最終話ー2 ご主人様から目が離せない

 ところで、


「はあはあ……やっぱりご主人様の寝顔はきゃわ――」

「なん……なに!?」

「あ、起きた」


 夢は記憶を整理するための整理現象らしいけど、


「お前、誰だ!?」

「やだなあ、『私』はあなたの召し使い一号ですよ?」

「見た目はそうだが、中身が違う! いや、違わない、が……」

「違わないなら良いじゃないですか。ほら、寝てて良いですよ」


 記憶も知識も全て機械の脳に刻まれる『私』サイボーグは、


「違う、お前はもっと自分の欲望を隠していたはずだ」

「あれ、よく見てますね。相思相愛ですね」

「そうなのか?」

「そうですよ」

「……いや絶対違う」


 果たして夢を見ることはあるのだろうか。


「おい、この車はどうやって止める? 頭の中を診てもらえ」

「自家用車はCOLORで操作出来ますけど、これ公共の自動車ですよ」

「……本当だ、操作出来ないようになってる」

「だから言ったじゃないですか。逃げ場なんてないですよ?」


 『私』は布団に乗し上がり、上半身だけを起こしていたご主人様の肩を抱いて押し倒す。


「うわ馬鹿おいやめろ! 怖いだろ!」

「うふ、ご主人様がどんどん人間らしくなってきて、『私』嬉しいです」


 涙ぺろぺろ。


「やめろ、ぞわぞわする! それに俺は初めから人間だ!」


 そう、そうなのだ。『私』ブランクに産まれたにも関わらず、ご主人様は紛れもない人間なのだ。『私』もこの子を産む時に体力を消耗し過ぎて死んでしまい、〇〇一番の温情によりロボットと言うか、サイボーグになってしまったわけだし。

 なにそれ病みそう。


 でも、


「と言うか、お前意外と軽いな」

「あらやだ嬉しい。でもそれ、他の女性に言っちゃ駄目ですよ」

「そうなのか?」 

「はい。太っているように見えていたって言ってるようなものですから」

「太っていると悪いのか?」

「女性はそういうのを気にする生き物なんですよ」

「そうか。……そうか?」

「はい。それが旧時代の女性だってJ三八番が言ってました」


 『私』は幸せだ。


「あ、ちょっと失礼しまふ」

「んむっ」


 なるほど、ご主人様の唇はカスタードクリームの味か。美味でした。


「おい、何度も言わせるな。口にクリームが付いていたなら言ってくれ。自分で拭える」

「駄目ですよ、そんなことしたらご主人様が『私』に甘えなくなっちゃいます」

「もう充分甘えてるだろ」


 あれ、自覚あったんだ。それも良いね、じゃあもっと甘えてみようか。

 いや、『私』がご主人様に甘えるというのもアリなのでは!? よっしゃ!


「ご主人様、一回寝ましょう」

「お前が静かにしてくれるならな」

「んふふ」

「その笑い方やめろ」

「はあはあ……帰ったらまた一緒にお風呂入りましょうね……じゅるっ」

「やめてくれ!」


 ああん、もう、涙目も怯える表情も全部可愛いなあ。性教育を受けてないみたいだし、この際間違った知識を植え付けてしまうのも良いかもしれない。


 召し使いは主人の玩具なんですよ、なんて。


「でへへ……」

「なに考えてるか知らないけど止めてくれ」

「じゃあ、今日だけで良いですから、ご主人様にいっぱい甘えさせてください」

「……本当に今日だけか?」


 ん?


「じゃあ、毎日甘えます」

「そうじゃない。今日甘えさせてやったらまた元に戻るかってことだ」

「…………………………………………はい」

「なら好きにしろ」

「やったあ!」


 『私』なしじゃ生きられない身体に調教してあげるね!


「……あ、もしかして俺、選択を誤ったか?」

「ええ。でも、もう遅いですよ」






―――ture end.

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