ご主人様と私
第1話 今日から召し使いですか
注意していなければ気付かないほど小さな駆動音とともに、視界を支配していた闇が白んでいく。
やがて駆動音に慣れる頃には、電子世界が私の目の前に広がっていた。
目の前には、赤いCOLORを首に巻いた白い人間が立っている。
私は知っている。今日から私が仕えるべき、A二〇〇〇一番だ。なるほど、事前情報通り、漂白剤に浸かったかのようなアバターを使用している。
趣味の悪い。
「おはよう」
不機嫌そうな表情をするA二〇〇〇一番から、そんな皮肉めいた挨拶を頂いた。現在時刻は午後の2時19分である。
「おはようございます」
そう返そうとして開いた口は、
「俺はA二〇〇〇一番だ」
その言葉に塞がれた。
あまりのタイミングの良さに、これはもう、私の口が開きかけたのを見てから喋りだしたに違いないと勝手に確信した。
「お前は召し使い一号だ。一号とでも名乗っておけ」
再び、今度は名乗ろうとしたところを邪魔された。A二〇〇〇一番の無表情を張り付けた顔がどこか勝ち誇ったように見えるのは、私の気のせいに違いない。
「ありがとうございます」
大仰に頭を下げてみせ、ここでようやく、
「ところで、お前の好きなものはなんだ?」
と、思っていたが、またしてもA二〇〇〇一番は私の言葉を舌先に捕らえて逃がさない。
これはもう確信犯に違いない。そう思い至り頭を上げたのだが、A二〇〇〇一番は特にタイミングを計る様子もなく口を開いた。
「ちなみに、俺は好きなものがない」
「……私は、甘いものが好きです」
それが私の第一声となった。
……なにがとは言わないが、大変不満である。
A二〇〇〇一番は私の言葉に頷き、不機嫌そうな表情を崩さないまま、
「俺は甘いものが大嫌いだ。甘いものが好きな奴も含めて、この世から欠片も残さずなくなってしまえと常日頃から考えている」
そう断言した。
こいつ……それをわざわざ私の前で言うか? ものの好き嫌いは個人の自由だが、その個人まで否定するのは気が狂っているとしか考えられない。
日当十万という高額な給料にまんま釣られてしまったが、どう考えたってこんなゴミクズみたいな主人の下で働ける訳がない。
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