マルチエンディング
最終話ー1 私のご主人様
ところで、
「ご主人様ぁ……」
「どうした」
「メンテナンス代で三年分のお給料ほとんどもってかれちゃいましたぁ……」
「部品の具合見るだけだろ?」
もし私が人間だったら、
「三年近くメンテナンスサボってたから部品の磨耗が激しくなってたらしいです。傷んだ箇所全部取り換えたら貯金が吹き飛びました」
「そうか。……悪い」
「……え? 今ご主人様謝りました?」
「お前がそんなになったのは、俺が酷使したからだろう」
もし私がブランクだったら、
「ちょっと、やめてくださいよ。私は召し使いてすよ? 酷使されて当然です」
「そうなのか?」
「ええ。と言うか、酷使するものです」
「知らなかった……」
ご主人様とこうして他愛のない話をすることはなかったに違いない。
「ええ、だから思う存分、好きなように使ってくださいね。それと、私は雇われてるだけなので今回のことは全部私の責任です」
「……そうだな、まあ、好きにすると良い」
「はいっ!」
でも、なんでも好きにしろは困るけどね。
そんなことよりも、
「それでですね、ご主人様……」
「どうした」
「私、貯金がほぼ尽きてしまったわけでして」
三年働いたら辞任表出して、しばらく甘いものに埋もれて生活しようとしていたのに。
面倒臭いからってこういうの怠ると、後で必ず痛い目見るよね。不思議。
「もう少しだけ、ご主人様の召し使いとして働かせてもらっても良いですかね?」
そう問うと、ご主人様は一瞬不思議そうな顔をした後、鼻で笑った。
鼻で笑われた。
「何度も言わせるな。お前の好きにすると良い」
あ、今の久し振りに聞いた気がする。最近何度も言わせるな部分が省略され気味だったから、なんだろう、頬が緩む。
やっぱり可愛いなあ、ご主人様。
「…………っ」
睨まれた。
「あ、そうだ。さっき身体の調子確かめるのにシュークリーム作ったんですけど、いつ食べます?」
「……いつでも来い」
「なんで覚悟決めてるんですか」
それ食べ物に対してだいぶ失礼だぞ。いや、甘いものが苦手なこの人にシュークリームを食べさせようとしている私も私だけど。
両成敗。
「まあ良いですけど、ご主人様疲れてるまたいですし、早く車に乗って帰りましょうか」
「わかるのか?」
「はい? なにがです?」
「俺が疲れていることが、だ」
「わかりますよ」
だって私はご主人様の召し使いなわけだし。
「ご主人様が世界政府に出されたご飯をあんまり美味しく感じてなかったことも、枕が違うから夜中何度も起きたことも、シュークリーム食べるよりも自分のベッドで眠りたいことも、わかりますよ」
「なら寝かせろ」
「駄目ですー、シュークリーム食べてから寝てくださーい」
「仕方ない……」
なんて言ったけど、ご主人様は自分のベッドにうつ伏せになった瞬間眠ってしまった。
「仕方ない人だなあ……」
ご主人様の靴を脱がし、掛け布団を掛けて……あ、ダメだこれ、この人掛け布団の上に寝転がってる。
このまま寝かせていても良いのだが、それだと多分よくは眠れないと思う。なので、担ぎ上げたりなんなりして無理矢理掛け布団を掛けてあげた。
……沈黙。
思えば、こうしてゆっくり出来たのは初めてかもしれない。いつも家の中を駆け回って、いや、走ってはいないけど、まあ、ずっと忙しさに身を任せていた感じだったし。〇〇一番が私のことを気に掛けてメンテナンスの機会を与えてくれなかったら、修理に出されなければならない事態になっていたのだし。
そう考えると、私はなんて幸せなんだろうか。
私を心配してくれる人がいて、
私を必要としてくれる人がいて、
こんなに愛しいご主人様がいて、
もう、最高の職場だな!
でっへへ……。
「…………っ!?」
「あ、起こしちゃいました?」
「その気味悪いにやけ面はやめてくれ……」
ご主人様の数少ないお願いのひとつがこれとか悲しすぎる。
―――ture end.
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