第8話 休む暇がないよお
ところで、
「ご主人様、あれ見てください、あれ。ブランクが吊られてますよ」
「なに言って……うおっ」
過去の積み重ねによって、
「死んでる……のか?」
「そうでしょうね。見た感じ、右のブランクは手足の腱を切られてから吊るされています」
「左は背中を上から下までバッサリだな」
「相当な手練れですね」
あるいは現在の選択によって、
「凶器は刃物だろう。見ればわかる」
「うーん、問題はかなり力持ちな人が一人でやったか、あるいは複数人いたか、ですね」
「わかるか?」
「足跡がないからなんとも……」
未来は形作られていくのだが、
「……どうして一歩も動かないんだ?」
「窓から見て、ここは丁度死体の死角になってるからです」
「窓にはカーテンが引かれてるぞ」
「分厚いですけど、隙間空いてますね」
すでに確定された現在を変えるべく、
「……ご主人様、あなたは結構呑気してますが、この時代には銃というものがあるんですよ?」
「この国は銃を持ってはいけないらしいぞ」
「バレなければ持っていられるんですよ」
「そんな馬鹿な」
すでに不変と化した現在を変えるべく、
「心許ないですが、あれは盾に使えます」
「回ってるけどな」
「この部屋に隠しカメラはありません。カーテンがちょっと開いたりしてますが、周囲五キロ圏内に存在する建造物から考えて、この部屋に入らなければ安全は保証します」
しかしどのような理由で
「……いつになく真剣だな」
「私はいつでも真剣です」
真剣の方向がおかしいだけで。自覚はしてるんですよ? はい言い訳終わり。
左のブランクは殺されてから吊るされた。右のブランクは吊るされて殺された。ご主人様の言う通り、これは見ればわかることだ。
わからないのは、こんなことをした犯人の目的だ。まさか、私とご主人様の手を繋ぐことではないだろうし、
「なにがしたいんでしょうね?」
「……快楽殺人モノの映画を前に観たよな」
「私ああいう系の映画苦手なんですけど、たまに観たくなるんですよね」
「具合が悪くなるのにな」
私はブランクに関わりを持つ第三者の介入を前提に考えているのだが、どうにもご主人様は楽観的だ。ブランクの変死体を見て、まさか快楽殺人モノの映画だなんて……。
うーん、最初はご主人様が人間だから、世界政府に管理されているから、なんて考えたけど、多分これ、ご主人様が能天気過ぎるだけだ。能天気過ぎて、事態を正しく把握できてないに違いない。
多分、これは楽観視。
ご主人様は使い物にならない。
私自身もどこか危うげである。
たまに思い出すJ三八番から得た知識もまるで役に立たない。
……ねえ、なんでチーム組んでブランク捕縛しないの?
「それは、人手が足りないからであるとされている」
最後に話をしたのは時空間跳躍の前だったか。結構最近だ。
しかし既に懐かしさを覚えてきたその声は、
他の誰でもない、
「え、なんで
「なに、野暮用だ。気にする必要はない」
「……おい、野暮用で時空間跳躍の許可が下りるのか?」
下りるわけないだろ、この馬鹿。
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