ご主人様と私とご友人
第5話 おはようございます、ご主人様
滞り、変容を良しとしない静寂を切り裂くような、不快感ばかりを集めて作ったような甲高い目覚ましの音。
それが鳴り始める瞬間、私の手が目覚ましを叩き止め、
「おはようございます、ご主人様」
「おはよう。今日も時間ぴったりだな」
既に目覚めてベッドに腰掛けているご主人様に笑顔を向ける。
これが私の日課となっている。
「なら、今日も言わせてもらいますけど、いい加減目覚まし鳴らすの止めてもらえませんか?」
「何度も言わせるな。それは母親の形見だ」
何度も聞かされているが、何故そこまでこだわるのかがわからない。
いや確かに、私とご主人様はそもそもの起源が異なっているから、私に理解できないことはまず間違いないのだが。
しかし、食わず嫌いとはいえ、誇張でも誇大でもなく、本当に好きなものがなにひとつとしてないご主人様が、唯一こだわるもののひとつがこの目覚まし時計である。
他には、甘いものは絶対に好きにならないという心の誓いや、私の望むことはいくつかの例外を除いて全て叶えようとする鉄の意思があったりする。どっちが召し使いなのやら。
いやそれにしても、だ。
ご主人様自身すら面識のない母親の形見を大事にするなんて、
「…………」
「……どうした?」
「ああ、いえ。なんでもありません」
なかなか、可愛いところがあるじゃないか。
「…………っ」
睨まれた。
さて、私の日課と言えば、当然ながらご主人様にモーニングコールを叩き付けることだけではない。この一年、住み込みの召し使いとして働かせてもらっているのだ、掃除洗濯料理皿洗い風呂の用意に布団の用意、それらに加えてエトセトラエトセトラ……。毎日、たくさんの仕事、もとい日課が山積みだ。
ご主人様が住まうこの家は、他の人間が住まう家と明らかに違う。ご主人様の家以外の家なんて見たことないけれど、多分、絶対、違う。私の知識がそう言っている。
なにせ、家屋だけでこのA区〇番街の半分近くの面積を有しているのだから。ご主人様の自室と、その隣の私の借り部屋以外の部屋には一切の家具の類いはないのだが、仮にも世界政府が定めた〇番街、地域当たり五千人が住まう他の番街と変わらぬ面積を持つのだ。
比べるまでもなく、巨大過ぎる。
と言うか広すぎ。家の掃除なんて一日で終わるわけないし、そもそもご主人様が基本引きこもりなせいで玄関周辺に生活空間が集中してるし。この家のほぼ全てが無駄で出来ている気がする。
そんな無駄の塊を甲斐甲斐しく綺麗に保つのが私のお仕事なんですけどね。
さて、と。寝起きのご主人様のために用意した朝食を持ってきてあげるとしよう。そう意気込んでご主人様の自室の扉を開ける廊下に出ると、
「む? 誰だお前は? ああいや、待て。……そうだ、確かA二〇〇〇一番の召し使い、だな?」
他のなによりも青い色をしたCOLORを首に付けた、
自尊心の塊のような人間が扉の前に立っていた。
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