過去より

第9話 やっぱりこの人は苦手だ

 狭い部屋から漏れ出す鉄の臭い。鼻孔をくすぐるソレに不快感を覚えるほど不慣れではない。


 しかし、今この状況はあまりにも現実味がなく思えてしまうほど突飛なもので、

 この人間の登場は前例がないほどあり得ないもので、

 まあつまり、なにが言いたいかと言うと、


「あなたなにしにここに来たんですか?」

「なに、私は君達の手助けをしに駆け付けたのだ」


 呼んでねえ……。

 いやでも、思ってもみなかった助っ人であることには違いない。頼りないとはいえ、J三八番は何度も時空間跳躍を経験している、いわば先輩だ。そのどれもが大事件一歩手前ということには目を瞑れば、頼れる御仁だ。


 ……頼れねえ!

 なんだよ大事件一歩手前って! ぎりぎり大事件には至ってないみたいな意図が読み取れなくもないけど、大失敗と大失態を阿呆ほど繰り返さないとそんなことにはならなかったと私思うんだけどな!


 えーい、この、

 文句しか頭の中に浮かばない……。J三八番は、プライベートでたまに話す分には面白い人間なのだけれど、仕事上で関わるとなるとどうにも彼からは不安しか感じられない。うーん、頼って良いのかなー?

 ……なんて、迷ってはいられないか。


「J三八番様、そこのブランクを時空間跳躍させたいのですが、なにか確認しておきたいことはありますか?」

「無論、ない」


 ないのか。問題だらけの人間だが、流石に私達との経験の差があるだけはあって、一瞬で死体の様子などをみきわめたのだろうか。そんなことなさそうだけど。


「何故ならば、私はお前達の手伝いをしに来たのではないからな」

「…………………………………………はい?」

「私はお前達を守りに来たのだ」


 …………、


「あの、えと、……なにからですか?」


 後、お前達って言われたんだから、ご主人様はそろそろその眠そうな顔やめても良いんですからね?


「それはもちろん、阿仙という男からだ」

「誰だよ」


 頭が痛くなってきた。思考回路が焼けているのだろうか。そんな馬鹿な、焼けるならせめて理性回路にしてくれ。なんだその回路?

 なんて現実逃避をしだしてみたが、しかしそれで時間が停止したりましてや逆行し始めたりすることもなく、

 ふたつの死体がパズルのように崩れ始めるのと同時に、J三八番は口を開いた。


「私が初めて時空間跳躍した時に協力してくれた男だ」

「あー、えー、……質問良いですか?」

「構わん。どんとこい」


 なんだこの自信は。理解を拒むあまり、一瞬意識が飛んだぞ。


「……どうして私達は阿仙という方から守られなければならないのですか?」 

「良い質問だ」

「ですか」

「うむ。何故ならば、彼はお前達と深く関わりを持つ人間だからな」


 ……爆弾発言ってこういうのを指して言うんだろうなあ、とまるで他人事のように私は思いました。

 おいこらこの野郎。

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