、今現在の世界の在り方を決めたのは世界政府の人間ではない。ずっと昔の、まだ人間が地球の地表を歩けていた時代の、そう、COLORを持たない人間だ。まあ、今ほどではないが環境汚染が進んでいたからな、そんなことをするのはよっぽどの阿呆だろうが」


 COLORを持たないと言えば、


「そうだな、ブランクもCOLORを持たない。しかしあれは知っての通り、人間のなりそこないだ。なりそこないだが、言ってしまえば彼等もあるいは人間だ」


 まるでブランクを肯定するような、


「勿論彼等の存在は肯定するさ。いるのだからな。彼等の目的も肯定しよう。私達と同じ種の存続なのだからな。だがしかし、しかしだ。私は、私達人間は、彼等を否定する。彼等の手段を否定する」


 しかしブランクを否定するように、


「彼等がどのようにして生まれたの、それは誰にもわからない。しかし姿形が現代の人間に酷似した彼等は、旧時代の人間に酷似した思想を持っていた。彼等は多種の犠牲を鑑みることなく、自己種の保存のみを考える。それは愚かしく恐ろしいものだが、しかし本当に恐るべきは、時空間跳躍を行えることだろう」


 それは、


「本来世界政府の許可がなければ行えないその行為をブランクが行う意味。それがどういうことか。そう、ブランクは、世界政府と関わりがあるということだ」


 つまり、


「否。それはこの時代よりも未来の世界政府だろう。考えられる可能性は、やはり私達人間もまた滅び行く運命にあった、といったところか。それを変えるために、緩やかに滅亡へと向かう現代の在り方を変えるために、未来の人間は、否、未来の人間ブランクは、過去へ向かうのだろう」


 ……それはただの、


「ああ、これは可能性の話に過ぎない。だが、な、わかるだろう? 現在は過去の積み重ねだが、未来は可能性の積み重ねだ。数多ある可能性から選びとられた選択が、未来ではなく現在へ変わり、やがて過去として積み重なっていく。私の考えなのだがな、過去の人間が間違った未来を選び続けた結果、現在いまがあると思うのだよ」


 もしブランクが本当に未来の人間だったとして、


「そうだ。放っておけば、もしかしたら世界政府の目的である人類の存続が達成されるかもしれない。そのことは現在の世界政府の人間も考えた。だがな、それはあり得ないと断定されたよ」


 何故?


「ブランクはな、故障しバグったのだ」


 人間が故障?


「時空間跳躍装置は不完全だ。変に時間がかかるし、動くものは時空間跳躍させても滅茶苦茶な状態になるし、私なんてあれすると吐くかと思うくらい酔うし、使い勝手が悪過ぎる。だが使えないわけではないから、否、急造当時か、改良する暇もないまま、改良されずに使い続けられている。それほどまでに、ブランクはひっきりなしに過去へ時空間跳躍している。しかし、しかしだよ。過去へ向かうのは現在にいるブランクだ。既に故障した未来の人間ブランクだ」


 では、


故障すバグる前の人間は、ずっとずっと、想像が及ばないほど果てしなく遠い未来から来たのだろう。その頃には時空間跳躍装置など改善されていると思うが、しかし、それほどの未来からやってくるには、いくら改善されていたとしても、所要時間は秒や分では表せないだろうな。それほど長い時間、跳躍しつづけて、宇宙の法則に逆らい続けて、果たして人体になんの影響も思うか?」


 それは、


「わからない。なにせ、私達は長くて一分で時空間跳躍を終えるからな。なにかを影響があっても修復される。そもそも時空間跳躍前後で変わりがないのだよ。異常があると考えつく方が珍しい」


 だが未来の人間は、


「COLORを持たない彼等は修復機能を有していない。だからだろうな、彼等は私達の知らない時空間跳躍の副作用を受けて、狂ったのだろう。現在の世界政府に事情を話せば済むにも関わらず、過去改変を手段としてしまったのだ」


 しかし今からでも、


「ブランクには、過去を変えるという手段をとっていると言ったが、あれは仮説の話だ。彼等の元々の目的は人類の存続で間違いないのだろうが、しかし今では過去改変が目的となってしまっているだろうな。何故過去を変えなければならないのかわからぬまま、彼等は過去へ向かっている。それは大変危険な行為だ」


 何故、とは問わない。


「前にも見たと思うが、過去へ向かったブランクは皆、記録メモリを持ち歩いている。先程の言葉を使えば、世界政府が選んだ選択を記録し続けためもりだな。悪用すれば、人類そのものを滅ぼす代物だ。これを世界政府は集めている。何故かわかるか?」


 …………、


「未来を変えるために」


 そう、


「誤った未来を選びとらないために」


 それは、


「人類を存続させるために」


 ブランクと同じ手段。


「彼等の失敗は、現在で繁殖してしまったことだ。ブランクは過去から繁殖能力のある人間、つまり雄を連れ去り、時には過去で捕まえ、繁殖した。繁殖出来てしまった。それ故に生存本能が強くなり、彼等は目的を見失ってしまったのだろう。間違った選択をしたということだ。いや、仕方のないことだろうがな」


 人類存続を目的にしていたため、か。


「……さて、ここで先の質問を思い出してみよう。過去と現代の違いだったか」


 唐突だな。


「私からすれば、大した違いなどないよ。未来があるかないか、つまり、不変か不安定か、それだけだ。本当に、それだけだ。これより先の未来は決まっていない。それ故に、ブランクが持つ記録メモリにはの世界政府の選択しか記録されていないのだよ」

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